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置時計の修理 その2(2015.12.27)

ゼンマイと吊りテンプの修理を終えた旧西ドイツのW.Haid社製、機械式の
アンティーク置時計です。故障個所とその原因が分かり、適切に修理できたと
安堵していたところに新たな問題が浮上しました。音叉によるチャイム・時報
音が一切鳴りません。音叉を駆動させる機構が全く作動していないのです。

 
4.ムーブメントの分解

ムーブメント内部に問題が潜んでいないことを
願っていたのですが・・、原因の究明にかかります。
 


繊細な吊りテンプに続いて、
音叉の駆動部を取り外します

 

片側のサブプレートを外すと、チャイムの
メロディを刻むカムブロックが取り出せます。
 


音叉の駆動部はムーブメントのプレート
から独立した構造になっています。
 

反対側のサブプレートもネジを緩めると
ハンマー列ごと外れてきます。


時報を発声させる手前3本のハンマーを
駆動するリンクを切り離します。
 

時報を発するハンマーは別のゼンマイによって
駆動されます。その中継リンクを外します。
 


表側プレートに突き出たシャフトに、1か所だけ
外側から取り付けられている歯車を外します。
 

巻き上げられたゼンマイには大きなエネルギーが
蓄えられています。安全のため先に解放します。
 


シャフトの留め金具およびゼンマイの
巻戻り防止用歯車を取り外します。
 

ムーブメントの分解作業中、ふと内部を覗き込んだ時に問題を発見しました。チャイム
駆動用ゼンマイに連なる1段目の歯車です。そのシャフトが途中で折れ曲がっています。
 

先を急ぎます。チャイム駆動用・時報駆動用・時計
駆動用、3個のゼンマイを全て取り外しました。
 


機械式時計に共通する構造として、20枚ほどの輪列
(歯車)を上下2枚のプレートで同時に挟み込みます

 

内部にアクセスするには、ムーブメントを
挟むこのプレートを外さねばなりません。
 


プレートは20本近いシャフトを、軸受部で同時に挟んで
います。一度でも離してしまうと・・厄介なことになります。
 

しかし、プレートを外さないことには
歯車のメンテナンスができません。
 

歯車の配置を乱さないよう、
極めて慎重にプレートを離します。
 

訳が分からなく前に、取りあえず
歯車の配置を記録しておきます。
 

写真左側がチャイム駆動用歯車、中央が時計
駆動用歯車、右側が時報駆動用歯車です。
 

問題のシャフトが折れ曲がった歯車を取り出しました。中ほどで曲がっているだけでなく、
写真左側のシャフト端も曲がっています。鋼鉄製のシャフトをここまで曲げてしまう原因は
何でしょう。考えられるのは、ゼンマイの巻き上げ時に力を入れ過ぎていたことです。
 
5.歯車シャフトの修理

ピニオンギヤの山を潰さないよう、シャフトを
少しずつ慎重に叩いて曲がりを修正します。
 

ここで大変なミスを犯しました。シャフト端の曲がりを修正
しようとした瞬間、そのシャフト端が折れてしまいました。
 

長年にわたり金属疲労が進んでいたのかも
知れません。修復を試みなければなりません。
 

修復方針は新たにシャフト端を移植することです。
取りあえず折断面をヤスリで平滑に整えます。
 

ここに穴を開けて、元のシャフトと
同径の棒材を植え込むことにします。
 

重要なことはシャフトのセンター(回転中心)をいかに
正確に決定できるかです。小型旋盤を使います。
 

旋盤の心押台に、心押軸に代えて
ドリルチャックを取り付けます。
 

折れたシャフト端の径は実測で1.6mmでした。
同径の1.6mm径ドリル刃を用意します。
 

心押軸ハンドルを回してドリル刃を
徐々に歯車に近づけます。
 

ドリル刃の径が小さく剛性に乏しいため、穴の
センターが維持できず先端が僅かに振れています。
 

深さ3mmほどの穴を開け終わりました。シャフト本体は5mmほど
直径があるので、移植する棒材を保持するには十分かと思います。
 

取り外してみるとセンターがずれていることが肉眼でも分かり
ます。回転数の低い歯車なのでおそらく問題ないでしょう。
 

ステンレス線で1.6mm径のものがありました。
半田付けで十分な強度が得られると思います。
 

ドリル刃で開けた穴にステンレス線を立てて
みます。若干緩く僅かにガタがあります。
 

先に穴の内部に半田を入れます。
ステンレス専用の半田を使用します。
 

多少盛り上がった状態で
穴に半田が入りました。
 

半田の食い付きを良くするためにフラックス
(塩化アンモニウム)を使用します。
 

半田ごてを当て半田が溶けた瞬間、
シャフトを差し込んで立てます。
 

小型旋盤に取り付けて、シャフト基部に
まとわりついた余分の半田を除去します。
 

移植したシャフトの余分を
金鋸で切り落とします。
 

3mmほど出ていれば十分です。

 

再度小型旋盤に取り付けて、
シャフトの切断面を仕上げます。
 

シャフト基部にまだ余分な半田が残って
います。もう少し丁寧に仕上げます。
 

センターに若干の偏心があるものの、折れてしまったシャフト端の再生に成功
しました。新品同様の耐久性は期待できませんが、当面の代用になります。

 
6.歯車の組み込み~新たに問題

修理した歯車をムーブメントに戻します。実測で1.6mm
径のシャフトは、軸受穴に対してかなり細いようです。
 

上下のプレートを嵌めました。全ての歯車(シャフト)を
同時に嵌め込む作業は・・・筆舌に尽くし難しです。
 

ムーブメントをキャビネットに収めます。
チャイム・時報は復活するでしょうか。
 

音叉の駆動部も元通りに
組み付けました。
 

取りあえず、チャイム・時報ともに発声するようになりました。長針のみ取り付け、針を手で
直接回すと、15分毎に異なったメロディでチャイムが鳴り、1時間毎に時刻数分の時報が
鳴ります。しかし、チャイムと時報を数回繰り返すと、その後チャイムの駆動部が動か
なくなってしまいます。当初とほぼ同じ状態ですが、歯車に手を添えて回転を少し補助
してやると何とか動き続けます。駆動系に回転を阻害する抵抗が残っているようです。
 

時計店がメンテナンスとして必ず行うのが、
軸受部のクリーニングです。試してみます。
 

爪楊枝を軸穴に差し込むと、どの
穴も一様に汚れが落ちてきます。
 

やはりチャイム駆動部は直に止まってしまいます。詳細に調べていくと、
修理したこの歯車が必ず同じ回転位置で止まっていることを見つけました。
シャフト端の偏心が極所的に抵抗を生み、そこで回転を阻害しているようです。

 
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