守谷工房のリペアへ                守谷工房Topへ

衣類乾燥機の修理と大掃除(2016.07.29)

ご縁あって市内の特別養護老人ホームから衣類乾燥機修理のご依頼を受けました。大勢の
お年寄りの日常生活を支えるため、施設内には様々な設備・機器が設置されています。
その使用頻度は一般家庭の比ではなく、僅かなメンテナンス不足が大小のトラブルを引き
起こしがちです。洗濯物を効率良く干す作業は、清潔で健康な生活を維持する上で非常に
重要ですが、察するに施設にとって大きな負担を生むものと思います。メーカーのサービスは
「修理不能」、「高額になる」、「買い換えた方が良い」をひたすら繰り返すばかりだそうです。
真に受けていると、どこの施設も維持管理費の工面で大変なご苦労が伴いかねません。
 

電源スイッチの反応を確認します。LEDが点灯し
電気回路系は機能しているようです。しかし、
 


スタートボタンを押すと、モータ始動と同時に背面から
「キー」という凄まじい音が聞こえ、ほとんど送風されません。
 

乾燥機全体が埃にまみれ、部分的に付着した煤で手や
工具が黒く汚れていきます。いったん床に降ろします。
 


背面カバーの吸気スリットは綿埃で閉塞寸前です。スリットを
通して、両翼ファンとの間隙も綿埃が詰まっているのが見えます。
 

背面カバーを取り外します。と同時に内部から綿埃が
次々こぼれ落ちて周囲の床に散らかっていきます。
 


モータ周りも綿埃が付着し、煤と混じり合ってひどく
汚れが進行しています。丁寧なクリーニングが必要です。
 

送風の通り道に沿って綿埃が集積しています。両翼ファンのフィン1枚1枚の隙間には、
奥底まで綿埃が入り込んでいます。溝を埋め尽くして平板と化している部分もあります。
 


両翼ファンの固定用ステーを取り外します。
上下2か所でタッピングネジで固定されています。
 


ファンシャフトをステーに固定している4mmナットです。
閉め具合が調整され白ペイントでマークされています。
 

ステーを取り外します。ファンプーリーがステーに
隣接しウレタン製のファンベルトが掛けられています。
 


両翼ファンを手前方向に抜き取ります。溝の奥底まで入り
込んだ綿埃を徹底的に掻き出し電気クリーナで吸い取ります。
 

ファンシャフトが顔を出しました。近くでよく
点検すると、深刻な状況が判明しました。
 


シャフトの偏摩耗が極端に進行しています。埃が入り込み
油膜が途切れた状態で、かなり長期間酷使されたようです。
 

一般的な使用ではシャフトではなく、こちらの軸受側を
先に摩耗させ、定期的に交換するよう設計されています。
 

ファンシャフトはベルマウスと一体部品のため、
交換作業が厄介かつ芯出しが容易ではありません。
 

ファンシャフトの偏摩耗が段付き状態にまで進行して
いるので、単に軸受の交換では問題が解決しません

 

まず、軸受内部の摩耗を取り除き内径を均一に
します。→12mm径→15mm径と内径を拡げます。
 

15mmドリルビットの持ち合わせがないので
レース盤に穴繰りバイトを取り付けて削ります。
 

積極的に摩耗するよう設計されているため、軟らかい
金属(焼結カーボン?)が使用されています。
 

非力なミニ旋盤でも簡単に切削出来ました。
内部を掃除し切り屑を綺麗に除去します。
 

ファンシャフト側に15mmのスリーブを被せて
段付き偏摩耗を見かけ上解消する作戦です。
 

ファンシャフトをこれ以上摩耗されるわけには
いかないので、15mm径のアルミ棒を使います。
 

アルミ製のスリーブを摩耗させ、再度ガタが
出てきたらこの(安価な)部品を交換します。
 

外径15mmの素材なので、ファン
シャフトが通る穴のみを加工します。
 

軸固定センターを押し当てて
穴の中心を正確に出します。
 

偏摩耗したファンシャフトの最大外径、つまり
アルミスリーブの最小内径は8mmです。
 

センターを正確に合わせて、8mm径
ドリルビットで穴を開けます。
 

アルミ素材なのでハイスドリルで
簡単に穴が切削されていきます。
 

レース盤のチャックが噛む分を見込んで、材料を長めに
取ります。穴を開けてから必要な長さに切り落とします。
 

高速切断機で必要な長さに切り落とします。
端面の垂直が出るようバイスを調整します。
 

ちょうど切断箇所のところまで
穴が貫通していました。
 

ほぼ端面の垂直が出ていますがバリも威勢良く
出ています。高温なのでペンチで保持しています。
 

再度レース盤に取り付け、
端面のバリを取り除きます。
 

念のため端面全体を軽く切削して、確実に垂直を
出しておきます。両翼ファンのフラッターを防ぎます。
 

周のエッジにサンドペーパーを当て
薄く残るバリを取り、軽く面取りします。
 

シャフト全体を覆うアルミ製のスリーブが出来ました。
散在する段付き偏摩耗の影響を解消します。
 

軸受に入れてみます。内径15mm強の穴に
15.0mm径のスリーブが隙間なく入ります。
 

軸受長よりも僅かに短いのは、ワッシャを
収めるオフセットを考慮しているからです。
 

あらためてファンシャフトを確認します。根元の周囲、ほぼ中間部、先端部の3か所に元の
シャフト径(8mm)が残っています。スリーブが3か所全体を覆うことで回転を安定させます。
 

