守谷工房の製作品2へ                守谷工房Topへ

古い額縁の修復その3(2018.6.2)


4枚お預かりしていた古い額縁(絵画)のうち修復を終えた2枚(その1その2)を、
最近になりご依頼主のもとにようやくお返しすることが出来ました。修復の結果に
ついてご満足いただけましたので、残りの2枚も修復作業を進めることにします。

*修復後の写真をご覧下さい。

 

冬山を描いた油絵が、クロス張りのライナー(台紙)を
挟み、木彫の施されたフレームに収められています。

 

ライナーのクロスは元は白地だったようです。
赤茶色に変色し汚れが広がっています。

 

打ち込まれた釘の錆が浮き上がり、木彫部分は
塗膜が劣化し彫り込みに埃が入り込んでいます。

 

絵画背面の裏貼りは、紙が崩壊し始めており
大きく破れて中の新聞紙が見えています。

 

破れた部分に触れると、
破片となって落ちてきます。

 

裏貼りの右上部に、絵画のタイトルで
しょうか、「雪嶺」と筆書きされています。

  

さらに、その下に「天狗平から立山を望む」、「1957年(昭和32年)」と
書かれており、60年以上も前に描かれた絵であることが分かります。

 
 額縁組の分解


前2点を上回る仕上がりを目指し修復作業を
始めます。額を吊る金具(ヒートン)を外します。

 


絵画自体は、内部の木枠ごと台紙
フレームに直接釘打ちされています。

 

絵画キャンバス面に傷を付けないよう
注意を払いながら釘を抜き取ります。

 

キャンバスを留めるだけにしては、
随分と頑丈な固定方法です。

 

ともあれ、無事に取り外した絵画を
作業室とは別の安全な場所で保管します。

 

フレーム内側の台紙(ライナー)部分を
取り外します。やはり釘打ちされています。

 

てこの原理で釘を引き抜く際、ニッパの顎部分で
フレームを傷付けないよう、当て木をして力を加えます。

 

材料中に埋め込まれていたにもかかわらず
どの釘も一様に錆付いて変色しています。

 

台紙部分と外側フレームを分離します。
接着剤が使われていないので簡単です。

 

取り外した台紙部分をあらためて点検します。
変色と汚れが額装の品位を大きく損なっています。

 

台紙の内側窓の周囲、絵画を縁取る部分に
幅の狭いフレームがもう1段入っています。

 

台紙の裏側から幅の狭い桟が取り
付けられ、金色に塗装されています。

 

ここでは釘が使用されておらず、接着剤で固定
されています。接着を剥がさなければなりません。

 

隙間にドライバの先を押し込み、桟を
破損しないよう丁寧に隙間を広げます。

 

何とか外れてきました。多少残って
しまった傷は、再塗装により補修します。

 

4隅の組み合わせを後で取り違え
ないよう、合印を付けておきます。

 
 台紙(ライナー)の補修・再塗装


劣化の著しい台紙部分を補修します。先に
掃除機で表面に付着するゴミを吸い取ります。

 


裏側の木組みにまとわりつく
埃も徹底的に取り除きます。

 

再塗装に備え、裏側に塗料が回り込ま
ないよう、マスキングテープで養生します。

 

古い布を剥がし新しい布と交換するのが望ましい
ところでしょうが、上からの塗装で補修します。

 

布地の織り目を潰さないように
プラサフを2・3回吹きます。

 

表面に残る粒状化したプラサフを、
ペーパーを軽くかけて取り除きます。

 

滑らかでかつ布地の感触(織り目)が
残る程度に下地を調整します。

 

艶消し白の水性ペイントで
刷毛塗りで上塗りします。

 

プラサフの下地隠蔽性が高いので、
白色を塗装しても発色が良好です。

 

厚く塗り重ねると布地の感触が損なわれるので、
均一な発色が得られたところで打ち切ります。

 
 桟の補修・再塗装


台紙の内側窓を縁取る桟を補修します。
ペーパーをかけて古い塗装膜を落とします。

 


絵画と接する縁部分は、印象を和らげる
ため、断面がR加工されています。

 

工作台の縁に冶具を張り付け、R加工
部分が僅かに外に出るようにします。

 

この状態でR加工部分にもペーパーを
かけ、古く劣化した塗装膜を落とします。

 

金色の下はカシューのような塗料が厚く
下塗りされています。大量の研磨粉が生じます。

 

研磨粉が表面に残らないよう、
掃除機で丁寧に吸い取ります。

 

先にプラサフを2・3回吹きます。R加工
部分にも行き渡るよう角度を変えます。
 

プラサフの乾燥を待って
金色スプレーを吹きます。

 

ライナーの窓からほんの数mm飛び出るだけですが、絵画の輪郭を明瞭にし
印象を引き締める効果があります。濃淡が出ないように吹き付けます。

 
・外側木彫フレームの補修


額縁の外側を囲むフレームを補修します。木彫が施された重厚なデザインです。
塗装面の著しい劣化が進んでいますが、フレームの構造はしっかりしています。

 

