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SONY短波ラジオ修理(2016.12.25)



SONY製9バンド(短波7+中波+FM)ラジオ修理のご依頼です。手に取った瞬間、
世界を席巻したSONYの栄光が伝わってくるリジッドなクオリティです。昭和最後の
頃の製品で、ご依頼主のご尊父の遺品だそうです。インターネットが張り巡らされる
前の時代、故人が電波を通して世界の情報に耳を傾けられた姿が偲ばれます。

 

高度なインジェクション成型により
緻密で引き締まった外装です。
 

この小型ボディに短波だけで7バンド、中波と
FM(一部TV)の受信機能を備えています。
 

型番はICF-4900。世界のSONYなので
海外仕様も含め数モデルが存在するようです。

 
ここにも型番の刻印があります。ロッド
アンテナがすんなり畳み込まれています。
 

さすがにネット上にも仕様は残っていません。
辛うじて英語版のマニュアルがこちらにありました。
 
 
有難いことに全回路図もこちらにありました。昔の
製品は回路図が添付・公開されていたものです。
 

短波の受信バンド切り替え用スライドスイッチです。
大きくも小さくもなく機能に徹したデザインです。


スライドスイッチは手前正面の周波数表示部に
連続しており、非常に分かりやすく使い易いです。
 

周波数表示部を拡大します。7列の短波周波数に
続き、中波とFMの周波数が刻まれています。
 

不具合の一つは、音量調整が効かなくなっていること
です。常に最小音量の(何も聞こえない)状態です。
 

もう一つは、電源ONを兼ねたSW(短波)の選択スイッチ、
さらに電源OFFのスイッチがうまく機能しないことです。

 

いずれも内部に原因があるので、
乾電池を抜き分解作業に入ります。
 

本体を固定しているネジは
「↓」マークで示されています。
 

小型の製品とはいえ、たった
2本のネジで固定されています。
 

背面側のケースが開いてきました。
2本以外にネジはないはずですが・・
 

途中までケースが開いたところで、奥の部分が
ヒンジのような状態となって分離してきません。
 

よく見ると嚙み合わせ部分に
少量の接着剤が使われています。
 

接着剤をカッターナイフで切り離し、無事にケースを分離することができました。
昭和の頃のディスクリート部品を多用・詰め込んだ懐かしいプリント基板です。
 

内部の回路基板を前面側と背面側のケースがサンド
イッチにしている構造です。さらに分解を進めます。
 

回路基板を前面側ケースに固定
するネジが数本打たれています。
 

こちらはロッドアンテナを
固定しているネジです。
 

緩めるとロッドアンテナを
引き抜くことができます。
 

取り外したロッドアンテナの下に可変抵抗器(ボリューム)が見えてきました。音量の
調節ができないのはこの部品の不良が原因です。しかし、補修部品はもはや存在
しないでしょう。ネットを検索するとこのボリューム修理の報告がいくつか見られます。


ボリュームの調節ツマミを引き抜きます。
前面側ケース側面の穴を通っています。
 

中央部にもう1本、回路基板を
固定しているネジがありました。
 

内部の回路基板が浮き上がってきました。
チューニング位置の表示機構が実に巧妙です。
 

途中まで浮き上がったところで前面側ケースに
シールド接続されている配線を見つけました。
 

可変抵抗器(ボリューム)が完全に露出したところで接点の回復を試みます。
部品を分解修理している例もありますが、かなりリスクが大きいので避けます。
 

外部から潤滑剤を吹き付け、僅かな隙間
から摺動部に浸潤・到達するのを待ちます。
 

ツマミをゆっくりと左右に回転させ、リン青銅板製摺動子の
先端から酸化物が剥がれ落ちるまで何度も繰り返します。
 

切り替えスイッチには、薄型のタクトスイッチが
使われています。これも入手困難な部品です。
 

薄いプラスチック製カバーを取り外し潤滑剤を
吹き付けます。が、十分に回復してきません。
 

内部の銅合金製接点部品を取り出します。
径3mmほどのとても小さな部品です。
 

中央部が凸面に加工されており、
外周に沿って軽くふち折りされています。
 

長年の使用で塑性変形して平板と化し、
クリック感が失われたのでしょう。
 

柔らかい台の上に置いて、先の
丸い道具で内側を押し出します。
 

いくらかは元に戻ったかと思います。さらに内部の
電極を研磨して導通性を復活させておきます。
 

切り替えスイッチが正常に機能するようになりました。クリック感は今一つですが
使用上問題はありません。ボリュームも雑音が徐々に消えてほぼ復活しました。
 

不具合の修理を終えたところで、
本体ケースをクリーニングします。
 

周波数表示部のアクリル製
窓に傷や汚れが目立ちます。
 

樹脂用コンパウンドを付けて丁寧に研磨します。
溝部分にコンパウンドが入らないよう注意します。
 

光沢が戻ると一段と質感が高まります。少し剝がれて
いますが、左下のシールが往時を物語っています。
 

ネットやモバイルが普及した今日でも、停電時や災害時にはポータブルラジオが
頼りになります。ご尊父が愛用されたラジオを長く大切になさって下さい。

 
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