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ピアノ用椅子の修復 座板複製編(2016.11.2)


市内にある私立幼稚園からのご依頼です。破損してしまったピアノ用の
椅子を修理することになりました。背面のレバーで高さを調節できる
伝統的な構造です。破損に加え全体的な傷みも深刻で、修理(元通り
使えるようにする)ではなく修復する(元の状態を再現する)ことにします。

 
 1.状況の確認

伝統的・オーソドックスなデザインで、
ピアノに合わせた黒で塗装されています。
 

引き取りの際に職員の方から、座板が
折れている、と伺っておりましたが・・
 

工房に持ち運んでよく観察して
みると、大変なことになっています。


座板の後部7~8cmの部分が
横方向に完全に破断しています。
 

座板は表・裏ともに表面の数mmだけが
合板で、中はパーティクルボードのようです。
 

工作台上に載せて上下両側から
作業できるようにします。
 

座板の中央部にはめ込まれたクッション板を
取り外します。ほとんど接着剤が効いていません。
 

クッション板を覆うレザーシートに
1か所大きな穴が開いています。
 

下側には座板を昇降させる
機構が備わっています。
 

堅牢な金具が座板と脚部の
両方にネジ止めされています。
 

座板後部に取り付けられている、昇降を
ロック・解除する金具を取り外します。
 

座板を昇降させるパンタグラフ機構の
金具を、脚部から取り外します。
 

パンタグラフ金具の他端は、座板の前方に取り
付けられている金具で前後にスライドします。
 

座板を完全に分離できました。金具に座板の
荷重が加わる手前位置で破断しています。
 

パーティクルボードは芯内部まで材質の
劣化が進み、手の施しようがありません。

 

体重が加わる座板に、そもそも強度に劣る
材料が使用されていることに疑問を感じます。

 
 2.座板複製

一度は修理を考えましたが、次々に破断面が
崩壊していきます。諦めて複製に挑みます。
 

元のパーティクルボードは実測で19mm厚
ですが、18mmの合板で同じものを作ります。
 

破断面を一時的につなぎ合わせ、
合板の上に重ね置いて型を取ります。
 

サインペンで周囲をなぞり、元の
微妙なカーブを写し取ります。
 

ペン先の太さ分を材料の
切り代と仕上げ代にします。
 

金具の取り付け部周辺には、複雑な
切り込みと溝加工が施されています。
 

破片を丁寧に復元しながら溝や
切り込みの位置を決定します。
 

幅や深さの異なる溝を、正確に加工しなけ
ればなりません。先に外形を切り出します。
 

直線部分は昇降盤で
簡単に切断できますが、
 

緩やかな曲線部には
バンドソーを利用します。
 

バンドソーで座板の前縁
部分を切断しました。
 

後縁左右の切り込み部分も
バンドソーで加工します。
 

低出力で非力なバンドソーですが、このような
微妙な曲線を含む切断には非常に便利です。
 

どうしても鋸による切断痕が残ります。
ペン先太さ分の仕上げ代を使います。
 

切断面をベルトサンダーに当てて
切断痕を一挙に削り落とします。
 

合板の断面は接着剤の影響も
あり、かなり硬い状態です。
 

隅のR部を仕上げます。滑らかな
Rを再現しないと美観を損ねます。
 

ハンドサンダーを垂直に当て、
仕上げ線まで削り込みます。
 

金具取り付け部の切り込みも
ハンドサンダーを入れて仕上げます。
 

合板の木口・木端面なので仕上がりには限界があります。
プラサフで表面を処理するので、この程度で十分です。

 
 3.溝加工

座板の複製作業で厄介なのは、
金具取り付け用の溝加工です。
 

左右のロック爪が収まる溝を掘ります。
直線なので昇降盤で加工できます。
 

プレートの両端にある補強板の干渉を
避けるため、両端を数mm掘り下げます。
 

ここからはトリマーを使用します。加工に失敗
する確率、怪我の危険ともに高まります。
 

切り込みの底を平面に仕上げるため
ストレートビットを取り付けています。
 

ルーターよりも低出力とはいえ、凄まじいバック
ラッシュに晒されます。クランプで固定します。
 

金具取り付け部の左右と中央に計3か所の切り込みを加え
ました。金具の下に隠れるのでこの程度の仕上げで十分です。
 

実際に金具を置いて、当たり具合を確認します。リリース
レバーの逃げ込み先など、まだ加工を追加する必要があります。
 

座板の中央部には、レザーシートで覆われた
クッション板が取り付けられています。
 

クッション板は座板に加工された
浅い溝に半分ほど埋まっています。
 

この溝加工を省くと、大きく美観を損ねる
ので、何とか再現しなければなりません。
 

中から取り出した合板を重ねて
溝の形状を型取りしました。
 

広い面積を均一に掘り下げなければなりま
せん。10mmのストレートビットに交換します。
 

気が遠くなる作業です。トリマーの
ダストと騒音に長時間晒されます。
 

溝掘りは必ず基準面を確保しながら進めます。中心から
周辺に向かって作業しないと最後は孤島に取り残されます。
 

周囲の仕上げ位置まで1cmほど
残して、一度作業を中断します。
 

ビットの外周からベース端までの距離を把握し、
仕上げ線から同距離の位置にガイド材を固定します。
 

周囲の仕上げはガイド材に沿って
正確な直線に加工します。
 

ガイド材が位置決めの冶具となり、
安心して作業を進めることができます。
 

ただし、4隅のR部分にガイドはありません。
全くの手作業で息を止めながら仕上げます。
 

溝加工の作業を終えました。所々に。彫り残しがありますが、
基準面がなくトリマーは使用できません。手作業で取り除きます。
 

クッション板の合板を入れてみます。
この合板は再利用します。

 

ぴったりです。しかし、レザーシートで覆うと
厚みが加わるので、鉋で僅かに周囲を削ります。

 
 4.座板塗装

座板の塗装にかかります。黒で不透明塗装する
ので、合板の木目を完全に潰してしまいます。
 

プラサフを数回塗り重ねますが、それでも隠れ
ない木目や表面の傷には木工パテを当てます。
 

プラサフを吹く度にサンドペーパーで
表面を研磨し平滑に仕上げます。
 

元の座板は塗装仕上げではなく、化粧合板が使用
されていたようです。艶消しの黒スプレーを用意します。
 

プラサフによる下地が出来上がっていれば
スプレーによる上塗りは難しくありません。
 

吹き付け直後なので塗装面が
濡れていますが、やがて艶が消えます。
 

クッション板が入る溝中央部分は塗装を省きますが、
周囲の立ち上がり部には塗料をしっかり入れます。
 

裏面(下側)は下塗り・仕上げ
塗りとも若干手を抜きます。
 

金具を収める溝の奥まで塗料が行き届いていることを確認します。
座板が複製できれば、修復作業の大きな山を越えたことになるでしょう。

 

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