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SONY弩級BCLラジオCRF-330K修理1(2019.11.9)


物凄いラジオを修理することになりました。3か月以上も前の7月下旬に
お預かりしたSONY製BCLラジオです。途中でご依頼主に何度か了解
いただきながら、このほどようやく修理を完了しました。お待たせした
期間で最長記録となった修理の顛末を、3回に分けてアップします。

 

451mm(横)×349mm(縦)×207(奥)mmの大サイズに、15.4kgもの重量。
作業台に載せるどころか、少し向きを変えるのも大変です。電源を入れ最小限の動作を
確認します。プロ用機材のような精悍なツマミ類が並び、高機能・高性能ぶりが漂います。

 

SONYは実際に業務用機材を多く製造しているので、特に「盛って」いるわけでは
ないようです。前面に比べ背面側はあっさりしたもので、ラジカセと変わりません。

 

CRF-330K型、1975年(昭和50年)に登場。
BCL・RX製品群のフラグシップモデルです。

 






定価42万円、カセットテープデッキの付属しない
CRF-320Kでも32万円でした。昭和50年
当時、どれだけ高額であったか想像を超えます。

 

伺っている不具合は、FM(左側)とMW・LW(右側)の
選局ダイヤルが回らないそうです。時計も動作しません。

 

工房で確認したところ、カセット
デッキも全く動作しません。

 

ダイヤルが回らないのはおそらく機械的な損傷、
カセットデッキも駆動機構に問題がありそうです。

 

機構上の問題であれば、高周波・ラジオ関係が
不得意な守谷工房でも何とか修理できます・・

 

それで修理をお引き受けしたのですが。前面
パネル脱着に干渉するツマミ類を全て取り外します。

 

この複雑に加工された前面パネルは
4隅・4本のネジで固定されています。

 

前面パネルを引き離します。本体と
接続するケーブル類に留意します。

 

パネル左下に取り付けられた
スピーカーへの配線のみです。

 

パネルが外れた状態でダイヤルの動作を確認します。シャフトが空回りして
目盛板は回転しません。ネットでCRF-330Kの修理記事を探すと、全く
同じ不具合がいくつか検索されます。この製品に共通する問題のようです。

 

目盛板の手前に周波数を読み取るカーソルが
刻印されたプレートが取り付けられています。

 

FM用目盛板とMW・LW用目盛板は
パネルに隠れる部分で重なり合っています。

 

目盛板を引き抜きます。内側の
回転機構が見えてきます。

 

周波数を精密に調整できるよう、ギヤに
よりシャフトの回転を落としています。

 

回転機構を組み上げるプレートを外します。
シャフトはプレート側に固定されています。

 

プレート内側に、シャフトの回転感触を保つウエイト
およびピニオンギヤが取り付けられています。

 

ネット上にある他の修理事例のまんまです。ピニオンギヤにクラックが
入り、経年変化で樹脂材料が収縮して大きな隙間が生じています。元は
シャフトに圧入されていたもので、隙間によりギヤが空回りしています。

 

ピニオンギヤを引き抜きます。
ゆるゆるなので簡単に抜けてきます。

 

新しい部品に交換したいところですが、同サイズの
ギヤはなかなか見つかりません。再利用を試みます。

 

アルコールで固化したグリスを洗浄します。
樹脂の収縮が著しくシャフトに合いません。

 

ピニオンの軸穴を広げるしかありません。
棒ヤスリで穴の内側を丁寧に削ります。

 

押さえ付けると何とかシャフトに密着
します。この状態で接着することにします。

 

ABSなのかポリプロ系なのか、いずれにしても瞬間
接着剤との相性が良くありません。プライマーを塗布します。

 

シャフト側に接着剤を付けます。瞬間的に固化
するため、プライマーを塗った側は避けます。

 

隙間が開かないよう完全に固化
するまでクリップで固定します。

 

僅かに隙間が残っています、もう少し軸穴を広げておくべきでした。
がピニオンは十分に固定され、シャフトの空回りは解決できます。

 

次に時計の不具合を修理します。同期モーター式の電気時計
かと思っていましたが、クォーツ発振による精密なユニットです。

 

取りあえず引き出さないことには作業できません。
前面側からアプローチしますが、外れてきません。
 

背面側に回ります。大きな
背面パネルを取り外します。

 

背面パネルを開けると、回路基板の全貌が見えます。
ディスクリート部品による当時のこってり感が溢れ出ます。

  

時計ユニットからの配線を確認する
ため、片側だけ側面パネルも外します。

 

時計ユニットを接続するコネクターです。
タイマーによる制御信号線が含まれます。

  

コネクターを抜くとユニットが外れて
きます。ネジによる固定はありません。

 

かなり厳重な金属製ケースです。特に
シールドする必要はないと思いますが。

  

ケースを分解します。数本の
ネジで組み立てられています。

 

クォーツが作り出すパルスにより
アクチュエータを駆動する方式です。

  

ケースの隙間に照明用の
電球が差し込まれています。

 

引き出してみると経年劣化により
ボロボロです。当然、点灯しません。

  

腐食によりリード線が切れています。
簡単な修理なので電球を交換します。

 

新しい電球を用意します。確かLEDに
交換する例がネット上にありました。

  

降圧用に抵抗器を接続します。ワット数が
足りないので2本を束ねて使用します。

 

接続部分にチューブを
被せて絶縁します。

  

照明が点灯しないだけで製品の見栄えが大きく低下します。さて、肝心の
時計自体の故障ですが、コネクタを差し直したところ問題なく動作するように
なりました。経年により接触不良が生じていたようです。このユニットは電源
として単1乾電池を1個内蔵するようになっています。電源OFF時や停電に
対応するためでしょう、本体の電源回路から電源供給を受けていません。

 

動作する気配もないカセット
テープデッキを修理します。

 

デッキユニットを引き出し、両側のマイナス
ネジを緩めると取り出すことが出来ます。

  

SONY製テープレコーダーの
ユニットが流用されているようです。

 

カセットホルダーの底面プレートを外します。
やはりどこかで見たような気がします。

  

底面プレートはほとんど化粧プレートのようです。
こちら側からは内部にアクセス出来ません。

 

ユニットを裏返して
底面カバーを外します。

  

ゆとりのあるオーソドックスな作りです。基板の1辺に
刻まれた端子が、本体側ソケットに差し込まれます。

 

数本のベルトが全て切れています。
ゴムが溶け出すまでには至っていません。

  

工房のストックの中から
サイズの合うものを選びます。

 

手前のプレートを1枚外すだけで
ベルトの交換が可能です。

  

キャプスタン軸やピンチローラーには特に損傷もなく、ベルトの交換と
僅かな注油で安定してテープが再生されるようになります。45年の
歳月が経過しようとしているものの、メンテナンスにより初期の性能を
取り戻せる点は、高品質であることのもう一つの側面ではないでしょうか。

 

この時点で月が替わり8月に入っています。ご依頼主の指示内容は既にクリアして
いるので、全体をクリーニングしてお返しする段階です。ところが、ここであることに
気付きました・・MW(AM放送)を受信できません。FM放送は問題なく受信できます。
ご依頼主に確認すると、ダイヤルの回転とデッキが修理できただけでも十分で、AMは
受信できなくてもよいとのことです。・・考え込みました、これだけのラジオがAM放送を
受信できなくてよろしいのでしょうか。しかし、スーパーヘテロダインを進化させ高度に
設計されたSONYの渾身作です。守谷工房ごときの歯が立つわけがありません。

 
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