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業務用PHS極細配線の修復(2022.1.13)

 
高齢者施設から連絡があり、PHSを修理して欲しいとのご用命です。
「いま時ピッチ?」と思われるでしょうけれど、施設などの限られた
範囲内での業務連絡には、弱電力のPHSがまだ活躍しています。
 

業務用だけに、一時的にせよ使用
できなくなると大いに支障をきたします。

 

現在のスマホでもなく携帯でもなく、ひと昔もふた昔も
前のPHSからは、前時代的な雰囲気が漂います。

 

裏蓋を開けてバッテリーを取り出し本体を分解
しようとすると、小さな特殊ネジで固定されています。

 

工房にある特殊ビットの中に、
このサイズのものはありません。

 

ですが、小さいマイナスドライバーを、ネジの
センターを外して押し当てると・・何とか回ります。

 

「充電ができない」の意味が分かりました。
内部基板上のソケットがコケています。

 

基板に半田付けされた金属製のソケットカバーです。一見
して本来の取り付け位置からずれていることが分かります。

 

両袖ステー部の半田付けが剥がれかけています。
充電器側のコネクタが無理に押し込まれたようです。
 

それどころか、ソケットの
中身が無くなっています。

 

PHSをお預かりする際に渡されたこの小さな部品、ソケットの中身です。
失くさずに保管しておいて下さって助かります。紛失していると同等品を
探さなければなりません(OEMパーツなので多分見つからないでしょう)。

 

先ほどの金属カバーの中に、この樹脂製
ソケット本体が収まる構造です。
 

ソケットの背面側に接続端子が
数本取り出されています。

 

しかし、ソケットが無理に押し込まれたことで、基板に半田
付けされていた端子も引き剥がされ、ひどく変形しています。
 

交換できるに越したことはありませんが、
止むを得ず変形を修正していきます。

 

変形の修正だけならばはるかにマシだったようです。充電用端子は
4ピンで構成されているところ、何とそのうち1本(写真右端)が折れて
脱落しています。端子の根元がかろうじて残っている状態です。
 

絶望と挽回の境界に立たされる思いです。
が、作業できるところまで進めてみます。
 

この細かい作業には、半田ごての先を
ニードルタイプに交換して臨みます。

 

取りあえず、ほぼ脱落状態の
金属カバーを基板から外します。
 

取り外してみると、両袖のステー
部分が大きく変形しています。

 

ラジオペンチで少しずつ変形を修正します。数か所に出ている小さな
ツメは、内側に収まる樹脂製ソケットの位置決めと固定を担います。
 

接続端子を修復した樹脂製
ソケットを、内部に納めます。
 

金属カバーの変形が修復されているので、
ぴたりと収まりしっかりホールドされています。
 

基板側のソケット取り付け部分です。金属カバーの固定用ランド、
接続端子用の4本のランドとも損傷はなく、再利用できそうです。

 

先に金属カバー両袖のステー部分を半田付けします。4本の接続端子を
ランド位置に正確に一致させなければなりません。拡大鏡下での作業です。

 

金属カバーのステー部を、半田を多めに
盛り付けて左右とも強固に固定します。

 

もう一度接続端子の位置を確認します。
右端の1本が脱落したままですが・・

 

精密作業用ピンセットの先がぎりぎり入る隙間に、ニードル状のこて先を
侵入させ接続端子を固定します。拡大鏡下で分かることは微妙な手先の
震え」であり、半田付けは一発勝負です。ところが、温度調整機能付きの
半田ごても、これだけ細いこて先では十分に熱が伝わりません。先端ほど
熱容量が小さいので、接触させた瞬間に温度が低下し思うように半田を
溶かすことができません。温度が回復するのを待って一瞬で作業します。

 

さて、大問題は脱落した接続端子1本をどうやって
修復するかです。ビニルコードの芯線を用意します。

 

樹脂製ソケットの背面に、脱落した端子の根元が僅かに
残っています。ここに半田を溶かし付けておきます。

 

芯線の端をまずランドに半田付けします。
4本目の一発勝負・・、何とか成功です。

 

最悪の条件下で芯線の他端を端子の根元に
半田付けします。息を完全に止めて作業します。

 

先に溶かし付けておいた半田が、芯線の周囲にまとわり付いてるのが
確認できます。この状態であれば電気的な接続は(多分)大丈夫でしょう。

 

横からLEDライトを当てながら撮影したこの写真で、細い芯線により
脱落した端子が補われていることが分かります。回路計を当ててみる
分には、接続端子根元部分と基板ランド間での導通、および接続端子
同士の絶縁(非導通)に問題はありませんが、それ以上は何とも・・。

 

修理できたか否か確認しようにも、本体をお預かりする際に充電器を
お借りできませんでした。1台しかない充電を貸し出すと、残りのPHSを
充電できず業務に支障が出るとのことです。止むを得ず動作確認しない
ままに納品に出向きます。施設の受付で充電器をお借りし職員の方が
覗き込む目の前で、失敗した時の言い訳を考えながらの通電テスト・・。
こういうのって
ですよね。結果は無事成功、納品書をお渡しします。

 
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