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学びながら修理するミシンの不具合(2017.4.7)

ミシンの修理は2台目になります。しかし、1台目はおもちゃのミシンでしたので
初めて手掛けることになります。恥ずかしながら修理以前に使い方を知りません。
小学校の家庭科で少し習ったきりで、最後まで使えるようになりませんでした。


修理の前にミシンの使い方を理解しなければ
なりません。一度自宅に持って帰ります。
 

奥さんに使い方を教わります。上糸・下糸、
ボビン・中がま、天秤・糸調子・・大変です。
 

お預かりしたミシンは、ジャノメ製BONHEUR
(ボヌール)5700EX、電子ミシンと呼ばれます。
 

型式761型、ご依頼主様がかなり古いと
言っていましたが、詳しくは分かりません。
 

ジャノメのWEBから説明書(コピー)を
ダウンロードすることができます。
 

ダイヤル操作でジグザク縫いや
ボタンかがりが簡単にできます。
 

電子制御によりパターンを変えるようです。
マイクロプロセッサを搭載しているのでしょうか。
 

奥さんの手ほどきに従って
自分で試運転してみます。
 

目の前にある「動/止」ボタンを押すと
モーターが回り針が上下に往復します。
 

さすがジャノメ製のミシンです、
静かでほとんど振動もありません。
 

不具合は「返し縫いができない」と伺っております。このレバーを
操作すると、布送りが反転し逆方向に重ね縫いされるはずです。
 

レバーを下げても布送りの方向は変わらず、
同じ方向に縫い続けます。機能していません。
 

最初は「返し縫い」とは何のことかも分からず、奥さんの手ほどきが大変役に立ちます。
不具合の原因を探るべく分解にかかります。が、おもちゃを除いてミシンは初めての挑戦です。
 

現在一般的な水平全回転釜方式です。
針・押え・角板を外しボビンを取り出します。
 

針板も取り外し釜の内部を点検します。どこかに
布送りを反転させる機構があるはずです。
 

電動ミシンなのでモーターを逆回転させているのかも知れ
ません。修理以前に構造を知るための分解が必要です。
 

内部を観察するには、少なくとも外側の
パネルを外し露わにしなければなりません。
 

パネル固定用と思われるネジを順に緩めていきます。
元に戻せるよう全て写真に記録しておきます。
 

プーリー側の側面パネルが外れました。
その中に新たに固定ネジが見つかります。
 

奥側のパネルを固定しているネジです。内部の
フレームが見えてきました。ダイキャスト製です。
 

糸巻きの陰に頭部パネルを固定
するネジが隠れていました。
 

奥側パネルを内部フレームに固定するネジ
です。長さがあり深くねじ込まれています。
 

面板カバーを開けた中に、さらに1本
頭部パネル固定用のネジがあります。
 

頭部パネルが外れました。上面と側面の
2方向からでも内部の様子が観察できます。
 

ここに手前側パネルの固定ネジがあります。
ステーを介してフレームに固定されています。
 

面板カバーを開けた内部の
手前側にもネジがあります。
 

これはパネル固定ネジではなく、バネのような
フックのような金属部品を固定しています。
 

ベッド裏側のカバーを外します。塩ビの
やや柔らかい材質(他はABS)です。
 

ベッド内部が露わになりました。布送りや
中がま駆動用の機構が密集しています。
 

手前側・奥側のパネルがここまで
一体成型されてベッドを覆っています。
 

内部に両パネルを各々固定する
ネジが隠れています。緩めます。
 

内外に見えるネジは全て外しました。手前側・奥側2枚のパネルは、残るところ
中心部分の篏合によって組み付けられていると思われます。ドライバの先をこじ
入れて爪を開放しますが・・分離しません。まだネジが残っていないか探します。
 

努力の甲斐なくパネルは外れませんでした。しかし、お断り
する理由を考えていた時、DIYによる修理事例を見つけました。
 

もし同様の不具合であれば、大がかりな
分解などせず修理することが可能です。
 

布送り方向を反転させる機構はここにありました。本体内部を伝ってきた
リンケージが偏心カムをスライドさせます。内蔵されたマイクロスイッチや
タクトスイッチの不良を疑っていましたが、何ら電気的ではありません。
 

通常はバネの張力で偏心カムが右側に寄って
います。布を前進させるよう送り歯を駆動します。
 

返し縫いレバーが下げられると、リンケージに押されて
偏心カムが左にスライドし、布を後退させるよう駆動します。
 

偏心カムのスライドがスムーズではない・・どころか
固くなっています。左右に往復させるのに力が要ります。
 

潤滑のため充填されていたグリスが固着しています。
作業しているうちに何やら黒いものが落ちてきました。
 

固着した部分から落下したようです。
残っている固着物を全て取り除きます。
 

潤滑剤をクリーナ代わりにして、ゴミや付着物を
完全に落としスムーズに往復するようにします。
 

何とか外側パネルを取り外そうとして費やした
時間・・のことは忘れて、元通りに組み上げます。
 

布が逆方向に送られ無事に返し縫いができます。堅牢で
精密な機構がもたらす、振動のない静かな動作音です。
 

パネルが開いていればもっと深く内部まで勉強できたで
しょう。しかし、お客さんの問題を解決することが先決です。
 

長年のご使用でパネルに傷や汚れが広がっています。
樹脂用コンパウンドで全体をクリーニングします。
 

クリーニング後の模様選択ダイヤルです。
溝に入り込んだ汚れも完全に取り除きます。
 

パネル表面だけでなく、パネル同士の
合わせ目(篏合部)の汚れも落とします。
 

表面に刻印された文字・図も、狭い隙間に
汚れが入り込み美観を損ねています。
 

手前に見える糸調子調整用ダイヤルの
目盛りの刻み内も綺麗になりました。
 

表面全体を磨き上げ細部に入り込んだ汚れも落とすと、
全体に光沢が戻り、新品時の風合いが蘇ります。
 

ミシンの歴史は古く長い年月を経て改良が
重ねられ、その技術は完成域にあります。
 

複雑を極める機構の集合体ですが、完成度の高い堅牢な
部品が、性能・機能の再現性・復元性を高く保っています。
 

ミシン修理の専門店があり、多くの熟練した修理技術者が活躍しています。
その世界を垣間見る良い機会になりました。最後に外に被せるカバーも磨きます。
 

番外編 全ての作業を終えてから気づきました。
よく見るとベッド下のカバーに点検口があります。
 

キャップがはめ込まれており、ドライバの
先などでこじって取り外すことができます。
 

不具合・修理箇所のスライド式偏心カムの部分に、ここから注油することができます。
ダウンロードした使用説明書には、他の部分も含めて注油の方法など記載はありません。

 
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