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木彫扁額3点の取り付け工事(2019.12.29)


お世話になっている市内特養老人ホーム内の応接室です。守谷市民大使(NPO法人
協働もりや
認定)の清水忠晃氏(写真)から、木彫扁額が寄贈されることになりました。
日本刻字協会の刻字作家である片岡美津代先生に製作が依頼され、完成した3点の
素晴らしい扁額が応接室、ホール入り口、施設玄関にそれぞれ設置されます。光栄
なことに、それらの取り付け工事を守谷工房が担当させていただくことになりました。

 

こちらはホール入り口に掲げられる1枚です。清水氏より
取り付け位置や角度について細かな指示をいただきます。

 

もう1枚は玄関前(屋外)の柱に取り付けます。3枚それぞれ
設置条件が異なり、取り付け方法を工夫しなければなりません。

 

屋外の柱から作業を始めます。鉄骨構造の
周囲を軽量パネルで囲ってあるようです。

 

材質(固さや脆さ)を確かめるため
扁額で隠れる部分に穴を開けてみます。

 

ほぼ石膏ボードに近い柔らかさです。
扁額の固定にはアンカーが不可欠です。

  

扁額を取り付ける位置を決定し
テープでマークしておきます。

 

金具を固定するためのネジ穴を開けます。
アンカーの仕様に従い6mm径ドリルを使用します。

 

金具1個当たり3か所の下穴を開けます。
ドリルがぶれないよう垂直に当てます。

 

扁額を保持するステンレス製の
金具です。穴の位置を確認します。

 

下穴にアンカーを差し込みます。軽量パネルや石膏ボードのような柔らかく脆い
材質でもネジ類を強固に保持します。理解はしていても何となく頼りなさを感じます。

 

仕様通りの下穴を開けても、アンカーの
首部分がつかえて最後まで入りません。

 

最後は玄能で軽く叩いて押し込みます。
軽量パネルが割れないか緊張します。

 

アンカー首部分にはツバが出ており材料に喰い込み
ます。ネジを入れる時にアンカーの空回りを防止します。

 

金具をネジ固定します。電動ドライバー
ではなく、手でドライバーを回します。

 

アンカーが威力を発揮し強固に固定出来ます。
底辺に2か所、上辺も2か所に金具を配置します。
 

扁額が落下しないよう職員の方に補助を
お願いしながら底辺側の金具に固定します。
 

続いて上辺側の金具にも固定します。片岡先生
渾身の作に傷ひとつ付ける訳には行きません。

 

桂の1枚板に施設名を浮き彫りし、文字
表面に金箔を施した素晴らしい扁額です。

 

気品と荘厳さを兼ね備え、施設の存在と尊厳を物語るような扁額です。
寄贈された清水氏と製作に当たられた片岡先生の想いがにじみ出てきます。
扁額のサイズ:1120mm(縦)×360mm(横)

*「扁額」を横に長い額・看板とする解説がありますが、縦に長いものも
含まれ、神社・寺院・城門などで実際に縦長の扁額が多く存在します。

 

しばらく期間を置いてから、ホール入り口
上部に2枚目の扁額を取り付けます。

 

入り口は全面ガラス張りの左右に開閉するスライド
ドアで、周囲のフレームも含め金属サッシ製です。

 

1200mm(縦)×230mm(横)の扁額は
厚みのある桂1枚板で、かなり重量があります。

 

ホールの名称が刻印された扁額です。谷汚しの
技法で優しいグリーンに着色されています。

 

重量のある1枚板を薄い金属サッシ表面に固定する
ため、安全な取り付け方法をあれこれ検討してきました。

 

スライドドアの中央に扁額の中心を一致させます。
正確に位置を測定しテープでマークしておきます。

 

サッシカバー部の下端から30mmの位置に
取り付けます。上下位置も正確にマークします。

 

いったん脚立から降りて計測ミスや
ズレがないか、落ち着いて確認します。

 

出来れば扁額表面に(側面も含めて)
取り付け金具等を見せたくありません。

 

しかし、真下を人が多く出入りするので、安全で
確実な取り付け方法を採用しなければなりません。

 

建築金物の中から幅広のL字金具を選びます。底面に
かかる面は、目立たないようベージュ色で塗装します。

 

L字金具の取り付け位置を割り出し
テープで正確にマークします。

 

扁額の左右端からそれぞれ100mmの位置にL字金具の端がかかります。マークの
位置を再度確認します。サッシ材質は薄い金属板なので、金具の固定にはネジ類を
利用できません。サッシ内側にネジが出るとスライドドアに干渉する可能性もあります。

 

金属用強力接着剤を使用します。セメダイン社メタルロック
「溶接並み」は大袈裟ですがエポキシの比ではありません。

 

接着力が不足するとしたら、それは接着面の状態
(汚れ・凹凸)によるものです。2液を混合し塗り付けます。

 

テープでマークしておいた位置に正確に貼り
付けます。固化前は全く粘着性がありません。

 

