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アンティーク椅子の修理(2018.6.8)
 

背もたれの形状からバルーンバックチェアと呼ばれるアンティーク椅子です。
リビングやダイニングで広範囲に利用できる実用性の高い家具です。座面や
背面の布地張り替えであったならば、間違いなくお断りしていたところです。
 
 

何にでも手を出す守谷工房ですが、椅子の
張り替えは専門職人さんにお任せします。
 

問題は座面の裏張りが、この通り
布地が劣化して破れ放題です。

 

そして、座面のクッションを担うスプリングを
幅広のベルトで押さえ付けているのですが・・

 

ベルトがいたるところ破断し、支えを
失った結果座面が大きく凹んでいます。

 

さらに、背もたれ(バルーン)の一部で接着が剥がれ、フレーム構造が
ぐらついています。このような範囲内の修復であれば十分承り可能です。

 

まず、背もたれの破断を修理します。元々接着
されているものなので、同じ方法で修理します。
 

破断部分をできるだけ引き離し、
隙間に接着剤を送り込みます
 
 
刃の薄いナイフで隙間の奥まで
接着剤を十分行き渡らせます。
 

引き離していた隙間を、逆に元の位置に
重ねます。接着剤が一挙にはみ出てきます。
 

材料に歪みがあるため、正確な位置に戻り
ません。クランプをかけて位置を矯正します。

 

破断部分の前後位置は、この
クランプが正確に合わせてくれます。
 

クランプだけでは接合面の密着が十分保たれているか
心配です。左右方向に長いクランプをかけて圧着します。

 

作業途中から大量の接着剤が
周囲にはみ出てきています。
 

木片などではみ出た接着剤をあらかた
取り除き、濡らした布で丁寧に拭き取ります。
 

次に、スプリングの支えを失い、
底の抜けた座面を修理します。
 

裏張り布は、タッカー(ホチキス)で周囲が固定されて
います。古い針を取り除かなければなりません。
 

硬い鉄製の針が錆び付いているため、簡単には
抜けてきません。ドライバーで起こしてから・・
 

針を折らないようニッパで
少しずつ引き抜きます。
 

丁寧に製作されている・・のでしょう、1辺
だけでこれだけの針が打ち込まれています。
 

スプリングを支えるベルト(下面側)がほとんど
切れています。長期間擦れて破断したようです。

 

ベルトを新しいものに交換します。ホーム
センターの安全具コーナーにありました。
 

元のベルトと完全に同じ張り方にするため
確認しながら1本ずつ交換していきます。
 

3本の大きなスプリングを定位置に保つ
ため、ベルトの張り方が工夫されています。
 

左右方向のベルトから取り替えます。古いベルトを取り
除き、タッカーを打ってからベルトの先を折り返します。

 

折り返した上から2重にタッカーを打ちます。
大きな張力が加わるので厳重に固定します。
 

後で裏張りを固定するスペースを
残しておきます。針の跡が見えます。

 

左右方向もう1本のベルトを張ります。
スプリングのひと巻目の下に入れます。
 

スプリングを抑え付けながら、ベルトを
強く引いた状態で固定します。
 

左右方向、前後2本の
ベルトを交換しました。
 

続いて前後クロス方向に張られた2本を
交換します。古いベルトを取り除きます。
 

ベルトの取り回し方が巧妙です。スプリングの
外側から入れて左右方向ベルトの下をくぐらせます。
 

このようにくぐらせることで、不安定なスプリングが
定位置に保たれます。ベルト端にタッカーを打ちます。
 

先端を折り返し、タッカーを2重に
打ちます。椅子職人の気分です。
 

他方の端を強く引き、
ベルトのたるみを取ります。
 

強く引いた状態でタッカーを
打ち、ベルトを固定します。
 

ベルトの端を折り返し、
タッカーを2重に打ちます。
 

もう1本の前後方向ベルトは、最初の
1本と斜めにクロスするように張ります。
 

ここでもスプリングの外側から入れ、左右方向ベルトの
下側をくぐらせることでスプリングの位置を固定します。
 

他端を強く引いた状態で
タッカーを打ちます。
 

ベルト端を折り返してタッカーを2重に打ち
適当な長さのところでベルトを切ります。
 

元通りのクッション性が戻りました。アンティーク椅子なので、座りやすさや疲れにくさが
追及された現代家具とは異なりますが、昔ながらのぽってりとした座り心地が懐かしいです。
 

破れてしまった裏張りを修復します。
布地を交換しなければなりません。
 

タッカーの針を1本ずつ
根気よく抜いていきます。
 

布地の種類などよく分かりませんが、
薄手で通気性の良い生地のようです。
 

色合いが近く薄手の生地を買い求めて
きました。大まかなサイズに切断します。
 

座面周囲の大きさに大体合わせ
ます。布加工はどうも苦手です。
 

手前中央部を、1cmほど折り
返してタッカーで固定します。
 

反対側の中央部、続けて左右の
中央部を順に固定していきます。
 

座面との大きさの違いは、折り返す
長さを増減することで調整します。
 

一定間隔でタッカーを連続して打ちます。布を
軽く引き、張りを持たせた状態で固定します。
 

タッカーを打つほどに、布の
しわが取れ張りが出てきます。
 

椅子職人さんの比ではありませんが、このくらいの
仕上がりでいかがでしょうか。その分お安くしますので。
 

2脚とも座面の盛り上がりが揃い、本来の機能を完全に取り戻しました。
同じアンティークデザインのダイニングテーブル、リビングテーブルに
組み合わされると、室内にさぞ優雅な雰囲気を漂わせることでしょう。
 

座面や背もたれの布地張り替えでなくて助かりました。しわを残さないだけでなく、
曲面に沿って布地の張り強度を均一に保つことは至難です。しかも絵柄の位置を
正確・適切に決めなければなりません。椅子張り替え技術の奥深さを感じます。

 

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