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玄関造り付け靴箱の改装(2022.4.30)
 

玄関脇に造り付けられている靴箱です。住宅の建築時に大工さんが
製作して下さったそうです。費用を抑えるためか、表の引き戸が合板
製で、特に塗装もされておらず経年により外観が損なわれています。
 
 

シナ合板は新品時には綺麗で肌触りも良い
のですが、変色しやすく汚れも目立ちます。

 

急場しつらえだったのか、表面に穴を
開けることで取っ手を省略しています。
 

合板1枚のみで高さ140cmの縦長形状は
あまりに剛性が足りず、大きく撓みます。

 

引き戸の上下にはガラス戸用の
樹脂製レールが流用されています。

 

下側のレール受け材は通気を考慮したそうで、
本体から隙間を空けて取り付けられています。

 

不思議なことに、下側のレールにも
上側用と同じ深溝タイプが使われています。

 

取りあえず4枚の引き戸をお預かりし、工房内で
化粧塗装します。明るいリリーホワイト色です。

 

劣化したシナ合板表面が
一挙に明るく蘇ります。

 

靴箱のグレードアップを目指すならば、例えば引き戸を厚手の
ガラスに置き換える方法があります。不透明の強化摺りガラスで
費用見積もりを出したところ、ガラス材だけで7万円を超えてしまい
当然のごとく即却下となりました。合板を再利用するしかありません。

 

下側の引き戸レールを交換します。
下側用の浅溝タイプです。

 

ゴム系接着剤を入れ
クリップで固定します。

 

改装のもう一つの目的は、開閉をスムーズにすることです。合板切断面が
直接レール内をスライドするのでは軽く動かせるわけがありません。新たに
戸車を取り付けることを考えます。網戸用で厚みが一番小さいものを用意
します。車輪の軸周りにベアリングが組み込まれた耐荷重性の高いものです。

 

車輪の厚みはレールの溝幅に
適合し、驚くほど軽く走行します。

 

しかし、大問題は合板の底辺に
どのように取り付けるかです。

 

まる1日考えて編み出した
工房オリジナルアイデアです。

 

戸車のサイズを合板底辺の
左右端に写し取ります。

 

レーザーソーで横方向に
最初の切り込みを入れます。

 

戸車の金属製ブラケットの高さで、片方の
支持部と車輪幅を含む長さだけ切り込みます。

 

次に車輪が収まる空間を確保するため、
車輪幅の位置で縦方向に切り込みます。

 

この小さな木片を
切り離します。

 

金属製ブラケットの支持部を
最初の切り込みに差し込みます。

 

これだけで戸車が固定され
ほぼ十分な強度が出ます。

 

反対側も同じように加工します。最小限の
切り込みを入れるだけで簡単に固定できます。

 

お気づきかと思いますが、これでは支持部の
片側が引き戸の外に出てしまいます。そこで、

 

ブラケット支持部の片方を
金切り鋸で切り落とします。

 

切り口が鋭利なので軽く
ヤスリを当てておきます。

 

戸車を取り付けた状態です。引き戸底辺下端より戸車が少しはみ出ています。
この分だけ引き戸の高さが増えているはずなので、後で調整することにします。

 

もう一つ問題があります。支持部の
端が外側に開いた形状をしています。

 

このままでは引き戸同士が引き違う際に、
突起が互いに干渉する可能性があります。

 

ペンチで曲げを戻すことで干渉を回避させます。合板がただ嵌め
込まれていた状態よりも、はるかに軽快な開閉が期待できそうです。

 

接着してしまったレールですが、ある
問題に気付きいったん引き剥がすことに。

 

2枚の引き戸を仮に入れてみたところ、交差時に
まだ干渉します。レールの間隔が狭いようです。

 

そこで、中央にある仕切りの右側または
左側ギリギリのところで切断します。

 

仕切りを残した方を、同じ
長さで2本用意します。

 

2本分の仕切りを挟み並べると、2本の溝の間隔が仕切りの
厚み分だけ広がります。切断する前の元のレールと比較します。

 

上側のレールは元のままで良いと考えていましたが、
下側レールと同じように間隔を広げる加工をします。

 

隙間にドライバーを入れて
接着を剥がします。

 

下側レールと同じように、仕切り
ギリギリの位置で切断します。

 

同じ長さのレールを2本用意し
並べると、溝の間隔が広がります。

 

上側レールも2本並べて接着しますが、手前側
(写真左側)のレールは接着剤を入れていません。

 

位置を決めるために手前側レールも
挟んでいるだけで、後で接着します。

 

接着できた時点で手前側レールを
いったん外しておきます。

 

ちょうどレールを外したあたりを
狙って、数か所にネジ穴を開けます。
 

ネジ頭が出ないように
皿モミしておきます。

 

最後に、現場で作業しやすいよう
固定木ネジを途中まで打ちます。

 

上側のレール受け材は、木ネジを垂直に打つので固定が簡単
です。他方、下側レールの受け材には元々靴箱本体との間に
通気用(?)の隙間があり、固定するには少し工夫が必要です。
そこで、隙間を埋めながら受け材を固定する部材を用意します。

