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フィリップス製レコードプレーヤ再修理(2022.5.20)

 
昨年11月25日にアップした「フィリップス製レコードプレーヤ修理」を
ご覧になりましたでしょうか。増幅回路に真空管が使用されており、
手探りのような修理のままご依頼主に戻してしまいました。音が良く
なったとの連絡もありぬか喜びしていたのですが、その後、私立の
中高等学校に勤務される技術科の先生からメールを頂戴しました。
 

こちらは「フィリップス製レコードプレーヤ」の修理記事についてです。WEB掲載の記事で詳細まではわからないのですが、ちょっと不自然に感じた所があるので、わからないながらも記してみます。こちらの誤認、誤解がありましたらばお許しください。
32uF×2の電解コンデンサの周辺です。
 Rec.  a       b
-->|-----□-------
          |        |  
        ===    ===
          |        |  
       GND   GND
最初に感じたのは、ブロックコンデンサの並列のab間のドロップ および平滑用抵抗器が12kΩ(22kΩに換装)は、ずいぶんと高い抵抗値だなあ?ということです。カラーコード「緑・赤・黒・・・」からは52Ωの可能性がありますが、"52"という値は通常のE24数列ではありません。緑が「実は青」な らば"62Ω"であり得る値です。このセットでは、たぶんソリッド抵抗器の±20%で、色帯が3つのものだと思われます。逆だとすると「黒・赤・緑」これでは、先頭がゼロなのであり得な いですね。62Ωならば、2つの平滑コンデンサの並列の懸け渡しとして標準的 な値です。であるならば、テスタでの実測「12kΩ」は、そうすると"焼損により抵抗体の劣化かもしれない"ということになります。

テキストベースでシンプルに書かれた電解コンデンサ周りの回路図、実に
上手いものです。真空管2球による簡単な増幅回路に、スピーカーも非力
なユニットなので、音が出りゃいいだろうとロクに音質など確かめもせず
修理を終えていました。後述するように、先生がメール文で「音量の低下
もしくは歪みがちな再生音となるでしょう」と指摘されるのを読むに、もしか
して大変な修理ミスをやらかしたのでは・・という不安にかられることに。
十分に考えもせず交換した22kΩがまさに最大音量や音質を著しく
損なっている
可能性があります。これは何とかしなければなりません。
 

すぐにご依頼主に連絡を取り、プレーヤーを再修理させて
もらうことに。かなり間が空いてようやく工房に届きました。

 

半年ぶりにフィリップ製
プレーヤーと再会します。

 

ここまで推理・考察してから、いややはり22kΩ程度の高抵抗が入っていて、高電圧側が終段のB電圧、抵抗を経由したドロップ側が初段のB電圧か?とも思いました。そうであるならば、WEB記事のコンデンサ端子の写真の「赤または橙」の配線と、黄色の配線の先をたどれば判明します。つまり
 Rec.  a       b
-->|-----□-------
          |        |  
        ===    ===
          |        |  
       GND   GND
推測でaが6BQ5(EL84)の終段B+、bが初段EF86のB+ではないかというこ とです。だとすると、ab間の電圧が350Vというのが不自然になります。この不自然さは、上記の「62Ωではないか?」の場合も当てはまります。写真の読み間違いで、350Vが「aまたはbと、GNDの間」ならば正常だと思われます。また、そもそも最初の抵抗器の焼損の原因が気になります。仮に12kだと仮定して、それが1W発熱するためには109Vの電位差が継続してかかる必要があります。その1つとしてあり得るのが、コンデンサ自体の容量抜けや、漏れ電流の増加ですよね。上記回路図でのb側のコンデンサの漏れ電流が増加したとするならば、62Ωであれば焼損に結び付きます。その状態のまま、「62Ωを22kΩ」に換装したならば、焼損せず、漏れ電流もわずかになり、なおかつ『ab間がかなりの電圧≒350V』という状態が観測されることになります。そうすると初段のB電圧がかなり不足して、音量の低下、もしくは歪みがちな再生音、となるでしょう。

