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SONYテープレコーダTCM-50(2017.2.20)

ダブルラジカセと一緒に持ち込まれた、もう1台のカセットプレーヤーです。手にした瞬間
「ウォークマン?」と声が出るSONYの製品です。このTCM-50は1999年、ウォークマン
20周年を迎えた年に発売されていますが、ウォークマンシリーズはポータブルオーディオ
として別カテゴリーで展開されており、こちらは「簡易テープレコーダ」の扱いです。
 

SONY簡易テープレコーダのシリーズも、2005年発売の
TCM-IC100が最後のモデルとなり、既に生産を終えています。
 

20年近く過去の製品とはいえ、オートリバース機構に
よるA・B両面再生や各種録音補助機能を備えています。
 

シリーズの中古製品は現在でもまだ流通しています。
信じられないことにAmazonで新品が販売されています。
 

能書きを垂れてないで点検に入ります。
テープを保持するカバーが上に開きます。
 

テープの位置決めピンとキャプスタンが
並びます。小型のローラーも見えます
 

カセットテープを入れて
実際に再生してみます。
 

ご依頼者がおっしゃっていたように全く
動作しません。バッテリーは新品です。
 

原因を突き止めるため本体を分解します。
まず裏側カバーを固定しているネジを緩めます。
 

バッテリーボックスカバーを少し
ずらすと最後の1本が隠れています。
 

裏側カバーが開き、SONYらしさの
漂う回路基板が出現しました。
 

以前に短波ラジオを修理した時に味わったのと
同じ雰囲気です。フィルム配線を引き抜きます。
 

表側のカバーを取り外します。テープ保持カバーを
開けた内側から3本の小ねじで固定されています。
 

テープ駆動メカと一体になった回路基板を
引き出します。SONYの実装そのものです。
 

先に引き抜いたフィルム配線は表側カバーに
付いているマイクやLEDへの配線です。
 

駆動メカが露出したところで、電源を
接続して直接動作を確認します。
 

駆動部の動力源となる極薄型の
DCモーターは問題なく回転します。
 

しかし、2個のフライホイールは回転しません。
基板下の動力伝達系に問題がありそうです。
 

2本の小ねじを緩めることで、
簡単に回路基板が外れてきます。
 

うっかりもう1枚のフィルム配線を
忘れていました。これも引き抜きます。
 

DCモーターから2個のフライホイールに
かかるベルトが明らかに緩んでいます。
 

長い年月を経て伸び切っています。また材質の固化が進行し弾力が
低下しています。これでは動力が伝達されません。原則的に交換です。
 

テープの巻き取りリールを駆動するプーリ
です。回転させてみると重い感じがあります。
 

他方のプーリも点検します。やはり
抵抗が生じて重くなっています。
 

回転軸の周囲に潤滑剤を補います。ノズル
から直接吹きかけると周囲に飛び散るので、
 

ピンセットの隙間に少量を保持
させて軸の根元に差し込みます。
 

補修用のベルトは、運良く
工房にストックがありました。
 

フライホイールの内側にプーリ溝があります。
DCモーターと3点間にベルトをかけます。
 

ベルトが新しいので少しきつめですが、スリップする
ことなく、2個のフライホールを静かに回転させます。
 

テープカウンターを駆動する
極細ベルトも緩んでいます。
 

補修部品の入手が難しそうなので
長さを切り詰めることで対処します。
 

いったん回路基板を合体させます。磁気ヘッドのトラックを
切り替えるスライドスイッチ、正確に位置を合わせます。
 

録音ボタンが押されると金具がスライドして
スイッチを切り替えます。正確に溝に合わせます。
 

この状態で電源を接続して動作を確認します。
問題が解決しました、音声が正常に再生されます。
 

注意深く再生音を聞いていると、コッコッという機械音が
します。片側のキャプスタンが固定されていません。
 

根元に嵌まるストッパーワッシャが脱落しており
キャプスタンが落ちます。この繰り返しが音の原因です。
 

根元に切られた溝に樹脂製ワッシャが入るのですが、
代替方法として細いステンレス線を利用します。
 

ステンレス線をキャプスタン根元の
溝に嵌まるように1周巻き付けます。
 

両端をラジオペンチで撚り合わせ
溝に嵌まって抜けないようにします。
 

ギリギリのところで
余分を切り落とします。
 

これでキャプスタン軸およびフライホイールの
上下移動を防ぐことができるでしょう。
 

組み立て前に本体をリフレッシュします。
全体的に塗装やメッキがくすんで冴えません。
 

樹脂用のコンパウンドを少量付けて拭き
上げます。強く磨くと印刷文字が消えます。
 

軽く拭き上げただけでくすみが
取れてすっきりした印象です。
 

側面や裏側カバーも
同様に清掃します。
 

清掃した表側・裏側の両カバーと、
修理を終えた内部の機器です。
 

一体の駆動メカ・回路基板を元通り表側カバーに組み込み
ます。先にマイク・イヤホンジャックの突起部を通します。
 

ジャック側が正確に収められると
反対側も簡単に収まります。
 

テープ保持カバーを開いて、内側
から小ねじ3本で固定します。
 

フィルム配線を戻します。途中を折らないよう
根元の補強部分に力を入れて押し込みます。
 

念のためここでも動作テストを行います。ケース内に
収まってから不具合が起こることがよくあります。
 

問題ないので最後に裏側カバーを取り
付けます。手提げ用ストラップも入れます。
 

小ねじを締め付けて作業完了です。
今回もSONYの世界を堪能しました。
 

不具合が解消し本来の機能を取り戻しました。のみならず全体がリフレッシュして
SONYクオリティが蘇っています。ページ先頭の写真と是非比べてみて下さい。
 

発売当時、既にCDウォークマンが普及し、その後半導体による音楽プレーヤー、現在は
ハイレゾ音源を携帯できる時代です。しかし、コンビニや100円ショップから、未だにカセット
テープは姿を消していません。生活を一変させる技術と、変えようのない文化があります。

 
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