ファンシャフトにスリーブと共に軸受を入れてみます。
設計精度には及びませんが著しくガタが解消しています。
 

ファンシャフト周りにグリスを塗布します。シャフトの
段付き部がグリス溜まりになることを期待します。
 

スリーブの外周にもグリスを塗布します。
スリーブの外周・内周どちらでも回転可能です。
 

軸受を組み合わせ、清掃の完了した
両翼ファンを元通りに取り付けます。
 

取りあえずこの状態で手で回してみました。非常に滑らかに
静かに回転します。外周部の振れもほとんどありません。
 

ウレタンベルトを掛けます。筐体内部や
モータ周りも既に清掃を終えています。
 

ステーを取り付け電源を入れてみます。
元の性能がほぼ復活したようです。
 

回転し始める時に相変わらず「キー」という
音が出ます。汚れたウレタンベルトが原因です。
 

ラバークリーナを使って清掃します。
黒い汚れ(煤の付着)が一挙に落ちます。
 

再度モータを回転させて見ると、
「キー」は全く聞こえてきません。
 

清掃を終えた背面カバーを組み付けます。
数か所で欠損していたタッピングネジを補います。
 

機能の回復に成功したので、汚れの
進んだ本体をリフレッシュします。
 

内部の乾燥ドラムも埃だらけです。ガム状に固化
した汚れが内面にいくつもこびり付いています。
 

ドアの内側やヒンジ周りなど、突起を含む部分には
ことごとくゴミが入り込みしつこく付着しています。
 

ドラム内の温風循環部のエアフィルタです。
完全に目詰まりして温風をブロックしています。
 

このフィルタが詰まると、乾燥埃を含む温風が筐体の
内部全体を循環し、埃を供給し続けることになります。
 

使用説明書を確認したわけではありませんが、乾燥機
使用の都度清掃するよう指示されていると思います。
 

ドラム内雰囲気の排気部も綿埃で目詰まりしています。
手前のメッシュフィルタを取り外して清掃します。

 

ステンレス製ドラムの表面にも褐色の汚れが
見られます。家庭用洗剤で拭き取ります。
 

衣類出し入れ用のドアです。透明アクリル板と
耐熱ガラス製の覗き窓が曇り、中が良く見えません。
 

曇りの原因は耐熱ガラス表面に生じた鱗状斑点
(腐蝕)です。研磨剤入りのクリーナを使います。
 

鱗状斑点が消えるまで研磨を続けます。高い
湿度と温度に晒され腐蝕が進行したようです。
 

透明感が戻りました。アクリル板に若干の
擦り傷が残りますがこのくらいにします。
 

ドアを密閉するアクリル製の内張りです。
周囲のウェザーストリップが黄変しています。
 

取り外して家庭用洗剤にクレンザーを
加えて、束子で汚れをこそぎ落とします。
 

汚れが沈着している部分は限度があります。が、
大部分の汚れが落ちて清潔感が出てきました。
 

ネジ穴の周囲にも埃がリング状に入り
込んでいます。恐るべき埃の拡散力です。
 

ドライバの先で埃を穿り出します。ネジ穴の
内側を清掃するだけで印象が大きく変わります。
 

ウェザーストリップを元に戻します。新品に
交換したいところですが費用が嵩みます。
 

内張りのアクリル表面にも曇りのような汚れの
ような付着があります。専用クリーナで磨きます。
 

光沢が戻りました。耐熱ガラスの鱗状
斑点も除去したので新品に近い状態です。
 

ドア内張りを元通りに組み付けます。周囲の突起に
入り込んでいた綿埃も可能な限り清掃しました。
 

ドラム内部の温風循環部に取り付けられる
エアフィルター・・・、押し込んでも落ちてきます。
 

エアフィルターカバーのソケット部の
拡大です。中の爪が摩耗しています。
 

爪が摩耗したため、フィルター取り付け
部の相方(リング)にフックしません。
 

アクリル材の小片で
新たに爪を作り付けます。
 

元の爪の位置に並べて小片を接着します。実際に使用して
みて、爪の高さを調整する必要があるかも知れません。
 

固化した汚れはドライバの先などで丁寧に
こそぎ落とし、全体を家庭用洗剤で拭き上げます。
 

清掃にも時間をかけたので、全体に清潔感が漂い新品に
近い印象が戻ってきました。動作も問題ありません。
 

梱包して大急ぎで納品に伺います。職員の方の負担が少しでも
低減し、お年寄りの方々の快適な生活に貢献できれば幸いです。

 
守谷工房のリペアへ                守谷工房Topへ