風化により塗装膜が剥げ落ち、艶もなく
窪みに埃が入り込んで汚れた印象です。

 

下塗りのサーフェーサー(カシュー塗料)が
変質により接着力を失い欠け落ちています。

 

入り組んだ木彫を細かく修復することは
困難なので、全体を再着色してみます。
 

ウォルナット色の油性オイルステインを
木彫の隅々まで満遍なく行き渡らせます。

 

さらに、小さな布切れにオイルステインを
含ませ、比較的平らな部分に広げます。

 

下地のカシュー塗料や木地が露出していた
部分が目立たなくなり、落ち着きました。

 

仕上げ塗装の準備をします。フレームを
木片の上に乗せ、少し浮かせます。

 

透明のラッカースプレーを吹き付けます。
車のボディ塗装用スプレーを使用します。

 
 
一挙に光沢を取り戻し、彫り込まれた部分と陰影を
成します。製作された当時の雰囲気が漂います。
 
 
着色剤の濃淡と抑え気味の光沢が、渋さを醸し
出しています。これ以上手を入れないことにします。

 

外側木彫フレームに台紙
(ライナー)を合わせてみます。

 

フレーム構造に大きな損傷がなかったため、
組み直しなど大きな補修をしなくて済みました。

 

表側に返してみます。最も楽しみで、かつ心臓に悪い瞬間です。渋く仕上がった
外側木彫フレームに、純白に化粧された台紙の取り合わせが良く似合います。

 
 台紙の固定、桟取り付け


外側フレームと中の台紙を固定します。
マスキングテープで仮止めしておきます。

 


元の釘位置に新しい釘を打ち込み
ます。先に左辺のみを固定しておき、

 

右辺側を確認すると隙間が均一ではありません。
外側フレームか台紙のどちらかが変形しています。

 

隙間が大きい部分をクランプで
矯正し、残る3辺を釘で固定します。

 

マスキングテープを剥がします。背面側には特に
手を加えず、額装の辿ってきた歴史を残します。

 

外側フレームと台紙が合体することで
全体の強度が一挙に向上します。

 

既に再塗装を終えている桟を用意します。
元の材料がそのまま再利用できます。

 

釘を打つ厚みがないので接着のみで
固定します(釘打ちは不要です)。

 

台紙側にも接着剤を入れておきます。木枠の
表側に張り付けられた合板の縁部分です。

 

元々取り付けられていた位置関係を
間違えないよう、桟を取り付けます。

 

撓みにより桟が浮き上がるので
一定間隔にクリップで挟みます。

 

この状態で接着剤の固化を待ちます。この
100均のクリップ、利用場面が尽きません。

 

台紙の再塗装面に汚れを付けないよう、クリップの先端にマスキング
テープの小片を挟みます。ゴールドの縁取りが最小限に見えています。

 
 絵画の取り付け


額縁の補修をほぼ終えたので、
いよいよ絵画を元に戻します。

 


作業前に確認したように、崩壊状態の
裏張りを何とかしなければなりません。

 

元の裏張りを除去しようとすると、おそらく
中の新聞紙も全て剥がすことになるでしょう。

 

作業中に肝心の絵画に傷を付ける危険が
あるので、全体をケント紙で覆うことにします。

 

A3サイズケント紙を2枚つなげ、絵画の
大きさを現物合わせで写し取ります。

 

粘着力の弱いマスキング
テープで周囲を固定します。

 

元通り額縁に収めます。台紙の枠が少し大きく、キャンバスが中でカタ
ついていましたが、マスキングテープの厚みにより収まりが良くなりました。

 

キャンバスに直接釘を打って固定することには
気が引けます。新たにトンボを取り付けます。

 

4か所のトンボによりキャンバスは
しっかり固定されています。

 

作業前に取り外しておいた
ヒートンを元に戻します。

 

修復作業を全て終えました。絵画の入った
状態を表側から眺めます。金色の桟が上品です。

 

一定の光沢を与えながら古びた感じを残した、木彫の施された外側フレームです。
白く再塗装された台紙の真新しさと、良いコントラストを醸し出しています。

 

何よりも絵が映えます。絵画から受け取ることのできる情報量が倍増している
ように思われます。額縁の清潔感が絵画の主張を前面に押し出すのでしょうか。

 

修復作業に取り組んでいると、額縁をデザイン・製作した人と話をしているような気に
なります。変色が進み汚れが広がった額縁も、収められる絵画に合わせてデザインや
構造が考えられたはずです。修復を終え、製作された当時に戻った(想像ですが)
姿を眺める時、額縁製作者の絵に対する解釈とセンスがようやく理解できるのです。

*修復前の写真をご覧下さい。

 
守谷工房の製作品2へ                守谷工房Topへ