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海外製骨董品的椅子修復(2024.2.4)


守谷工房の業種は、届け出では「家具製造販売業」です。
ほとんど仕事をしていないので、お客さんでそれをご存じの
方はまずおられません。先日CDレシーバーの修理を依頼
いただいた方とお話ししているうちに、家具の修理が話題に
なり、それならばと古い椅子の修理をご用命下さいました。

*画像をクリックすると修復後にジャンプします。
 

海外で購入されたのか輸入品なのか
日本製品にはないデザインと構造です。

 

全体的に簡単な造りで、座板には厚さ
5mmほどの合板が嵌め込まれています。
 

連続する小穴で描かれた模様がお洒落ですが、
長年の荷重によるのか座板が割れています。

 

裏側まで破断が広がり、現状の
まま修復するのは不可能です。
 

元々、補強材なしの薄い合板で人の体重を
支えるには、無理があったと思われます。
 

座板を手で押し上げると、既に
部分的に外れかけています。
 

思い切って木槌で叩き上げ、
本体から座板を分離します。
 

接着剤がほとんど劣化していた
のか綺麗に剥がれてきます。
 

もう1脚には座板の割れは見られません。
ですが、この際2脚とも修復をご希望です。
 

こちらも裏側から木槌で
叩き、手で引き剥がします。
 

まだいくらか接着剤が効いていたのか
合板の一部が剥がれて残っています。
 

本体側に貼り付いている合板の
残骸を、鑿で丁寧に削り取ります。
 

座板が嵌まっていた溝の隅に
接着剤の固まりが残っています。
 

完全に取り去らないと、新しい
合板が浮き上がる原因になります。
 

丸棒と曲木、単材の造形を組み合わせた単純な
構造で、ボルト固定が緩みグラグラしています。
 

しっかり締め直すと、
かなり剛性が戻ります。
 

新しい座板の製作にかかります。5mm厚のシナ合板を使用
します。強度に加えて木目もまぁまぁです。濃い目の塗装をする
ので、天然木化粧合板や突板を使用するほどではないでしょう。
 

ポイントは、本体の溝内に隙間なく
いかにピタリと嵌め込むかです。。
 

元の合板を当てて型取りします。2脚で
それぞれ形状に違いがあるはずです。
 

鉛筆でなぞった時点で、線の太さ
分だけ大きく型を取っています。
 

僅かに大きく型取り、現物に
合わせて成形します。
 

座板2枚分の材料です。どちらの
椅子用かマークしておきます。

 

外形はバンドソーでカットします。滅多に
出番のない機械ですが、無いと困ります。
 

鉛筆の線がぎりぎり残るラインでカット
します。線を丸々残すと成型が大変です。
 

敢えて申し上げれば、鉛筆線を半分残す
ラインでカットできれば成型が楽です。
 

明らかに線の外側でカットされている
部分を、先にベルトサンダーで落とします。

 

一度、本体の溝部分に嵌めてみます。
鉛筆線半本分が大きい感じです。
 

当たりを確かめながら、満遍なく
サンダーで成形していきます。

 

ベルトの番手は先に#240、微調整段階では
削り過ぎないよう#400に換えて成形します。
 

きつ過ぎず緩過ぎず、軽く押し込んで
嵌まるくらいに調整しておきます。
 

本体側溝のライン通り
綺麗に嵌まっています。
 

もう1枚の成型も進めます。木端面を
できるだけ垂直になるよう仕上げます。

 

下面側の外周を僅かに小さく仕上げれば、収まりが
より綺麗になるのですが、無理は止めておきます。
 

2脚分の新しい座板が用意できました。やはり座板を
相互に交換するとほとんど嵌まりません。製品本来の
個体差、あるいは経年による本体の変形が原因です。
 

オービタルサンダーで表面を仕上げます。
#400で汚れを取り除く程度です。

 

表面のシナ材は組織が柔らかく木目も
まぁまぁです。塗装は難しくありません。
 

椅子本体の色に合わせ、オイルステインで
着色します。マホガニー色を使用します。
 

これまで着色剤を色々と試してきましたが、
やはり油性のステインが安定しています。
 

水性塗料全盛の今日ですが、材料に浸透する
水分の蒸散性の悪さは手に負えません。

 

油性は手早い作業が必須とは言え、
着色濃度が1発で決まります。

 

オイルステインによりシナ合板の木目が引き出されています。
元の座板、椅子全体の風合いと比べ程良くマッチしています。
 

強い保護膜を作るため、サンディングシーラーを
上塗りします。水性全盛の中、油性を使用します。

 

溶剤はラッカーシンナーです。有毒性が
あるもののその塗膜形成力はさすがです。
 

水性シーラーの中には、塗膜の硬度不足で
サンディングに耐えないものがあります。
 

半日程度でサンディング可能ですが、丸1日置いて
からペーパー研磨し、シーラーを塗り重ねます。
 

仕上げにクリアラッカーを吹き付けます。
光沢維持にシンナースプレーも併用します。

 

色合いも落ち着き、塗装
作業を完了します。

 

本体に組み付けます。本体側の溝に
接着剤を入れ、座板を落とし込みます。
 

部分的に浮き上がりがあるので
軽くクランプを掛けておきます。

 

2脚分の座板修復はこれで一応終了です。現状通りの
修理ではありますが、このままでは心配が残ります。
座板面積に対して、5mm厚シナ合板の強度は十分とは
言えません。実際、元の座板は破断しかかっていました。

 

そこで、新たに補強材を
入れることにします。
 

座板の裏側に、座面中心を前後方向に
支える棒材を1本取り付けます。
 

サイズを調整し、接着剤を塗って貼り付けます。
さらに棒材の両端で木ネジを打ち込みます。

 

表側から見えないとは言え、椅子の構造や
デザインとは不釣り合いで無粋な補強材です。
 

しかし、強度維持には代えられません。最後に
座面にもう一度クリアラッカーを吹き付けます。

 

作業中に表面に小さな傷や薄い曇りが
できたので、それらを消し去ります。
 

サンディングシーラー、上塗りのクリアラッカーとも、完全硬化には
1週間ほど要します。その前に塗面に強く触れると、傷が付いたり
曇りが生じたり、ビニルなどが貼り付いたりするので注意が必要
です。2液性のウレタン樹脂塗料であれば1昼夜で使用に耐える
状態になるのですが・・。ご依頼主にその旨を添えてお返しします。

 

説明を忘れていましたが、座面に開けられた模様を描く小穴は
ご依頼主の指示で省略してよろしいとのことでした。薄板にこれ
だけの穴を開けてしまうと、座面の強度が著しく低下するでしょう。

*画像をクリックすると修復前にジャンプします。

 

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