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電気時計極小ピニオンギヤ(2019.5.7)


「電気時計」、今では意味不明かも知れません。交流電源の50Hzまたは
60Hzがかなり精度が良いことを利用し、同期型電動機で時間を刻む時計です。
私も高校生時代(50年前)に愛用していました。時刻表示がデジタルですが、
表面に数字が印刷されたドラムが回転しているだけで、中身はアナログです。

 

「Sankyo」を除き、型番シールの
印刷がほとんど読めません。

 

モーターを中心にする単純な機械です。
機械修理の感覚で分解を始めます。

 

背面カバーを外し、ユニットを内部に
固定している底面のネジを緩めます。

 

時計ユニットを丸ごと取り出します。
数字が印刷されたドラムが見えます。

 

ユニット背面に取り付けられている
この部品がムーブメントです。

 

この中にモーターが内蔵され、減速
されて最終段のピニオンを駆動します。

 

時計が動かないのはムーブメントが
動いていないからです。さらに分解します。

 

金属製フレームの周囲に作り
込まれたツメを解除します。

 

ドライバーの先を入れて
キャップをこじ開けます。

 

アルミ薄板製のキャップを外します。
埃の侵入防止用なのでしょう。

 

何となくおもちゃ修理のような雰囲気
です。製造技術が似ているからでしょうか。

 

キャップの内部では、大きな平ギヤと
極小のピニオンギヤが噛み合っています。

 

ピニオンギヤが駆動側で、モーターの軸に取り付けられています。正確には
軸が回転するのではなく、リングマグネットが回転し、台座に組み込まれた
マグネットが磁力により回転される仕組みです。さて、ピニオンギヤを見ると
平ギヤと噛み合う部分で山(歯)が無くなっています。長年の使用で削れて
しまったのでしょうか。電源を入れると台座部分は問題なく回転します。

 

平ギヤを抜きます。裏側に
逆回転防止用のツメがあります。

 

続いて台座ごとピニオンギヤを抜きます。
台座が回転することでピニオンギヤも回転します。

 

ピニオンギヤは樹脂製のスリーブを介して台座に圧入されています。裏側から
押し出すことで抜き取ります。ピニオンギヤの色は変色によるものでしょうか。

 

ピニオンギヤをあれこれ点検していると、突然全体が崩壊してしまい
ました。変色どころか材質が完全に変質し、強度も形状も保てない
状態です。スリーブには変質の兆候は全くなく、再利用が可能です。

 

歯数12、外径6mmの極小ピニオンギヤが必要
です。工房にもネットショップにも見当たりません。

 

かくなる上は自製するしかありません。しかし、工房の
レーザーではこの極小ピニオンはカットできる限界です。

 

平ギヤを駆動できれば良いわけで、歯の形状や
ピッチ円などは置いて、とにかく切ってみます。

 

ここまで小さいと、カットしている最中に切り出した
材料が動いてしまい、なかなか精度が出ません。

 

いくつか切り出した中から、
精度の良さそうなものを選びます。

 

ピニオンギヤ本体と、平ギヤに高さを
揃えるためのスペーサーを製作します。

 

スペーサーは寸法違いに
気付き、作り直しました。

 

スペーサーにスリーブを通します。
穴径の合うスペーサーを使います。

 

12歯の極小ピニオンギヤです。何とか
12枚の歯が欠けることなく刻まれています。

 

スペーサーに重ねてスリーブを通します。
アクリル接着剤で全体を固定します。

 

スリーブを台座に差し込みます。念のため裏側から接着剤を入れて固定します。このギヤが
一発で切れるレーザーカッター、あるいは造形できる3Dプリンターが欲しいものです。

 

台座をモーター側にセットします。中心の軸は
モーターシャフトではなく単なるピンです。

 

次に平ギヤを入れます。ピニオンの外周が若干大きく
干渉します。ヤスリを当てて外周を微妙に調整します。

 

プラグリスを入れると快調に回転します。2枚のギヤは問題なく
静かに噛み合っています。キャップを被せ本体を組み戻します。

 

最後に時間を校正します。実はピニオンギヤの歯数が本当に12枚なのか、少々
自信がありません。崩壊したピニオンギヤから歯数を数えたので、11枚や13枚
だったかも知れません。数分間の校正では正確に時間を刻んでいます。12枚に
対して±1枚の違いは、1分間で±5秒の差を生ずるので簡単に分かりましょう。

 
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