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SONYトランジスタラジオTR-813復活(2019.2.25)


遠く北海道小樽市からのご依頼です。昭和40年代に購入されたSONYラジオ
TR-813、北海道東部地震の際に使い物にならなかったそうです。50年以上
愛用され、捨てるにはとても惜しいそうです。何とかして差し上げたいものです。

 

あえて「トランジスタ・ラジオ」と銘打っていた
時代です。豪華な本革製ケースに入っています。

 

革製のケースが奢られるほど、トランジスタラジオが貴重
だったということです。ケースのスティッチも本格的です。

 

本革の耐久性は素晴らしいものです。今も
形が保たれ、ラジオ本体を保護しています。

 

ラジオ本体を取り出します。パンチングメタルのシルバーと
樹脂ケースのグレーによるツートンが往時を偲ばせます。
 

中波・短波の2バンドをスライドスイッチにより切り替え
ます。精緻な周波数表示器が性能を物語っています。

 

1960年(昭和35年)の発売のTR-813、裏面に
トランジスタの使用個数(8個)が表示されています。

 

当時登場したばかりのトランジスタは、近未来的な
デバイスであり、8個→8石と呼ばれていました。

 

止めネジを緩め裏カバーを開けます。
60年近く前の技術との対面です。

 

本体内部、底部分に乾電池(UM2×3本で4.5V)、上方に20cmほどある
バーアンテナ、中央部分にRF回路と低周波増幅回路、低周波回路に覆われて
スピーカーが取り付けられています。バリコンと独立して6連のトリマーがあります。
念のため乾電池をセットしてみますが、お聞きしていた通り全く作動しません。

 

職人的で嗜好の強い構造設計に手こずります。
回路基板の中央を固定しているポストネジを緩めます。

 

右側の低周波基板に、スピーカーを
避けるための高さを与えています。

 

同調ツマミを抜き取ります。金属メッキされた
樹脂製で、製品に高級感を与える常套手段です。

 

同調ツマミの手前にミニプラグ用のジャックが
あります。外部アンテナの接続用でしょう。

 

スピーカー出力が分岐してイヤホン
ジャックを経由します。2系統あります。

 

ジャックの固定方法がレトリックです。差し込み
口の周囲に溝付きのリングナットが入っています。

 

ピンセットの先で回転させ緩めます。工員さん
たちの手で1個1個組み立てられたのでしょう。

 

2個のジャックは穴の開いた
金属板で連結されています。

 

反対側の側面に付いているスライドスイッチは
音量アッテネータのようです。使途が分かりません。

 
 
周囲との接続が解除され、徐々に基板が浮いてきます。
ケース前面の押しボタンスイッチを受ける小さな基板です。

 

周波数表示器のバックライトを点灯させるスイッチ
基板です。コツコツと手作りされた跡を感じます。

 

低周波回路基板のある部分から
バックライト用電源が取られています。

 

引きずる配線がようやく片付き、回路基板を
支えている金属フレームごと引き出します。

 

金属フレームには、2枚の回路基板を支えると同時に
周波数表示器(精緻な機械式)が作り込まれています。

 

取り出された高・低周波回路基板の全貌です。今ならばDSP1個で片付く回路
ですが、ディスクリート部品が所狭しとひしめき合っています。ソリッドステート
電子回路発展期の、先駆的技術者たちがものづくりに注いだ魂を感じます。

 

黒パッケージの2SB51・52あたりが
見えます。もちろんSONY自社製です。

 

故障原因を探るには、余分な接続を極力排除
します。乾電池ホルダーへの配線も邪魔です。

 

同調ツマミの内部機構です。電子回路なのに
これだけ精緻な機構が組み込まれています。

 

シャフト奥のプーリーが周波数表示の針を移動させる
リードを巻き取ります。バリコンの手前はダブルギヤです。

 

2枚のギヤがスプリングによりバックラッシュ無しで
回転します。マイナス側のホルダーも取り外します。

 

電源(乾電池)のマイナス側は、音量調整可変抵抗器に
付属するON・OFFスイッチ端子に接続されています。

 

プラス側電源の配線をたどると、低周波
回路基板のここに接続されています。

 

動作確認の際は別途電源を接続
するので、いったん外しておきます。
 

機能が判明している配線を取り除き、できるだけ
シンプルな状態にして回路構成の理解に努めます。

 

金属フレームから2枚の基板を分離できそうです。
不具合個所を発見するため別個に眺めたいものです。

 

2枚の回路基板をつなぐ配線です。おそらく電源、
音声信号、AGCあたりでしょう。合印を付けます。

 

半田を溶かして配線を外します。
これで基板を分離できるはずです。

 

