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SONY小型ラジオAM受信できず(2019.5.2)


SONY製のAM・FM・TVの3バンドを受信できる小さなラジオです。TVはアナログ
放送当時の音声受信機能で、現在の地デジ放送には対応しません。不具合は、
何故かAM放送が受信できず、加えて内蔵イヤホンの片側が聞こえないそうです。

 

製品名は、2002年発売のSRF-R633V。
SONYのWEBサイトに取扱説明書があります。

 

手のひらに収まるコンパクトサイズ。しかも
背面にステレオイヤホンが内蔵されています。

 

乾電池(単3・1本)をセットし電源を入れてみます。
内蔵スピーカーからFM放送が聞こえてきます。

 

TV放送に切り替えます。受信
チャンネルが表示されるだけです。

 

AM放送に切り替えます。確かに受信しま
せん。スピーカーから何も聞こえません。

 

受信周波数を色々変えても、AM帯
特有の雑音すら聞こえてきません。

 

内部にアプローチする
ため本体を分解します。

 

本体は表・裏カバーの2ピース構造
です。「⇒」印のあるネジを緩めます。

 

ネジ固定は2か所のみです。割と
簡単な構造をしているようです。

 

乾電池を抜かないと
カバーが外れません。

 

ツメによる巧妙な篏合を解除します。隙間を
探りながらドライバーの先を差し込みます。

 

一度解除された篏合が元に戻らない
よう、左右に隙間を広げていきます。

 

篏合のある個所がほぼ分かりました。
ツメを折らないよう丁寧に開きます。

 

篏合部の設計が不十分ですと、本体
カバー組み付け時の外観を損ないます。

 

カバーを分離させます。内部を相互に
接続しているケーブルに注意します。

 

内部のケーブルはイヤホンに信号を
送るフレキシブルケーブルのみです。

 

回路基板の全体です。デジタル回路用の高密度配線に、バーアンテナ、
イヤホンジャック、可変抵抗器といったアナログ部品が混在しています。

 

この枯れた粘着テープはバーアンテナの
配線保護用に貼られていたようです。

 
 
AM放送のみ受信できないことから、
先にバーアンテナ周りを点検します。

 

間もなく問題が見つかりました。バーアンテナから出る細い配線のうち2本の
中間線と基板の半田付けが切れています。よほど大きな力や衝撃が加わら
ない限り、半田付けされている接続がなぜ切れてしまうのか不可解です。

 

乾電池をセットして電源を入れ、ピンセットで
配線を押さえ付けると、スピーカーが鳴り出します。

 

配線を半田付けし直します。元々
半田付け不良だったのでしょうか。

 

AM放送受信の問題は解決です。内蔵スピーカーが正常に機能して
いるので、ここまでの作業は順調かつ簡単に進めることができました。

 

もう一つの不具合、イヤホンの片側が聞こえない問題に
かかります。この細い配線なので内部断線だと思います。

 

内蔵イヤホンは背面側のカバー内部に、
巻き取り機構とともに格納されています。

 

回路基板から音声信号を取り出す
ケーブルです。コネクタ部を抜きます。

 

イヤホンコードの巻き
取り機構を外します。

 

コードが引き出された後、ゼンマイが戻る力に
よりリールが回転してコードを巻き取ります。

 

ベースプレートのシャフトにリールを
固定しているロックプレートを外します。

 

ベースプレートからリールを外します。内側にR・L2チャンネル分の
音声信号を伝える、ロータリー式電極とブラシの付いた円盤が組み
込まれています。この機構によりリールの回転に自在に対応します。

 

円盤の端子部分でイヤホンコードの導通を確認します。
片方は正常で、イヤホンからガリガリ音がします。

 

もう片方のコードは導通がありません。イヤホンも
無音です。コードの内部断線に間違いありません。

 

コードごとイヤホンを新品に
交換するのが簡単です。

 

円盤の溝に組み込まれた
コードを取り外します。

 

マイナス側はL・Rチャンネルを
1本にまとめて接続されています。

 

本体カバーからコードを抜きます。面倒な機構が
限られた空間に見事に実装されているものです。

 

コードの巻き取り機構を
構成する部品です。

 

新しいイヤホンを用意します。残念なことに元の
イヤホンのような極薄型の製品は見つかりません。

 

