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化粧鏡台の修復過程 その1


知人のお母様が他界され、遺品のひとつとなっていた化粧鏡台です。故人とともに
昭和の中期から平成を過ごした、当時の生活を偲ばせる婦人用の調度品です。
組み付けや塗装の劣化が進み、処分を検討されていたものを、了解をいただき譲り
受けてきました。間近に見ると、我々を育て上げた母親世代女性の色香を感じます。


 
 1.外観


工房に運び込んだのは一昨年2016年10月。その直後に
途中まで作業した後、ほぼ1年間何も手を付けずにいました。
 


鏡の高さ1200mm、横幅220mm。
引き出しを含めた全高は1270mm。
 

引き出しの横幅515mm、奥行き270mm、
高さ230mm。鏡の角度を調整できます。

 

見事な玉杢の広がる「桑」の突き板が、
全面に丁寧に張り付けられたものです。

 

引き出しの面板、木口・木端面も突き板加工されています。
中央の引き出し面板には、さり気なくも優雅な曲面加工が。
 

高さを変えた5杯の引き出しには、様々な
化粧品・用具が仕舞われていたことでしょう。
 

引き出しを開けると、中には化粧品の、おそらく
白粉のものと思われる香りがまだ残っています。



鏡を保持する木枠にもまた優雅な加工が
施されています。内側に出るR加工です。

 

左右の固定ネジを緩め、鏡を取り
外します。手作りされたツマミです。

 

本体の修復作業を先に進めるので
鏡は別途安全な場所に保管します。

 

鏡を支えている支柱です。かなり重量のある
鏡ですが、補強金具など一切使用していません。

 

支柱は本体天板に彫られた
溝に強く嵌め込まれています。

 

溝の幅が前後で異なっており、奥側から差し
込み手前方向に滑らせると固定する構造です。

 

奥側から見た溝です。この厄介な形状が
手作業で正確無比に加工されています。

 

左右2本の支柱の間に、横方向の剛性を保つ
補強材が入ります。粋な装飾が施されています。

 

支柱の足裏に何やら書き込みがあります。
残念ながら、まだ解読できていません。

 

引き出しを全て取り出します。修復
作業前の分解はここまででしょう。

 

繰り返し引き出しが出し入れされたことで
開口部周囲の木端面が著しく傷んでいます。

 

普段は眺めることのない背面側です。
手を抜くこともなくそつのない造りです。

 

簡素かつ小洒落た造作の脚が
底面に取り付けられています。

 

横倒しにして底面を確認します。全体の
構成母材は桂材・・のように思います。

 

底面にも筆書きされた文字があります。
「杉六ノ七参尺」、。

 
 2.引き出しの修復


先に5杯の引き出しの修復を進めます。長年にわたり手先が
触れ頻繁に出し入れされたことで、傷みが全体を覆っています。

 

面板の周囲は、細長く切り出された突板で丁寧に
縁取りされています。所々剥がれて欠損があります。

 

同じく面板の上側木端面も、塗装が
劣化し小さな傷が連続的に見られます。

 

面板に取り付けられている引手金物
です。丁寧に手加工された真鍮製です。

 

引手金物を取り外します。引き出し内側は赤茶色に
塗装され、引手の固定ピンを隠すキャップが見えます。

 

薄い真鍮板を打ち出して作られています。
2か所の爪で面板に打ち込まれています。

 

引手の固定ピンが面板裏側で折り広げられて
います。ドライバーの先でピンを起こします。

 

起き上がったピンの隙間にニッパーを
差し入れ、ピンを途中まで閉じます。

 

ニッパーではピンを切断する危険があるので
最後はラジオペンチでピンを閉じます。

 

引手金物を手前に引き抜きます。金物に僅かに残って
いる塗膜から、元の塗装色は黒色だったようです。

 

引き出しの修復方針は、外部に露出する面板の
表面および面板周囲の木口・木端を再塗装します。

 

面板以外の部分には桐材が使われて
います。軽く研磨するだけに留めます。

 

ベルトサンダーに当てて、表面に付着した
汚れや荒れを必要最小限に落とします。

 

赤茶色に塗装された引き出し内側には一切
手を加えません。往時の名残りを温存します。

 

面板を研磨します。塗膜が硬く電動マルチサンダーを
使用します。薄い突板を傷めないよう慎重に作業します。

 

木口面に張られた細長い突板が一部欠損して
います。木工パテで補修しなければなりません。

 

取り外した引手金物を再塗装します。
艶消しの黒色スプレーを吹き付けます。

 

細かな部品は針金のハンガーで吊るした状態で塗装します。
引手金物を再塗装するだけでも、家具の見栄えが格段に向上します。

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