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カフェ御用達年代物ステレオの再生2(2022.8.22)


どうせなら非力なレシーバ(アンプ)もスピーカーも何とかしたい」。
元の所有者もカフェのオーナーも既に了解済み、しかも全て工房に
お任せする、これは面白いことになったものです。音源であるレコード
プレーヤーが安定したので、アンプやスピーカーをグレードアップする
甲斐があるというものです。今どきのパワフルなフルレンジユニットに
大出力のパワーアンプを組み合わせれば、性能が激変するはずです。

  

以下、工房での再修理の様子ですが、作業終了後に撮影
しているため作業の経緯となりませんことをご了解下さい。


スピーカーから手を付けます。とにかく外観を変えないようにとの
厳命ですから、エンクロージャー(ボックス)を再利用します。
 


元は18cm径の旧式フルレンジ
ユニットが組み込まれていました。

 

最大入力10Wの華奢なスピーカーユニットですが
当時のブックシェルフはそんなものだったでしょう。

 

代わって同じくフルレンジで、その後のコンポーネント
オーディオに多用されてきたユニットを採用します。

 

見るからにパワーの出そうなユニットを、バスレフの
開口部を挟んで2個並べて組み込みます。

 

今どきのユニットの特徴は、このいかにも強力そうな
マグネットです。インピーダンス8Ωで30Wも入ります。

 

ユニットを2個組み込むため、バッフル板は新たに製作します。外観を
変えてはいけないので、元のバッフル板からサランネットを外し再利用
します。このFOSTEXライクなユニットですが、FEFFシリーズに手を
出そうものなら大変な費用がかかり、しかもこのエンクロージャーでは
性能を生かしきれません。で、このまぁまぁのユニットは、秋葉原で偶然
見つけたもので、店頭での実演を聴いて購入を決めた掘り出し物です。

 

10cmと小口径なので、どうしても低音域が
不利ですが、片チャンネル2発でカバーします。
 

ユニット1個の重さが1kgを超えます。
FOSTEXのFF105WKでも800gですよ! 

ユニット交換を終えたエンクロージャーです。バッフル面の
サランネットに新しいユニット2個分の影と、角度を変えると
元のユニットの影も見えます。TORIOの金属製エンブレムも
綺麗に研磨して元の位置に取り付けました。片チャンネル
最大入力60Wのパワフルなスピーカーに変貌しました。

  


いよいよレシーバーの改造にかかります。トーンコントロール付き
プリメインアンプに、AM・FMラジオチューナー、もちろんレコード
再生に必要なイコライザ回路も含みます。往時を偲ばせる外観です。
 

電源を入れると、ラジオ周波数のインジケーター
およびチューニングメーターに照明が灯ります。
 

電源スイッチはスピーカーのセレクターも兼ねています。
実はこのレシーバー、4チャンネルステレオシステムです。
 

ほんの一時、4チャンネルステレオが流行りましたっけ。
背面にスピーカー4台分のターミナルが出ています。

 

ですが、このレシーバーは疑似4チャンネルのようです。
シール面にプレーヤーと同じSS-72Xの型番があります。

 

SS-72Xはステレオセットの型番のようです。
底面4か所にシャシーを固定するネジがあります。
 

ネジを緩めるとシャシーが手前に引き出てきます。
木製のキャビネットは、当時のオーディオに必須でした。
 

お断りしていますように、既に改造を終えた状態です。おそらく
後から加えた回路は一目瞭然でしょう。手前がプリメインアンプ、
右奥がチューナー、左奥に可愛らしい電源トランス、右手前の
小基板はマイクアンプです。一般家庭向けに広く普及を狙った
製品ですから、コストを抑え当時なりに構成されたのでしょう。
 

組み立て工場のラインで、工員さんにより
ひたすら手作業で配線されたと思われます。
 

どこかのどかな雰囲気が漂います。ラジオ周波数の
機械式インジケーターの糸張りだけは・・職人技です。
 

IFコイルがいくつも並ぶレトリックなチューナー基板
です。立派な金属製バリコンが鋭く放送を選局します。
 

改造を加える前は、この位置にアルミ板製の放熱器が
固定されていました。不要かつ邪魔なので取り去りました。
 

アルミ板製放熱器にはパワートランジスタ2SC1061が
取り付けられていました。NPNが4個なので出力段で
PNPと組んでコンプリメンタリを構成していません。多分
手前にドライブ用トランジスタが置かれていて、波形を
振り分けているのでしょう。懐かしい回路技術です。
 