ご指摘の通り、前回修理時に「音量の低下、もしくは歪がちな再生音」が
気になっていました。真空管による簡単な回路構成と非力なスピーカーの
せいにして、そのままお返ししていたわけです。私が交換した22kΩ周りの
回路動作を、先生は丁寧に分析して下さっています。もしご指摘の通り、
抵抗値を取り違えていたとすると、初段(電圧増幅段)のB電圧が正しく供給
されず、本来の性能が得られるはずがありません。電解コンデンサから先の
配線(赤・黄)のみならず、必要な範囲を正確に把握する必要があります。

 

ターンテーブルごとひっくり返すと、裏側の増幅
回路が露出します。基板を使わない空中配線です。

 

前回修理時に交換した22kΩ抵抗器です。
もう一度この周りの電圧を確認します。

 

まず電解コンデンサの片側、黄色配線
側とグランド間の電圧を測定します。

 

240Vあります。黄色配線は出力段EL84のB電源
(+B1)に接続されていることが後で確認されます。
 

次に、22kΩを挟んだもう片方の端子、
赤色配線側とグランド間で電圧を測定します。
 

こちらは170Vです。赤色配線はEF86のB電源
(+B2)に接続されていることが後で確認されます。
 

22kΩ抵抗器の両端にかかる
電圧も確認しておきます。
 

70Vで240Vと170Vの差に合致します。
70V÷22kΩで3.2mA、223mWの消費です。
 

参考として、
http://www.furo-visu.com/s_new-pp2/new-pp2_gazo/6bq5np1.gif
元記事http://www.furo-visu.com/s_new-pp2/6bq5np1.html
この参照回路図で、2Hの平滑チョークコイルをコストダウンの62Ωに 置き換えて考えるならば、初段と終段のB電圧が共通である回路構成 となります。また、初段と終段のB電圧に差がついている場合は、参照回路図では27kΩ2W経由で取ったB2のプレート電源として、22kΩ程度への換装が妥当である、ということになります。
また、管ヒューズは経年劣化によって、通常の突入電流でも溶断して しまうことがあるのは知られていることかと思います。また、真の過電流での溶断は、かなりルーズというかのんびりしたも ので、1.6倍の電流では切れてはいけない、2倍の電流で数分間、5倍の電流で数秒といった塩梅ですから、焼損抵抗器の10W消費によってトラ ンスの100V一次側が切れた、とは考えにくいともいえます。限られた情報からの推測ばかりで恐縮ですが、何よりもコンデンサの劣化がないことを祈ります(これもいっそのこと、交換?)

メール文中では電解コンデンサ不良の可能性も示唆されています。
先にコンデンサの問題を解決しておこうと、部品テスターにかけて
みます。耐圧350V、32uF×2の片方が、実測値46uF(Vloss=
1.2%、ESR=2.8Ω)、他方が実測値40uF(Vloss=0.6%、
ESR=2.9Ω)となり、損失エネルギー比、等価直列抵抗いずれも
特に問題ありません。容量は経年により増加する傾向があります。

 

先生が紹介して下さったリンクを調べてみます(勉強します)。
出力段に同じEL84(6BQ5)を使用した真空管アンプです。
ただし、EL84を2球組み合わせ入力波形の上半分と下半分を
分割して増幅するプッシュプル回路を構成しています。簡単な
回路とはいえ、見慣れない真空管回路に大いに戸惑います。

 

この回路の引用元であるWEBページです。
徳島県で真空管を販売されているショップです。

 

注目すべきは+B1と+B2を供給するこの部分で、
27kΩにより310Vを200Vに降圧させています。

 

+B1と+B2の作り方に大きな違いはないように
思うのですが、27kΩと22kΩもほぼ同じです。
 

ここでようやく回路図を起こしてみることにします。立体的に
部品が配置される空中配線は意外と把握に手こずります。

 

回路図エディターで出力段のEL84周り、および電源回路周りを
再現します。真空管の図記号は新たに作成し登録したものです。
回路図中、矢印の部品が交換した22kΩです。参考回路と同じく
電解コンデンサに挟まれた22kΩの手前(左)から+B1、後から
+B2が取り出されています。+B1はEL84のプレートに、+B2は
抵抗器を介して前段EF86のプレートと、EL84のグリッド2にも
接続されています。カソードに接続されているCRによる帰還は、
レコード再生用のRIAA特性フォノイコライザでしょう。ここまでの
点検結果にこの回路図を添えて、再度先生に連絡を取ります。
 

