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ボール盤の再生(2015.12.13)

県内稲敷郡阿見町にある「井出電機製作所」を訪問した際に、写真のような立派な
ボール盤を頂戴してきました。長年にわたり製作所で利用され、もうお使いにならない
そうですが、プロの手によって操作・調整されてきただけにその現状態は極上です。
主軸の回転はブレもなく、ハンドルによる上下はスムーズです。静かで調子の良い
電動機とほとんど傷のないテーブル面には、中古機の常識が当てはまりません。
 

長年製作所内で頼りにされ働き続けたことが分かります。
油染みに覆われていますが、「傷」が見当たりません。
 

上下送りハンドル3本のうち1本が脱落しています。ベテランの
職人さんは2本の方が操作しやすいことを後日知りました。
 

型式プレートにより、株式会社キラ・コーポレーション
ボール盤「KND-8」であることが分かります。
 

株式会社キラ・コーポレーション(昭和2年
より90年近く続く老舗)のWEBページです。
 


KND-8は昭和40年発売のボール盤です。平成25年まで
製造・販売され、現在もWEBに製品の紹介があります。
 

 WEBに掲載の仕様一覧

 ・振り 254mm
 ・ドリリング能力 S45C:Φ2~5、FC200:Φ2~6.5
 ・主軸のとテーブルとの最大距離 289mm
 ・主軸とベースとの最大距離 383mm
 ・主軸の上下動 60mm
 ・主軸端のテーパ JT No.1
 ・コラムの直径 Φ60mm
 ・テーブルの大きさ □196mm
 ・テーブルの上下動 289mm
 ・主軸回転速度(50Hz) 850/1750/3400
 ・主軸回転速度(60Hz) 1000/2100/ 4100 
 ・電源 単相100V、三相200V
 ・電動機 0.2kW 4P(開放)
 ・Vベルトの寸法 M-33
 ・機械の総高さ 687mm
 ・機械の質量 33kg
 ・ベースの大きさ(前後×左右) 210×362mm

製造終了品にもかかわらず「分解図・
パーツリスト」をダウンロードできます。
 

テーブルとベースの状態です。経年変化で黒く変色して
いますが、絶えず油が補われ錆の成長痕が皆無です。
 

コラムの建付けも堅牢そのものです。テーブルが
スムーズに上下し確実にロックします。
 

電気配線は当時の法令に準拠した仕様で
配線材料(被覆)の劣化が進んでいます。
 

電動機は三菱電機社製、単相100V用、
出力0.2kWの分相起動誘導型です。
 

保安基準の違いにより、初期型KND-8は
スピンドル側にしかカバーが付いていません。
 

8.0mmのチャックが付属しています。
FC鋳鉄で6.5mmまで切削可能です。
 

再生整備に備えて、上下送り
ハンドルを取り外しておきます。
 

年代物の電源スイッチです。銘板や
止めネジにも錆が回っています。
 

動作テストのため電源コードをコンセントに差し込み、電源スイッチを入れた瞬間、バチンと
いう音がしてどこかがショートしました。電源コード被覆の一部が吹き飛んでいます。
 

