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Dysonが創るヘアドライヤー(2018.10.7)


ダイソン社のヘアドライヤーを初めて手にとりました。ハンディクリーナーの簡単なメンテを
したことはありますが、下手に手を入れてメーカーの保証外になるような事態は避けたい
ものです。でも、「どこに修理を頼んでも断られた」とご依頼主はおっしゃっています。電源が
入ったり切れたりを繰り返すそうで、「ダイソンにもそんなことがあるのか」と思っていました。

 

ハンディクリーナーや扇風機と共通する、従来の
家電製品とは明らかに一線を画する高品質です。

 

有名な「羽根のない扇風機」と同様の
原理で、強力で安定した気流を送り出します。

 

ダイソン社のWEBサイトを覗いてみます。製品の種類は
限られているものの、どれも新技術が盛り沢山です。
 

ヘアドライヤーには、デジタルモーター、エアマルチプライアー
テクノロジー、インテリジェント・ヒートコントロール・・等々。

 

スイッチを入れると取りあえず風が吹き出ます。かなりの
騒音ですが、猛烈な風量を考慮するとむしろ静かです。

 

その風が、電源コードを引くと止まってしまいます。この本体
付け根の膨らみは、内部断線の可能性を示しています。

 

グリップ下端の吸気カバーを外します。
ここからエアを取り込むなど常識破りです。

 

ダイソンの技術領域に足を踏み入れます。
早速立ちはだかるのはスター型のネジです。

 

お預かりしている修理品に横着は許されません。
正確にフィットするドライバービットを選び出します。

 

ビット長が短いため、ぎりぎりでネジ溝に届きます。
無理な力を加えないよう慎重にネジを緩めます。

 

意外と長さのあるネジが使われています。
反対側のもう1本も、同様に緩めます。

 

吸気カバーの内側には、非常に目の細かい
金属製のフィルターが取り付けられています。

 

精密加工されたパンチングメタルのような金属板で
シェーバーの外刃に材質が良く似ています。

 

フィルターを取り付けるだけにしてはやけに複雑な構造
です。4本のポストの隙間から空気が取り込まれます。

 

次に分解できそうな手掛かりはこのネジです。
やはりスター型の特殊(でもない)ネジです。

 

反対側までほぼ貫通し、グリップ部の
強度を保つための長いネジです。

 

次に見えるこのネジ。グリップ外側には円筒形カバーを
被せているようで、カバーをグリップ本体に固定しています

 

カバーを引き抜こうにも、操作ボタンが飛び出して
いて邪魔します。押し込んであるだけでは・・

 

やはりそうでした。再度はめ込む時は
少量の接着剤を入れることにします。。

 

外側カバーを引き抜きます。選ばれた
材質で作られた手触り感の良いカバーです。

 

グリップの内部が露わになりました。モーターや
配線はさらに内部カバーを分解した中にあります。

 

下側のネジはカバーを外す前に緩めてあります。
上側は3本のネジで固定されています。

 

ドライバービットを合わせてネジを緩めます。とにかく
精密な造りで、ずれ、隙間、はみ出しが見当たりません。

 

操作スイッチ(反対側)の上下位置にゴムバンドが
入れられています。外側カバーのズレ防止用でしょう。

 

グリップの内部構造が左右に2分割されました。中にダイソン製小型
モーターと、モーターへ接続される配線が収められています。電源
コードの内部断線を修理するにも、ここまで分解する必要があります。

 

ダイソンが誇るデジタルモーターV9です。他社モーターの半分の重量で11万rpm
(max)、精度15ミクロンの13枚羽根が3.5kPaで13ℓ/sの気流を作り出すそうです。

 

不具合はモーターではなくあくまでもコードの断線。
電源コードを引き込む部分の設計は各社各様です。

 

ドライヤーごと振り回されるストレスに長年耐える工夫が
求められます。保護チューブの中にコネクタ接続があります。

 

依頼されるほとんどのヘアドライヤー・ヘアアイロン修理が、
電源コードの内部断線です。各社共通のアキレス腱です。

 

この点、ダイソン社も例外ではないようです。
しかし、内部配線の取り回しが巧妙です。

 

本体内部に引き込まれた電源コードは、この硬質樹脂製のブロック部品に完全に
固定されています。コードの周りに射出成型されたものだと思います。思い切り強く
引いても、抜けてくる気配は全くありません。しかし、手前で内部断線しています。

