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電源コネクタ内切片の修復(2018.12.18)


この1年間で何本のヘアアイロンを修理させていただいたでしょう。そのほとんど
全てに共通するのが、電源が付いたり切れたりする不具合です。電源コードが
本体付け根部分で内部断線しています。今回もまたいつもの修理かと思いつつ・・

 

電源コードの本体付け根部分を真っ先に点検します。
コードが絡まないよう、自在に回転するコネクタです。

 

自在コネクタがコードのストレスを解消するので、付け根
部分に傷みが見られません。内部断線はないようです。

 

それでも電源が付いたり切れたりするのは、
内部に何か別の不具合があるからです。
 

自在コネクタ外周の樹脂バンドを外し、左右
外側カバーを合体させるネジを緩めます。

 

カバー円筒部が左右に分離し、中から自在コネクタを
取り出します。ソケット内でプラグが回転する構造です。

 

ソケットの内側に金属の小片が落ちています。金属
部品の一部のようで、破断して脱落したようです。

 

ソケットの内部を観察すると、すぐに破断元の部品が分かりました。プラグ外周部と
先端部に取り付けられた電極に、ソケット内部に組み込まれた電極切片がそれぞれ
接触することで、AC電源を内部回路に供給する構造です。プラグ先端部を左右から
挟む2枚の金属製切片のうち、片側1枚が脱落しています。小片はその残骸です。

 

元より電気的接触が十分ではなかったようです。
繰り返し火花が飛び、内部が汚れています。

 

このソケット部分を修理しなければなりません。
先に配線の保護チューブを取り除きます。

 

配線の接続部にフェライトコアが入れられて
います。スパークが飛ぶことは前提のようです。

 

ソケット下部に突き出ている金属
切片の端子から配線を外します。

 

金属切片の一部が、ソケット下部のスリットから
突き出て端子の役を果たしています。押し戻します。

 

ソケット外部に引き出します。左右2枚の
切片のうち片側1枚が失われています。

 

プラグが回転しても、先端の電極を2枚の切片で
挟み込んでいるので、電気的接触が維持されます。

 

薄く可撓性に富む銅合金製なので、回転や振れに
追随できますが、片側1枚では厳しいでしょう。

 

また、金属疲労により弾性が低下すると追随性も
損なわれます。折り曲げ部分を補強してみます。

 

折り曲げ内側に半田を盛り、部分的に剛性を
与えることで全体の弾性を改善します。

 

切片が無い側にプラグ先端が振れても、片側の切片が
電極に追随して接触を維持できれば良いわけです。

 

念のため折り曲げ部分の外側にも
半田を回して補強します。

 

先ほどまで今にも折れて落ちそうだった切片が、
半田による補強で剛性+弾性を取り戻しました。

 

修理した切片をソケット内部に戻します。
交換のできない部品なので慎重に作業します。

 

相変わらず金属製切片は1枚のままですが、切片の位置がプラグ先端の中心に
かかっているので、(取りあえず)電極と接触できるはずです。実際の使用時に、
回転に加えプラグ軸が振れた場合、切片が上手く撓んで追随出来るか心配です。

 

フェライトコアスリーブを入れて
配線を半田付けします。

 

電熱器具なのでコードの接続には十分
信頼性を持たせなければなりません。

 

フェライトコアの上から熱収縮
チューブを被せ、熱処理します。

 

本体外側カバーの円筒部にソケットを収め
ながら、狭い内部空間に配線を入れ込みます。

 

本体を組み上げて修理の成果を確認します。
電源が入りました、(取りあえず)通電しています。

 

・・が、電源コードを回転、揺らしてみると、
簡単に電源が落ちてしまいます。ダメです。

 

やはり片側1枚だけの切片では、電気接触が維持でき
ないようです。一瞬の切断で回路がOFFになります。

 

もっと信頼性のある修理方法でなければいけません。
外装保護シートの一部を剥がし、配線もやり直します。

 

片側1枚だけ残っていたはずの
切片が、既に無くなっています。

 

残っていた1枚も、金属疲労が進行し破断寸前だった
ようです。半田による補強はさして意味がありませんでした。

 

やはり切片をしっかり修復しなければいけません。
修復用材料として0.1mm厚の真鍮版を用意します。

 

切片用に幅2mmの板を切り出します。歪みが生じない
ように、カッターナイフ・アクリルカッターでカットします。

 

どうしてもある程度のカールが残ります。
平滑な面の上でしごいて平板にします。

 

プラグ先端の電極を上手く挟み込むよう、
長さと角度を調整しながら折り曲げます。

 

脱落した元の切片を参考にしながら形状を整えます。プラグ先端部を捉えやすいように
切片の先を折り曲げて僅かに開きます。この修復作業に失敗すると、端子部分も含めて
切片の全体を展開図から製作することになります。難度が上がるので避けたいものです。

 

電極を挟み込む切片部分を、
端子を含む基部に取り付けます。

 

両部品とも接合面に半田を引いておき、
フラックスを付けて加熱のみで接合します。

 

ソケットに押し込みます。スリット幅が金属板の
厚みぎりぎりなので、半田が残っていると通りません。

 

何とか行けるのではないでしょうか。左右両側から挟み込む
ことで、電気的接触・追随性が格段に向上するはずです。

 

配線に使用するコードは全て新しい
ものに交換します。接続を確実にします。

 

端子にコードを半田付けし、フェライトコア
スリーブを接続部根元に引き寄せます。

 

熱収縮チューブを被せて接続部を保護
します。フェライトコアの固定も兼ねます。

 

電気的接触不良は、丁寧に作業すれば
必ず解消できるトラブル(のはず)です。

 

回路基板の電源接続部です。ランドの周囲を
整え、新しいコードを確実に半田付けします。

 

本体先端部を覆う保護シートが妨げになり、外側カバーに
隙間を開けて作業してきました。元通りに組み上げます。

 

コネクタ内切片の修復は、板金加工のような様相です。コネクタが本体円筒部に
収まると、切片やプラグの様子を外部から観察することは不可能です。あくまでも
実装状態で修理の結果を確認するしかありません。不具合があれば再度分解です。

 

電源スイッチを押すと、通電して現在の
アイロン面温度が表示されます。

 

温度設定を高温側に変更します。表示のバックライトが
赤色に変化し昇温します。ここで電源コードを動かします。

 

かなり激しくコードを揺らしても電源が切れません。
切片が電極に追随し、接触が維持されています。

 

コードを回転させたり、上下左右に激しく揺さぶったり、
何度もテストしますが・・、切れません、今度はOKです。

 

実は最初の修理の後、ご依頼主に一度修理品をお返ししました。「まだ電源が切れる」
とのご指摘をいただき、後半の再修理となりました。納品前の動作確認が甘かったことを
反省しております。2往復分の配送時間も含め大変長くお待たせするなど、ご依頼主には
ご迷惑をおかけしました、お詫び申し上げます。「取りあえず」修理を終えてはいけません。

 
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