 

引き戸の建て付けにほとんど気密性が
ないので、隙間はなくても良いでしょう。

 

この部材は靴箱本体に対し水平方向に
固定します。予め木ネジを打っておきます。

 

もちろんこの部材にレール受け材を固定しなければ
なりませんが、先に固定すると木ネジを打てなくなります。

 

連結・固定するための合板を、部材の
裏側(底側)にだけ木ネジで固定します。

 

合板と受け材の固定は現場で行うことにし、
予め木ネジを途中まで打っておきます。

 

この状態で現場に搬入します。
工房での準備は以上で完了です。

 

必要な材料を携えて再びご依頼者の御宅に伺います。使いやすくて
見栄えも良くしてほしいとのご要望にお応えすることができるのか、
今一つ見通しが持てませんが、できるだけ費用をかけずまぁまぁの
線を狙います。計画した通り手際よく作業を進めることにします。

 

最初に、上側のレール
受け材を取り付けます。

 

正確に位置を合わせ、クランプで仮固定します。
たったこれだけのことを省くから・・ずれるのです。

 

予め木ネジを打ってあるので
作業はホイホイです。

 

皿モミしてあるとはいえ、ネジ頭が
完全に隠れるまでねじ込みます。

 

接着を見合わせておいたもう半分の
レールを、ここで取り付けます。

 

ゴム系接着剤を両面に塗り付け、
しばらく乾燥させてから圧着します。

 

下側レールの取り付けに移ります。元の
支持金具は不要なので取り外します。

 

途中まで加工済みの部材を先に取り付け
ます。レール受け材はこの後で取り付けます。

 

予め木ネジを打ってあるので
ここでも作業はホイホイです。

 

追加した部材だけ色合いが大きく異なりますが、
引き戸の陰に隠れるのでそのままにします。

 

続いて下側のレール受け材を取り付けます。
底面から突き出た合板の上に仮置きします。

 

引き戸を入れてからでないと
木ネジを締め込めません。

 

上下レール受け材の取り付けを終え、引き戸のしつらえに入ります。
ご依頼者宅前の道幅が狭いので、セカンドカーの軽で出かけています。

 

塗装の完了している引き戸を
ご依頼者宅に運び入れます。

 

上下レールの間に引き戸を1枚入れて
みます。先に引き戸の高さを調整します。

 

戸車車輪飛び出し分、上下レールの
厚み分を相殺しなければなりません。

 

実測(現物合わせ)の結果、
10mmほど高さを詰めます。

 

5.5mm程度の合板は、大型カッター
ナイフで切断する方法が簡単で綺麗です。

 

さて、合板の撓みの大きさに対処するため
アルミ製L型チャンネル材を用意します。

 

先ほど高さを調整した引き戸のサイズを基に
チャンネル材を必要な長さに切断します。

 

1本切断したところで、その長さを
コピーしながら計8本を用意します。

 

引き戸の左右両側で高さ方向にチャンネルを
貼り付けることで、撓みに対する強度を高めます。

 

チャンネルの固定には強力
タイプの両面テープを使用します。

 

普通タイプと強力タイプで、両面
テープの粘着力はかなり違います。

 

剥離紙を取り去ります。テープ面を
汚さないよう手際良く作業します。

 

アルミチャンネルを貼り付けます。粘着力が強いので
貼り直しはほぼ不可能です。一発で決めます。

 

使いやすさと外観を考慮し、L字の立ち上がり
部分が引き戸の内側に来るようにします。

 

反対側にも貼り付けます。十分とは
言えませんがまぁまぁの剛性です。

 

4枚の引き戸に同じ作業を繰り返します。
アルミの金属質が程良いアクセントになります。

 

上下レール間に完成した引き戸を入れてみます。ベアリング
入り戸車の効果で、比較にならないくらい軽くスライドします。

 

靴箱の前に引き戸を並べるだけで
何か雰囲気が明るくなってきます。

 

4枚とも引き戸を入れると、いよいよ
改装後の印象がはっきりしてきます。

 

撓み対策で合板補強のため貼り付けたアルミ製
チャンネルですが、アクセントとしても悪くありません。

 

最後に下側レール受け材を
底面の合板に固定します。

 

予め木ネジを打ってあるので
ここもホイホイかと思いきや・・

 

玄関上がり部分では電動ドライバーが入りません。
ビットの方向を変えるアタッチメントを使います。

 

作業完了です。今一つ見通しが持てなかった改装ですが、
まぁまぁ・・いや守谷工房的には上々の出来・・です。

 

と言いますのも、7万円以上もするガラス戸などに交換せず
元の古びた合板を再利用した改装ですから、最小限の費用で
済みしかも廃棄物が出ていません。実は、同時期に工房の
パートナーがこのお宅の脱衣室で壁面を塗装させていただき
ました。引き戸を塗装したペイントは、その作業の余りです。


 

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