 

このブロック部品は再利用しなければなり
ません。ブロックの前後でコードを切断します。

 

コードをブロック内部に強固に止めて
いる、何か仕掛けがありそうです。

 

電源コードは、強度を高めるため木綿紐を編み込んで
います。切り口から、中に残った紐を取り出します。

 

ですが、よほど固く締め付けられているのか、
なかなかほじくり出てきません。根気よく作業します。

 

ようやく底が見えました。コードを固定していたのは金属製
ワイヤーです。ワイヤーを巻き付けてから成形したようです。

 

ワイヤーを取り出すのも厄介です。ドリルを入れて
ワイヤーの肉厚をある程度落としておきます。

 

コードが入る穴の内側周囲に、肉の
落ちたワイヤーが残っています。

 

ようやくワイヤーの外側にドライバーの先が入り
ました。ブロックを壊さないよう引き上げます。

 

ニッパで掴み直し一挙に引き出します。ここまで堅牢なコード
固定方法は見たことがありません、内部断線してますが。

 

ドリルで肉を落としたはずですが、まだ
これだけ強力なワイヤーが残っていました。

 

ワイヤーを取り除いた後、
穴の内部を綺麗に整えます。

 

穴の底面からコードが2本の芯線に枝分かれし
各々反対側に出るための小さな穴が見えます。

 

内部断線している部分を、前後に多少余裕を持たせて切り落とします。本体
付け根に近い部分は、一定範囲にわたりストレスが蓄積しているはずです。
断線個所ぎりぎりで修理すると、早々に次の断線を引き起こしかねません。

 

切り落としたコードの芯線を調べてみます。すぐに断線
個所が見つかりました。ゴム製外被が伸びています。

 

電源コードを新たに接続し直します。
外被を10cmほど除去します。

 

編み込まれている紐を分離します。紐はコードの引張
強度を飛躍的に高めますが・・、内部断線してました。

 

内部に引き込まれた先は邪魔になる
だけなので、根元で切り落とします。

  

樹脂製ブロックに通してみます。製造工程では、コードの根元にワイヤーを
巻き付けておき、コードごと金型にセットして硬質樹脂を流し込むのでしょう。

 

再利用するブロックにコードを固定するため、
金属用の2液性強力接着剤を使用します。

 

コードを通した穴の中に接着剤を充填します。ブロックの硬質
樹脂、コードの外被ともに接着剤との親和性は高いはずです。

 

電源コードの根元周囲にも接着剤を塗り付け
ます。穴の内部に空隙を残さないようにします。

 

コードの根元側を押し込み、芯線側を引きだします。
穴の底にコードが密着するよう固定しておきます。

 

モーター配線との接続部は、自動車用に多用される平型端子です。切り落と
してしまった元の端子は再利用が面倒なので、工房の在庫から同サイズの
ものを探し出しました。出来るだけ元の状態と同様に修復したいものです。

 

各々の芯線に平型端子を取り付けます。
導線を挟む部分は強く圧着しておきます。

 

平型端子の上に保護・絶縁用に
熱収縮チューブを被せます。

 

モーター側のコネクタと接続します。
配線はポストの中に納まります。

 

熱収縮チューブを移動させ
平型端子全体を覆います。

 

ゴム製保護カバーをコード根元に引き寄せ、樹脂製ブロックと
一体にします。材質の異なる部品も精密に成形されています。

 

ブロックとカバーが正確に合体していれば、
そのままグリップ本体内に隙間なく収まります。

 

グリップの左右カバーを
元通り組み付けます。

 
 
気流の通路途中にあるこのパッドの働きが良く
分かりません。静音効果をもたらす部品でしょうか。

 

外側カバーをはめ込みます。かなりきつめですが、
このくらいでないと精密な組み付けが得られません。

 

操作スイッチの位置を合わせ、
下端の固定ネジを締め込みます。

 

フィルターを取り付けます。全ての
部品が一様に高品質な製品です。

 

フィルターの固定ネジも取り付けます。高品質と
言われてきた日本製品に疑問符が付きそうです。

 

吸気カバーを取り付けて作業完了です。本体を振り回しても電源コードを多少
引いても、電源が切れることはありません。ダイソンクリーナーとも共通するかん
高いモーター音、宣伝されるほど静かではありませんが、高性能を物語るかの
ように心地よく耳に残ります。ただし、ダイソン直販価格48,600円(税込)!

 
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