守谷工房のリペアへ                守谷工房Topへ

業務用ベーカリー救出へ群馬片品行(2017.1.2)

昨年末に大きなお仕事が入ってきました。群馬県利根郡片品村に素敵な民宿(シャレーみのり)が
あります。レストラン(みのりの里)が併設されていて体験農園で収穫された野菜を使った極上の
メニューを楽しむことができます。食事に添えられるパンも、業務用ベーカリー(パン焼き窯)を使って
オーナーが自ら焼き上げる逸品です。そのベーカリーが故障し、知人を通して何とかならないかと
連絡をいただきました。メーカーに依頼するも、数十万円もの修理見積もりに大変お困りのようです。
 

休業されている冬期間に修理せねばなりません。
高速道が空きそうな三が日に伺うことにしました。


現地は降雪地帯ですが現時点で積雪はありません。
今のうちならばノーマルタイヤで出かけられます。
 

いったん積もってしまうと出かけられず、雪解けまで
待っていると春の営業再開に間に合いません。
 

約200kmを走り現地に到着しました。久々に
群馬の山々を眺めながら快適なドライブでした。
 

こちらがレストランみのりの里です。実は
かなり以前に一度訪れたことがあります。
 

お洒落な看板を見ると、食事が
美味しかったことを思い出しました。
 

厨房内に案内され故障中のベーカリーとご対面します。株式会社マルゼン製MBHO-T21
ホイロ付きデッキオーブンです。間口1350mm、5.8kw、新品では150万円以上もします。
ご依頼主様が送って下さった写真で大体理解していましたが、やはり業務用は大きく圧巻です。
 

製造販売元の株式会社マルゼンのWEBです。国内に
3か所の工場と10か所もの営業拠点があります。
 

MBHO-T21は既に製造を終了しています。ご依頼
主様は開業以来16年間使い続けてきたそうです。
 

故障の状況は、操作しても温度が上がらずパンが焼き
上がらないそうです。電熱線の損傷が疑われます。
 

手前ドアを開けて内部を点検します。窯内は耐火性セメント
ボードで覆われています。300度C前後に達するはずです。
 

窯内右側面に熱電対プルーブが出ていたので、
本体右側に電力・制御系が収められているはずです。
 

ネジを緩めて側面パネルを外します。
冷却ファンが取り付けられています。
 

電力系統の配線が現れました。左側は温度を精密に
調整するための半導体スイッチングデバイスでしょう。
 

3相200V仕様です。電力配線が
赤・白・青に色分けされています。
 

上部セメントボードを支えているフレームを
外します。窯内からアクセス可能です。
 

詳しくは分かりませんが、かつての
アスベストに代わる材料なのでしょう。
 

フレームを下げることでセメント
ボードを取り出すことができます。
 

作業の邪魔になるのでフレームも取り外して
おきます。中ほどでフックに掛かっています。
 

セメントボードが取り出されると、その上に上面加熱用電熱線が
現れます。業務用のコイルフィンヒータが並んでいます、壮観です。
 

ヒータユニットの右端に配線が集中しています。
本体右側の電力供給部に引き込まれています。
 

コイルフィンヒータが何本も内部断線する可能性は
低いはず・・と考えている時、問題を見つけました。
 

コイルフィンヒータ右端子から出る配線が切れて
います。焼き切れたように乱れた切断状態です。
 

スパーク(火花)が飛んで
切れた痕が分かります。
 

手前ドアが付いたままでは頭や肩が
つかえて手が十分に入りません。
 

ドアを取り外すことにします。しかし、
組み付けがよく分かりません。
 

回転軸となる金属シャフトが、両端で
6角ネジにより固定されています。
 

本体右手前の制御ボックスが
干渉します。取り外します。
 

さらに、制御ボックスを固定する
アングル材も干渉しています。
 

ボックス内の制御系統への
配線(コネクタ)を抜きます。
 

一部の配線はコネクタではなく
ネジ止めされています。
 

ボックス下部に電源制御用の
配線が接続されています。
 

完全にドアを取り外すことはできません。ですが、この程度に
横にずらすことができれば内部に十分アクセス可能です。
 

後になり、ドアを外さずともヒータユニットをメンテする方法に
気づきましたが、この時点ではそれどころではありません。
 

あらためて近くから
断線個所を確認します。
 

試行錯誤の果て、ヒータユニットを天井に
固定している3本のネジを見つけました。
 

構造がよく分からないままですが
外せるネジは外してみます。
 

一挙に構造が判明しました。左右フレームの奥半分は
レールになっており、ヒータユニット後辺がスライドします。
 

ヒータユニットを前傾させることができるので
これで何とか断線個所に手が届きます。
 

電熱線への配線を調べると図の×部分で断線しています。
が、3相のいずれに接続されていたのか分かりません。
 

窯内の温度分布を考慮した配線パターンと、
切れた電線の長さから接続先を割り出しました。
 

断線は配線の途中ではなく、ヒータユニットとの接続
部分で生じています。ヒータ端金具の腐食が原因です。
 

配線金具をヒータ端にネジ止めすることで接続されていますが、
金具が徐々に欠損し最後は一挙に焼き切れたのでしょう。
 

ご依頼主様が最後に「バチッ」という音を聞いています。
まずいことに補修用配線金具の持ち合わせがありません。
 

太めの針金をいただいて短く切り、一方を電線に巻き付けて強くかしめ、他方はネジ止め用に
リング形に加工しました。次に焼損しそうな端子がありますが、もうひとシーズン持たせます。
 

写真に記録しておいた分解手順を
基に、大急ぎで組み立てます。
 

既に5時間以上作業してきました。
ブレーカを上げて通電します。
 

コネクタの差し違いなど数回エラーに見舞われましたが、制御
パネルのエラーコード表示に救われました。電源が入りました!
 

ご依頼主様が手を叩いて喜んでおられます。放射
温度計で測定すると、みるみる温度が上昇してきます。
 

数分で天井表面が200度Cを超えたことを
確認し、修理を終えることにしました。
 

回路計による点検では、電熱線自体は全て正常です。接続用金属端子の耐腐食性が
アキレス腱とは何とも意外でした。完全な補修にはコイルフィンヒータごとの交換が必要です。
 

午後9時を過ぎ作業を終えて外に出ると、大接近した三日月と金星が夜空に。
到着した午後2時頃、泥っていたレストラン前の道が、この時間はすっかり凍り
付いています。後日、パンがおいしく焼けたとの連絡をいただき安堵致しました。

 
守谷工房のリペアへ                守谷工房Topへ