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古い額縁の修復その1(2018.2.9)


つくば市北条の商店街通りに古くからお住いの方を訪ねました。
お父様が大事にされていた絵画が何点かあり、いずれも額縁が
老朽化し壊れかけているので修復できないかとのご要望です。

*修復後の写真をご覧下さい。

 

新しく額装することも検討されたようですが、額縁にも
絵画とともに辿ってきた長い年月が刻まれています。

 

絵画の修復は到底無理ですが、額縁の修復であれば
是非お引き受けしたく、4枚の絵をお預かりしてきました。

 

里山を背景に桜が描かれた1枚。内側・外側ともフレームの
銀色塗装が剥がれかけ、キャンバス面も変色しています。

 

外側フレームはコーナー部の留めに亀裂が
入り、汚れや傷が加わり美観を損ねています。

 

背面を確認します。絵画は主に新聞紙で裏打ちされ、
その新聞紙が経年劣化で崩壊しつつあります。

 

左上に作者名と思われる「黎明」が筆書きされています。
手を触れると破れたところから破片がぼろぼろ落ちてきます。

  

まず絵画本体を外さなければなりません。手作りの
額縁でしょうか、釘を打って固定されています。

 

絶対に絵画に損傷を与えてはいけません。
そのため釘を1本ずつ丁寧に抜き取ります。

 

衝撃を与えたり乱暴に作業すると、どこが壊れるか
分かりません。ニッパーで少しずつ引き抜いていきます。

 

ニッパーの腰部分で傷をつける可能性が
あるので、当て板を敷いた上で使います。

 

絵画が額縁から外れてきます。ここまで作業するうちにも
絵画の背面を覆っている紙がぼろぼろ落ちてしまいます。

 

絵画本体は修復作業が完了するまで
別の場所で安全に保管します。

 

簡単な構造の額縁ですがこの絵に合わせて
誂えられたのでしょう。よくマッチしています。

 

有り合わせと言いますか、当時の普及材で製作されて
います。それなりの風合いを復活させたいものです。

 

内側の化粧フレームを取り外します。銀色に
塗装されていますが、著しく劣化しています。

 

材料が腐りかけている部分もあり、慎重に釘を
抜き、元の形を保ったまま取り外していきます。

 

取り付けてあった場所を間違えないよう
フレームの隅にマークを記入しておきます。

 

内側の化粧フレームを外しました。同じ部品を新たに作り直しても良いのですが、ここは元の
部品を塗装し再利用します。できるだけ新しい材料を加えない、修復にこだわろうと思います。

 

次に外側のフレームを外します。全体的に釘打ちにより
組み立てられており、大小の釘が使い分けられています。

 

長い年月で木材内部でも釘が錆びています。
慎重に引き抜かないと中で釘を折りかねません。

 

当時の釘は今のものより硬いように感じます。
錆は釘の表面に留まっておりしっかりしています。

 

四隅の補強材が当てられている部分には
二回りほど大きい釘が打たれています。

 

釘を引き抜く力に周囲の材料が
負け破断する危険があります。

 

面積の大きい台紙部分や補強材に合板が用いられて
います。接着剤の耐久性が低く材質の劣化が見られます。

 

外側フレームと台紙部分を分離します。全体的に材料の劣化が
進んでいますが、構造を維持できないほどではありません。やはり
新しい材料に取り替えるのではなく、元の材料のまま修復します。

 

取り外した外側フレームです。銀色の塗膜が劣化し
至るところ傷が付いて見栄えがよろしくありません。

 

4隅の留め接ぎ部分です。接合が緩み
フレーム全体がグラグラしています。

 

接合が壊れたことで表側にもひびが生じています。
本来ならば分解して組み立て直したいところです。

 

しかし不用意に分解すると材料が崩壊してくる
恐れがあります。瞬間接着剤を流し込み補強します。

 

完全に接合が分離していたわけではないので
瞬間接着剤だけでかなりの強度が出ています。

 

補強を終えたところでフレームの再塗装に
入ります。まず古い塗膜を除去します。

 

マルチサンダーに#120の研磨専用ペーパーを取り
付けて作業します。サンダーを傾けないよう留意します。

 

表面の大きな傷が消えてほぼ
木地が出るまで均一に研磨します。

 

先にパテで傷を修復するべきですが、一度プラサフを
吹いた後の方が傷の箇所を見つけるのが容易です。

 

隅の留め接ぎ部分に隙間が残っています。
目に付きやすい傷を中心にパテを当てます。

 

パテを完全に乾燥させてから手作業によりペーパーを
かけます。サンダーでは削り過ぎる心配があります。

 

再度プラサフを吹きます。3回ほど重ね塗り
することで、目に付く傷は消えてしまいます。

 

元と同じ銀色で上塗りします。光沢は控えめだった
ようなので、普通のカラースプレーを使用します。

 

額縁が製作された当時の爽やかな風合いに戻り
ました。他の部分も同じように復活させたいものです。

 

絵画を取り囲む面積の大きい台紙部分です。合板製の枠にキャンバスが貼り付けられて
います。しかし、キャンバス生地の劣化、特に変色が著しく美観を大きく損なっています。

 

新しいキャンバス生地に張り替える方法が最善ですが、
合板が持ちそうにありません。再塗装により復活させます。

 

キャンバス地の埃を念入りに吸い取り、壁紙用塗料を
塗ります。僅かにアイボリーの入ったリリーホワイトです。

 

変色した壁紙に使用できる高性能塗料で、カビ
防止剤も含まれているので悪くない選択です。

 