初期接着力が生ずるまで、周囲に
テープを貼って仮固定します。

 

接着剤のみでは・・やはり一抹の不安を感じますが、万一
取り外すことになった場合は・・まず剥がせないと思います。

 

左右2か所のL字金具を貼り付け、
接着力が実用強度に達するのを待ちます。

 

接着剤が固化するのを待つ間、最後の
1枚を応接室に取り付ける作業を進めます。

 

壁面を叩いて状態を確認します。石膏ボードが貼り付け
られており、所々に間柱や構造材(コンクリート)が入ります。

 

最低限、コンクリート構造材に当たる
部分は固定個所として除外します。

 

石膏ボードにアンカーを入れ、固定ネジを打ち込む
標準的な方法を採ります。掛け時計を外します。

 

左側の制御ボックスと上辺を揃え、
横に並ぶ位置に取り付けます。

 

応接室に取り付ける3枚目の扁額です。
やはり片岡先生による素晴らしい作品です。

 

扁額のサイズは1050mm(縦)×450mm(横)、壁面に取り付け位置を
割り出します。レーザー水準器を使用して水平線・垂直線を正確に取ります。

 

レーザーが示す位置を最小限にマークします。
扁額を支えるフックの位置を正確に割り出します。

 

扁額を下部で支える50mmM5ネジです。アンカーを
入れ、石膏ボードを破壊しないよう慎重にねじ込みます。

 

扁額上部をチェーンで吊るため、ひと回り細い
アンカーを入れてヒートンをねじ込みます。

 

固定ネジやヒートンの位置関係、
特に水平・垂直を再度確認します。

 

3枚目の扁額は表面に(上下左右側面も含めて)金具類が一切出ない
取り付け方を考えます。そのためには扁額背面にも加工が必要です。

 

扁額上部を傾斜を付けて吊る
ためのチェーンを取り付けます。

 

ヒートンに掛けるリングを選ぶことで
扁額の傾斜を調節することが出来ます。

 

扁額下部を支える額専用の金具です。近くの
ホームセンターで奇跡的に見つけました。

 

金具を機能させるには、大き目の穴を掘る必要が
あります。20mm径のフォスナービットを使用します。

 

正確に位置決めした位置に
深さ8mmほどの穴を掘ります。
 

20mmのビットはあまり使用していない
ので、まだ切れ味が落ちていません。
 

20mm径の穴を覆うように
金具を取り付けます。
 

木ネジで金具を固定します。背面とは
言えども加工を最小限に留めます。
 

壁面から出ているトラスネジの頭が
金具の大きな開口部に入ります。

 

重量により扁額が下方向にずれると、トラスネジ
頭部が隙間に挟まれて抜けてこなくなります。

 

扁額背面の加工を終えました。作業中は必ずエアキャップシート(プチプチ)と梱包用の
和紙を敷いた上に扁額を置き、表側の刻字に間違っても傷を付けないよう細心の注意を
払い続けます。お昼過ぎに開始した軽作業ですが、この時点でかなり消耗しています。
 

取り付けに必要な準備を全て終え、壁面に扁額をかけ
ます。トラスネジの頭を金具内に入れ、チェーンを掛けます。
 

最も長い位置でチェーンを掛けていますが、
意外と丁度良い傾斜かも知れません。
 

清水先生に教えていただいたところ、右側から「生歡喜心」と刻まれているそうです。
施設にまつわる深く尊い意味を語りかけていますが、乏しい教養のままに分かった
ようなことをここで申し上げるのは厳に慎みます。ともあれ、取り付け作業終了です。
 

ホール入り口に戻ります。接着剤はとうに実用強度に達して
います。扁額上部は強力両面テープで壁面に固定します。

 

パネルなどの固定用で、厚みが
2mmほどの両面テープです。
 

3か所に分散させてテープを配置します。テープを剥離させる
力、すなわち手前方向に倒れる力はほとんど加わりません。
 

テープの裏紙を剥がし位置を合わせて金具に載せます。
上部を押さえ付けると、もはや落下することはありません。

 

金具下部から固定ネジを打ち込み、取付作業完了です。底面に金具の一部が見えており、
外観を損なっていないとは言えませんが、安全を優先した結果としてご容赦いただけると幸い
です。ご高齢の方々が過ごされる施設で、万一にも落下事故を起こす訳には行きません。

 

実はご用命をいただいたのが10月の中旬、取り付け方法をあれこれ決めかねるうちに
2か月以上も経過しています。3枚の扁額が、大きさも設置場所も取り付け方法も三者
三様で、安全性や耐久性を検討するも不必要にぐずぐずしておりました。年内には取り
付けますなど安請け合いの挙句、押し迫った28日になりようやく作業を完了した次第です。
それでも、清水先生から「上手く付けてくれた」と寛大なお言葉を頂戴し、安堵して年を越す
ことが出来そうです。皆様この一年大変お世話になりました。良いお年をお迎え下さい。

 
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