お送りいただいたPDFの回路図で、平滑コンに挟まれた抵抗が62Ω?22kΩ?でしたっけ。22kΩで70Vのドロップとして、音量少なく歪がち、とのことで すね。B2の170V側にICクリップを接続し、GNDとの間に電圧計を接続 した状態で電源を入れ、22kΩに並列に100kΩをチョン付けし て(約18kΩ)、電圧の上昇と、音声の歪み具合の変化を試聴してみるのはいかがでしょうか。回路図では、B2の先に抵抗器が続いて接続されているので、32uFではさまれた抵抗器がリップルフィルタの100Ω程度でその先で電圧ドロップしている可能性も読み取れます。はさまれた抵抗で240V→170Vのドロップとしているのがオリジナルの回路の場合、前段のEF86へゆく途中の抵抗器がなぞです。回路図の"EF86a"は、EF86のプレートということでしょうか?(a→アノード→陽極→プレート)  「音量不足+歪み」なので、電圧の高すぎによる波形クリップ(危険な方向)ではなく、初段の増幅率の不足の可能性がありま す。初段のプレート電圧はいかがでしょうか? また、年代モノなので、出力トランスの巻線のレイヤ・ショー トの可能性もゼロではありません。正弦波を初段に入力して、各段の波形を、オシロのAC受けで波形チェックするのも診断の手です。平滑用のコンデンサが32uFのところ46/40uFあるとのことで、容量抜けはなさそうですが、温度変化や測定器の相違で見かけ容量の変化もあるかもしれません。10~22uF程度を並列に「チョン付け」で、変化を観るというのも案の1つです。あまり真空管回路のバイアスの与え方などについては詳しくないので申し訳ありません。以上、思い付きのとりとめもないことを列挙して恐縮ですが、発見なり改善があることを願っています。

お忙しい中をすぐに返信下さいました。22kΩの抵抗値を「チョン付け」に
より下げてみるとは妙案です。電解コンデンサは部品テスターで確認済み
なので大丈夫かと思います。もちろん、+B2がEF86のプレートに接続
されるまでに、さらに3個もの抵抗器を通っていることも気がかりです。

 

22kΩの在庫がもう1個あったので、元の抵抗器に並列に
接続してみます。抵抗値は半分の11kΩになっています。
電流が増加してるはずですが顕著な発熱はありません。
 

11kΩの合成抵抗にかかる電圧が
顕著に低下し25V程度です。
 

その分+B2電圧が上昇し
190Vくらいあります。

 

「チョン付け」による影響を確認するため、セットを組み上げ
並列接続する抵抗器を外部に引き出せるようにしました。
 

実際にレコードをかけてみます。まず並列抵抗を接続しない
状態です。この時、かなり意外な感じがします。と言います
のは、強く思い込んでいた「音量の低下もしくは歪みがちな
再生音」が、そうでもないのです。昔のダイヤトーン(三菱)
視聴用レコードを再生するも、まぁまぁの音量と音質です。

 

そして、抵抗器を並列に接続し+B2を昇圧させた状態にします。
結果は・・・、聴感上全く
変化がありません。前段EF86に加わる
プレート電圧は既に十分なのでしょうか。先生からの指摘のうち、
その先につながる抵抗器や出力トランスについてはまだ確認して
いません。しかし、多少なりともB電圧が不足しているならば、この
時点で何らかの変化があるはずです。やはりEL84(6BQ5)1球
だけで、プッシュプル方式が採用されない回路の限界でしょうか。
思い込みに反してまぁまぁの音量と音質で再生できること、そして
ご依頼主に特にご不満がなく、「以前よりも良くなった」とお聞き
しているくらいですから、本件はこのあたりで打ち止めとさせて
いただきます。ご指導を頂戴した私立中高等学校技術科
先生に、心より御礼申し上げます。同時に、限られた情報から
深く洞察されるその見識と技術的教養の高さに敬意を表します。
このような本物の先生が多ければ、ものづくり大国、技術立国
日本も何とか持ち直すのではないかと、つくづくそう思います。

*追記 前段EF86のプレート電圧くらいは測定・確認しておく
べきでした。が、2~300Vもの高電圧は正直怖いもので・・。

 
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