変色した地肌が一挙に塗り潰れ、他方でキャンバス地の
繊維質は残っています。品の良さが戻ってきました。

 

3回ほど塗り重ねて台紙の修復を完了させます。これ以上塗り重ねると
キャンバス地の繊維質が潰れ、また往時の面影を消し去ってしまいます。

 

既に取り外してあった内側化粧
フレームの修復作業に入ります。

 

絵画を縁取る木端部分(R加工されている)も
綺麗にするため、表裏両面からプラサフを吹きます。

 

プラサフが乾燥すると、木地の傷んで
いる箇所がよく分かるようになります。

 

大きな傷にはパテを当て、さらに材料が崩壊し
かけている部分は接着剤を付けて補修します。

 

全体に軽くペーパーをかけ
プラサフを重ね塗りします。

 

材料が崩壊し破断しかかっていた部分も
ほとんど目立たない状態に補修されています。

 

外側フレームを塗装した同じ銀色
カラースプレーを吹き付けます。

 

3回程重ねて吹き付けます。光沢をやや
抑えた無難な印象の銀色に仕上げます。

 

内側フレームも四隅は45度の留め接ぎです。
しかし、接合面が合わず隙間が空きます。

 

経年変化により接合面が劣化し、加えてプラサフや
塗料が回り込んで塗膜の凹凸を形成しています。

 

スライドソーで留めを切り直し
接合面を綺麗に整えます。

 

断面を見ると、合板内部に巣が
広がっていることが分かります。

 

接合面を整えたことで、留めが
綺麗に合うようになりました。

 

内側フレームは後で台紙に固定されるのでフレーム
自体の組み立て強度はさほど必要ありません。

 

一発で正確に組み立てるため、
瞬間接着剤を使用します。

 

木材組織に吸収されるため接着剤を多めに充填します。
結果、固化に時間がかかるためテープで固定します。

 

内側化粧フレームも補修作業終了です。非常に小さい接合面を
瞬間接着剤で組み立てているため、大きな力を加えると簡単に
壊れてしまうでしょう。台紙に固定するまでこの状態で保管します。

 

台紙の内側に絵画を嵌め込むためのガイド枠が取り
付けられています。釘が効かなくなり浮いてきます。

 

合板側から釘を打つことができず、ガイド枠側から打たれて
います。打ち込み長さが短く、元々接合力が足りません。

 

いったんガイド枠を外してしまいます。釘に
よる接合は変更した方が良さそうです。

 

ガイド枠に残っている釘を
全て抜き取ります。

 

ガイド枠の材料もあまり材質のよろしくない
柔らかい木材です。慎重に釘を抜きます。

 

額縁全体の強度は、主にガイド枠と台紙の接合強度に
依存します。釘ではなく接着剤による接合に変更します。

 

釘穴の位置を基準に、元通りの
位置に正確に取り付けます。

 

周囲を満遍なくクランにより固定し
接着剤が固化するのを待ちます。

 

内側化粧フレームを台紙に取り付ける段階です。強度を
持たせるため、ここも接着剤による接合に切り替えます。

 

塗装面に木工用接着剤が効かない可能性があるため、
フレームの一部にペーパーをかけ塗装膜を落とします。

 

エポキシ接着剤を使えば塗装面でも
接着できますが、作業性が良くありません。

 

塗装膜を落とした部分に接着剤を塗ります。
フレームの内側縁にはみ出さないよう留意します。

 

既に取り付けてあるガイド枠の
内側に静かに落とし込みます。

 

正確な位置決めは表側から調整する
必要があります。クリップで仮固定します。

 

内側化粧フレーム4辺の飛び出し量を均等に調整
しながら、隙間が生じないようクリップで固定します。

 

接着剤が完全に固化するのを待ち
クリップ・クランプを取り外します。

 

表側に返してみます。周りの明るいキャンバス地台紙の中で、内側化粧フレームの
銀色が品よく映えます。製作された当時の製作者のセンスの良さが蘇ってきます。
 

修復作業も終わりに近づいてきました。
いよいよ外側フレームを取り付けます。

 

塗装面を傷めないようシートを敷いた上に
外側フレームを置き、さらに台紙を載せます。

 

外側フレームと台紙は元々釘打ちにより接合されて
いましたが、木ネジに変更し強く静かに接合します。

 

四隅の補強材が当てられている部分は
ひと回り大きい木ネジで固定します。

 

再び表側に返してみます。正直なところ
予想を超えるデザインの良さに驚きます。

 

台紙のかすかにアイボリーを入れた白地キャンバスに、
内側・外側フレームの凡庸な銀色が見事に映えます。

 

最後に元の絵画を収めます。裏打ちの新聞紙を取り
去り、「黎明」を残して厚手の上質紙に張り替えます。

 

収まった絵が、元の絵とは思えないほど
引き立ちます。額装の重要性を痛感します。

 

製作当時の用具と比べ、現在は特に塗料の性能が飛躍的に向上しています。
当時のままの古い額縁材料を、新しい塗料が今後は保護してくれることでしょう。

 

古い額縁の修復、第1弾の作業完了です。全部で4枚の絵をお預かりしているので、
間を入れず次の修復作業に取り掛からなければなりません。良い額縁の条件とは、
言うまでもなく収まる絵画にマッチしていることです。しかるに、マッチした額縁は
絵画を引き立て鑑賞する人の目を絵画に集中させ、その結果、額縁の存在自体は
限りなく後退することでしょう。優れた額縁ほど実は目立たない・・、不憫な話です。

*修復前の写真をご覧下さい。

 
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