どの製品もハウジング部が大きく、本体内に収納でき
そうにありません。さらにLRでコード長が異なります。

 

収納できない点はご依頼主に了解いただきましたが、
LRでの長さの違いは解決しなければなりません。

 

コードの分岐部を補強している
モールドを切り離し取り除きます。

 

モールドによる余分なビニル樹脂を
カッターナイフで削り落とします。

 

LRで同じ長さになるよう
コードを切り詰めます。

 

コードの先端を処理します。極細の2芯はアラミド
繊維を挟み、表面に絶縁コーティングがされています。

 

撚り合わせた先端部分だけ半田付けします。
絶縁コーティングは半田の熱で除去されます。

 

接続部分を瞬間接着剤で補強し、
熱収縮チューブを被せて保護します。

 

コードの反対側は、不要な
ミニプラグを切り落とします。

 

LR2本分の先端を処理します。
マイナス側は1本にまとめます。

 

共通のマイナス側を
端子に半田付けします。

 

L側コードを引き回して
端子に半田付けします。

 

R側コードも半田付けします(L・Rの区別は
確認のしようがないため正確ではありません)。

 

円盤面の溝内に各コードを収め、
瞬間接着剤で軽く固定します。

 

円盤をリール内に収めたところで・・、大問題に気付きます。まず、コードの太さが
原因で円盤が完全に収まらず、少し持ち上がっています。リールにコードを巻き付けて
みると、やはり太さのせいでリール内に収まりません。一般市販品には、低価格で
一定の強度を保つためかなり太さのあるコードが使用されています。逆に元のイヤホン
コードには、特殊な極細品が使用されています。同等品質のイヤホンあるいはコードを
入手することは・・、残念ながら不可能です。かくなる上は、元のコードを再利用します。

 

内部で断線していることが分かって
いますが、問題はその場所です。

 

イヤホンを耳に掛ける時のしぐさからして、
イヤホンの根元で断線しやすいと仮定します。

 

イヤホンの根元近くでコードを
切断し、先端を処理します。

 

やはりアラミド繊維を挟み込んだ
超極細の2芯コードです。

 

再利用する部分の導通を調べます。仮定
した通り2本とも途中に断線はありません。

 

円盤上の端子に
接続し直します。

 

円盤をリール内に収めます。すんなり
入ります、元の設計通りということです。

 

ベースプレートと合体させる前に、ロータリー式
端子の表面に接点復活剤を吹いておきます。

 

シャフトにリールを差し込み、シャフトの
切り込みにゼンマイ端をかけます。

 

ロックプレートを嵌め込みます。脱落を防止する
ため、数か所に瞬間接着剤を差しておきます。

 

コードが細くしなやかで、取り回しや
リールへの巻き付けが容易です。

 

コードの引き込み口から
コードを外へ出します。

 

ゼンマイを余分に巻き上げ、コード巻き取りに余裕を持たせます。ベース
プレートをネジ固定し、コードの引き出し、巻き取り具合を確認します。

 

イヤホン本体は新品を利用します。本体の
付け根に近い部分でコードを切り落とします。

 

コード端を処理します。撚り合わせた
芯線の先端部だけ半田を乗せておきます。

 

忘れないうちに熱収縮
チューブを通しておきます。

 

予め半田を乗せた先端部どうしを
半田付けにより接続します。

 

取りあえずイヤホンの接続作業を終えたので、
実際に音声が聞こえるかここでテストします。

 

ベースプレートから出るフレキシブルケーブルを回路基板
上のコネクタに差し込みます。ケーブル長がぎりぎりです。

 

左右チャンネルとも問題
なく音声が聞こえます。

 

コードの接続部を仕上げます。
瞬間接着剤を充填し補強します。

 

熱収縮チューブを被せ
接続部を保護します。

 

イヤホン本体が大きくラジオに収納できない点が残念ですが、
左右とも信号伝達が復活し、AM放送も受信できるようになりました。

 

今後もし薄型のイヤホンが入手できたら、引き込みコードの先端で
切り離して新しいイヤホンに付け替えることもできましょう。その際、
ラジオ本体や巻き取り機構を分解する必要はありません。最後に
再度動作確認し、本体全体を軽くクリーニングして作業終了です。

 
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