電源の引き込み線と電動機配線の接続部分に異常が
ありそうです。保護のビニルテープを解いてみます。
 

ビニルテープの内部はこの状態です。黒く焼け
焦げています。ショートによるものでしょう。
 

電動機からの配線端は圧着端子で処理されています。
電源からの配線は金具の穴に絡げてあるだけです。
 

ビニルテープによる絶縁保護が劣化したのか、
ショートにより電源コードの芯線も焼けています。
 

電源スイッチを取り外してみます。旧式の
簡易な開放構造で頼りない印象です。
 

電源の引き込み線の途中に、スイッチが
割り込んでいるような配線です。
 

電源コードの規格が古く、かつ劣化により被覆から
柔軟性が失われています。交換が必要です。
 

電源スイッチを取り外し、元の
電源コードを取り去りました。
 

本体の整備を進めます。スピンドル側に
のみついているカバーを外します。
 

電動機はベースプレートを介して
ボルトでヘッド部に固定されています。
 

ベースプレートはノブを出し入れすることで
ベルトの伸縮方向に移動することができます。
 

ベースプレートが前後に移動すると
ベルトのテンションが調整されます。
 

ノブとともにベースプレートが外れました。手が
届きにくい部分なのでゴミが積もっています。
 

ピニオンシャフトを抜き、スピンドルをユニットごと
取り外しました。清掃の後グリスアップします。
 

コラムトップのキャップを外します。
当時はマイナスのネジ溝が主流でした。
 

コラムにヘッド部を取り付ける構造として、貫通穴にする
必要があり、目隠しを兼ねたキャップを当てたのでしょう。
 

本体のクリーニングにかかります。固着した油染みは住居用
洗剤・灯油・塗料用シンナー、いずれも歯が立ちません。
 

あまり気は進みませんが、アセトンを使用するとみるみる
汚れが落ちます。塗装膜も傷めるので気を付けます。
 

少量のアセトンをウェスに浸ませて丹念に汚れを擦ります。所々に傷があり剥げた
箇所があるものの、塗装膜は十分に綺麗でクリーニングのし甲斐があります。
 

丁寧に扱われてきたせいか、目に付く
ような傷みはほとんどありません。
 

スイッチの周りもここまで綺麗になりました。
ヘッドの内部は掃除機で吸っておきます。
 

ピニオンシャフトは表面メッキ仕上げなので
研磨剤を付けて軽く磨き上げるに留めました。
 

スピンドルブラケットは、スピンドルを引き抜いた
際に、取り外してクリーニングしておきました。
 

本体のクリーニングを終え、取り外したままの
配線を修理します。電源コードを新しくします。
 

電源コードのビニル被覆表面を一部カットし、内部の
ビニル線を片方だけ取り出してスイッチに配線します。
 

スイッチの銘板表面をクリーニングし、
止めネジも頭を研磨しておきました。
 

ヘッド部横に開けられた穴を電源コードが直接出入り
しています。ビニルテープを厚めに巻いて保護します。
 

電源コードの引き回しおよびスイッチ周りの整備が完了です。
本当はもう少し容量が大きく耐候性のあるコードが必要です。
 

電源の引き込み線に圧着端子を取り付けます。
安全かつ確実に接続しなければなりません。
 

双方に圧着端子が付いているので
金具の穴にネジを通して締め付けます。
 

圧着端子により完全に接続された上から、ビニル
テープを十分に巻き付けて絶縁・保護します。
 

息を吹き返してきたボール盤ですが、テーブルと
ベースの変色は研削以外に改善法がありません。
 

井出電機製作所は最先端のNC加工機を駆使する
実力派企業です。研削盤も大変充実しています。
 

そして設備もさることながら、加工機を操る
熟練の職人さんが数多く活躍されています。
 

ダメもとでお願いしてみたところ、ご多忙にも
関わらず直ぐに加工して下さることに。
 

こちらが井出電機製作所の井出社長。大変気さくな方で、社員の方々
職人の皆さんから信頼され、会社を大きく発展させておられます。
 

実際に研削を始める前に、ワークの基準面や固定方法、
研削方向や研削量を慎重に決めます。さすがプロです。
 

自動送り装置と手動による送りを巧みに組み合わせて操作
しているようです。職人さんの動きはほとんど芸術です。
 

ベースの方が先に仕上がってきました。正確な平面を
出すために、予め接地面側を研削して下さいました。
 

ベース上面の仕上がり具合です。コラム取付け面も
一緒に研削して下さったので完璧な水平が出ます。
 

仕上がった研削面です。経年変化で黒く変色したベース面に、鋳鉄の美しく生々しい地肌が
蘇りました。テーブルの方はもう少し時間がかかるので、後日あらためて伺うことに・・・
 

恐縮にも井出社長のご好意で工房まで送って下さいました。
翌々日に届いたテーブルはベース同様見事な仕上がりです。
 

研削のため分解したコラム・ヘッド部です。
こうなると残りの部分にも手を入れたくなります。
 

テーブルのコラム支持部です。塗装面の
油染みが外観を損ねています。
 

テーブルの周囲側面も塗装が施されて
おり、汚れがこびり付いています。
 

アセトンを使って油染みを溶かしながら
ウェスで汚れを落していきます。
 

塗装面に多少の傷があり、黒く変色した地金が見えて
いるのは仕方ありません。全体的には非常に綺麗です。
 

汚れの大部分が落ちてすっきりしました。

 

コラム取り付けベースも黒く変色が進んでいたので、
錆取り専用のケミカル剤に浸して処理しました。
 

コラムをベースに固定するボルトです。
汚れに錆が加わり古さを醸し出します。
 

ボルト頭部の側面と平面の汚れを、
サンディングで落としました。
 

光沢の戻ったボルトでコラムをベースに固定します。錆を除去
した後は、水置換タイプの防錆材を十分吹き付けておきます。
 

テーブルをコラムに通します。コラムのシャフト表面も
軽く研磨しておいたので、実にスムーズに入ります。
 

クランプボルトおよびハンドルも、
ワイヤブラシでクリーニング済みです。
 

ヘッド部を載せます。ガタは確認できません。欠損していた
送りハンドルは井出社長が保管されていました。さすがです。
 

6角穴の留めネジでヘッド部を
コラムに完全に固定します。
 

アセトンを使ってクリーニングした結果、
「KIRA」の金色が落ちてしまいました。
 

安く仕上げようとダ○ソーのホルムアルデヒド
入り(?)マニキュアを使おうとしましたが・・
 

溶剤によって金粉が拡散しまるで定着せず、
水性の汎用ペイントに変更することに。
 

マスキングが面倒なので、細い面相筆で
文字の表面に塗料を少しずつ置いていきます。
 

3回ほど塗り重ねた結果、往時の「KIRA」金文字が復活しました。
凛々しい印象が漂い、堅実に築かれた製品の誇りを感じます。
 

再生作業の最後は、老朽化したVベルトの
交換です。一部は切れかかっています。
 

キラ・コーポレーションのWEBにある技術資料に、
M-33と指定されています。通販で購入しました。
 

新品のVベルトをプーリにかけます。
V溝にしっとりと馴染みます。
 

再生作業を終えたKIRA製ボール盤
KND-8の右側面(送りハンドル側)です。
 

再生作業を終えたKIRA製ボール盤
KND-8の左側面(電源スイッチ側)です。
 

研削加工によって完全に新品となり、鋳鉄の
輝きを放つテーブルとベースの定盤面です。
 

井出電機製作所というプロ集団の中で保守され、
不用意な損傷が皆無の優秀な中古加工機でした。

 

基本的な加工機を大切にしながら、最新NC機を駆使する
井出電機製作所。ご紹介できる機会があれば幸いです。

 

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