放熱器はプリメインアンプ基板にネジで固定されて
いました。面倒なので回路起こしはしていません。
 

元のパワー段をデバイスもろとも取り去り、代わって
取り付けたのがこのパワーアンプモジュールです。
 

今回のステレオセットの修理にかかわらず、このデバイスは一度
使ってみたいと思っていました。入力信号により出力電圧をPWM
制御し、ローパスフィルターを通してアナログ出力を得るD級アンプ
です。エネルギー利用効率が格段に高く、このサイズで片チャンネル
軽く100Wもの出力が得られます。しかも、動作中にこの小型の
放熱器はほとんど過熱しません(温まる程度)。いつの頃からか
Amzonにも数多く出品されており、その価格の安さには驚くばかり
です。かつての大型トランスと大容量電解コンデンサを組み合わせた、
重量数十kgもあるインテグレーテッドアンプは何だったのでしょう。
 

アンプチップ:TDA7498
出力電力:100W+100W(Vcc=36V、RL=6Ω、THD:10%)
出力電力:80W+80W(Vcc=34V、RL=8Ω、THD:10%)
広範囲の単一電源:15-34VDC(推奨24V)
適用スピーカーインピーダンス:最高8Ω(4Ωまたは6Ωでも動作)
固定ゲイン設定:25.6dB、31.6dB、35.1dB、37.6dB
入力回路:
保護回路:短絡保護、過熱保護
差動入力、スタンバイ機能、ミュート機能
効率:90%

このパワーアンプモジュールのスペックです。最後にある「効率」は
おそらく供給される電力と実際に出力される電力を比較していると
考えられますが、90%が本当だとすると飛んでもない性能です。
蒸気機関車と回生ブレーキ付省エネ電車くらいの違いでしょうか。
 

90mm×62mmしかないので実装も簡単です。
空いているところにスペーサーを介して固定します。
 

下手に出力が大きいが故に、スピーカー出力にディレイ
回路を入れることにします。こちらもAmazonです。
 

元の回路からパワー段がなくなっているので、その
分の電力を利用します、足りると思ったのですが・・
 

かなりリップルを含むので、電圧調整も
かねて数Ωの抵抗(束)を入れます。
 

やはりレシーバーに内蔵の古いトランスでは力不足でした。
思い切り音量を上げると出力が途切れます。アナログアンプ
のように音が歪むのではなく、デジタル放送受信時のように
ブロックノイズが出て画面が見えにくくなるような感じです。
またしてもAmazonで24Vのスイッチング電源を調達し、
最後に残っていたスペースを広げて何とか収めます。
 

このスイッチング電源があれば、元のトランスは不要なの
ですが。全体が軽くなってもいけないので残しておきます。
 

プリアンプの出力はトーン回路の出口(エミフォロ)から取り
出します。高インピーダンス故ハムノイズには困りました。
 

パワーモジュールの利得が高いので、入力部にアッテネータを
入れて解消します。想像を絶するパワーCCRが歌います。
 

外装の木部をクリーニングしワックス処理
すると、見違えるような輝きが復活します。
 

しばらく間が空いた後、カフェに納品となりました。レコードの
回転を安定させるだけの話が、がらりと変わってしまいました。
 

カフェでCCRが流れることはないと思いますが、ストリング系
オーケストラのポップスを聴くにも安心のスペックでしょう。
 

改造作業中にあらためて気づいたのですが、アナログレコードの
クォリティは非常に優れているということです。カセットテープや
ラジカセが結構いい音を出す・・レベルではありません。元の
ステレオセットのままでは、レコードプレーヤーの不具合もさる
ことながら、パワーアンプの非力さ、スピーカーの貧弱さが、
レコード盤面に刻まれた音楽的風景を台無しにしていた節が
あります。プレーヤーからスピーカーまで、最新の製品に入れ
替えればいいようなものですが、厳命通り外観を何ら変える
ことなく作業を完了し・・、正に台無しにならずに済みました。

 
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