写真左下が低周波増幅回路基板、右側がRF回路基板です。RF部はバリコンや
バーアンテナ、別基板のトリマーと一体になっています。ここでようやく中波・短波の
切り替え用スライドスイッチがアクセス可能になります。実は当初からこのスライド
スイッチの接点劣化を疑っています。何せ60年近く経過しているものですから。

 

スライドスイッチを疑うもう一つの理由は、本体に染み
付いたタバコ臭です。タバコのヤニは接点の大敵です。

 

潤滑剤を吹き付けます。開放型のスライドスイッチ
なので外から吹き付けて接点まで浸透するはずです。

 

別途用意した電源を接続し動作確認してみます。放送
こそ受信できませんが、スピーカーにノイズが乗ります。

 

バンド切り替えのスライドスイッチを何度も動かします。最初は
動かすたびにノイズが出ましたが、次第に大人しくなります。

 

低周波回路は問題なく機能しています。ということは不具合はRF部にあります・・高周波
回路のトラブルシュートは苦手なのですが・・とその時、放送が受信できない理由が判明
しました。写真中、ピンセットでつまんでいるバーアンテナからの配線が、基板に半田付け
された根元部分で断線し浮いています。基板に接触させると空電ノイズが入ってきます。

 

愉快になるくらいガンガン放送が受信できます。表カバーにある
「SUPER SENSITIVE(高感度)」のロゴは嘘ではありません。

 

大元の不具合修理に成功したので、付帯的部分の
補修に移ります。機械的な損傷か所があります。

 

バーアンテナを保持するビニル
樹脂製ステーが壊れています。

 

金属フレームに固定するネジ穴部分が
破損し半分以上無くなっています。
 

瞬間接着剤で固定するしかありません。硬化
促進剤を使いながら、周囲を肉盛り・補強します。

 

こちら側はハトメ固定をネジ
固定に変更するだけです。

 

50年分の汚れを落とします。
アルコールで拭き上げます。

 

精緻に作られた周波数表示器も、表面が
くすみ内部まで汚れが入り込んでいます。

 

周波数が刻印されたアクリル板を、
表裏とも丁寧に拭き取ります。

 

刻印の背面となる金属板も、
表面を綺麗に拭き取ります。

 

アクリル板を戻します。
新品時の輝きが蘇ります。

 

音量つまみにも油性の汚れが入り込み
見栄えをひどく損なっています。

 

ツマミ周囲の刻みにも汚れが入り込んで
います。歯ブラシを使いかき出します。

 

この程度でよろしいでしょう。文字
刻印が消えかけないうちに止めます。

 

短波受信時の微調整用バリコンです。
表面が煤けたように反故れています。

 

洗剤(界面活性剤)を使用する方が
要領よく汚れを落とすことができます。

 

周波数表示器を見せる、本体ケース前面の開口部
アクリル板です。アルコールでくすみを取ります。

 

本体ケースの外側を全体的にクリーニングします。
アルミ製パンチングメタルに汚れがこびり付いています。

 

クリーニングを終えた本体ケース(前面側)に
フレーム+回路基板を戻し、配線を整えます。

 

裏側カバーの内側にスポンジのカスが
残っています。乾電池を押さえるパッドです。

 

いったん綺麗に取り除きます。何か代用品を
当てないと、内部で乾電池が暴れます。

 

隙間テープがありました。粘着テープ
付きです。ほどよい柔らかさです。

 

適当な長さに切り、元の
位置に貼り付けます。

 

裏カバーを元に戻します。ラジオの機能が復活し、
加えて50年分の汚れが落ちてスッキリしました。

 

20cm近いバーアンテナの感度は抜群
です。AM放送がクリアに受信できます。

 

短波の受信が今ひとつです。電波強度が低い
ことと、専用アンテナが必要なのかも知れません。

 

しっかり形状を保っているものの、本皮革製専用ケースの外観はかなり
見栄えを損なっています。比較専用のケミカルを使用したいところですが、

 

合成皮革用の艶出し剤を流用します。
皮革内部にある程度浸透すればOKです。

 

ワックス分を含んでいるので、一定の
効果は期待できると思います。

 

艶出し・・まではいきませんが、
全体的にしっとり感が出ます。

 

その昔、新品のラジオを購入し開封すると、箱の
中から本革の匂いが立ち込めた記憶があります。

 

ラジオ本体を革製ケースに収めました。重厚感があり頼もしい
印象です。災害時などには本体が十分保護されるでしょう。

 

北海道小樽市は小学校4~5年生の頃、住んでいたことがあります。道内しか
知らなかった子供の頃、ラジオで全国放送や海外放送を聴いたことを懐かしく
思い出します。遠い記憶の町へ、復活したSONYラジオを送り返します。


 
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