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カブトムシの精巧なフィギュア(2018.6.15)


手のひらに乗る・・ということは、ほぼ実物大のカブトムシのフィギュアです。甲部分の艶と
いい、本物の外観にかなり近づいています。角や足の造形が大雑把で、赤味を帯びた繊毛や
細かいとげが再現されていれば申し分ないところですが。ゼンマイユニットが内蔵されており、足を
動かして前進歩行します。おもちゃ病院での修理未完了品をお預かりしてきました(入院扱い)。
 

リアルな外観はおそらく実物の形状をトレースしたものでしょう。自然の持つ微妙な
不規則性が残されています。後方にゼンマイを巻き上げる紐とリングが出ています。

 

診療時間中に見せてもらっていましたが、あらためて
動作を確認します。リングを引きゼンマイを巻き上げます。

 


リングを放すとゼンマイが巻き戻っていきます。
勢いのある回転音がしますが・・、足が動きません。

 

ゼンマイの動力伝達が、どこかで途切れているような
感じです。原因を突き止めるべく分解にかかります。

 

底面後方の左右にある、外殻(前羽)を
固定している小ネジを緩めます。

 

本物のカブトムシでは、外殻(前羽:羽の一部)が
左右に開き、中に薄い後羽が格納されています。

 

後羽の代わりに、足を巧妙に動かす
メカニズムが詰め込まれています。

 

背中側のカバーを取り外します。直下の
白いブロックがゼンマイユニットです。

 

カバーが外れると、角と前胸(頭の部分)が
2本のレール状部品を伴い抜けてきます。

 

レールの内側にはスプリングが収められています。
この時点では何の役割をするのか全く分かりません。

 

カバーに押さえ付けられていた小さな
2本のスプリングです。引き抜きます。

 

スプリングの下に、スプリングを乗せた状態で
上下にスライドする小さな部品があります。
 

何とも不可解な形状の部品です。スプリングにより軽く
押さえ付けられながら、正確に上下スライドする機構です。

 

裏側(腹側)に回ります。表側(背中側)と
異なり、人工物・おもちゃそのものです。

 

2本の小ねじで固定されています。ネジを緩めて
取り外します。6本の足を格納するカバーでしょうか。
 

ネジ固定されていない側(前方)は
小さなツメを溝に入れて固定しています。

 

腹側カバーの中にゼンマイ巻き上げ用プーリーともう1枚
カバーがあります。中足の片側が折れかかっています。

 

フックのような可動部品の穴に、巻き上げ紐が
通されています。横の切り込みから紐を抜きます。

 

可動部品の手前、溝の底に、もう1枚の
カバーを固定するネジがあります。緩めます。

 

このカバーは左右中足と一体成型の部品です。足の
付け根に腹側カバーと同時固定されるネジ穴があります。

 

ようやく足の駆動機構が見えてきました。実際に
稼働するのは前脚と後ろ脚の4本で、中足は飾りです。

 

ゼンマイの回転運動を、前足・後足の往復運動に変換する部品(リンク)
です。中央に大きく開いた穴が、ゼンマイの回転運動を受け止めます。

 

ゼンマイの出力軸に、小さな円盤部品が取り
付けられています。何故か固定されていません。

 

ゼンマイはボックス状の部品に収められています。
ゼンマイを取り出すと、ほぼ完全な分解状態です。

 

カブトムシを構成する全部品です。まだ細部の分解を残しているので、かなりの
部品数になります。また部品の1点1点が非常に精巧に設計・加工されています。

 

作業の方向を変えて、不具合の原因を探さねば
なりません。ゼンマイユニットを注意深く点検します。
 

円盤が取り付けられていたゼンマイの出力軸です。
小さな突起のように見えますが、先端が欠けています。

 

取り付けられていた円盤です。円の中心を
外れた位置に穴があります。偏心カムです。

 

リンクの穴の中で円盤が偏心回転する
ことで、往復運動に変換する仕組みです。

 

この穴にゼンマイの出力軸が差し込まれ、軸が空転しないようにしっかり固定される必要が
あります。想像するに、軸をねじるかなり大きな力が加わるはずで、しばらく遊んでいる
うちに折れてしまったのでしょう。ゼンマイは回るけれど、足が動かない理由が分かりました。

 

ここまで小さくて力が加わる部品の補修は極めて
厄介です。瞬間接着剤以外に選択肢はありません。

 

しかもポリアセタールやポリカーボネート樹脂製の場合、
プライマーを併用してようやく接着できるか・・です。

 

何とか付きました。ゼンマイの出力軸が根元ではなく円盤の出口近くで折れていたこと。
破断面が斜めに進行し、破断面積すなわち接着面積が大きく取れたことが幸いしたようです。

 

変換リンクを取り付けてみます。単純な仕組みから
複雑な動きを作り出す構造が一挙に氷解してきます。

 

後足を取り付けます。ゼンマイを軽く回してみると
前足・後足ともに非常に調子よく駆動されます。

 

カバーと一体成型されている
中足の破損部分を補修します。

 

柔軟性を持たせるために塩ビ樹脂製です。
破断面にアクリル用接着剤を流し込みます。

 

遊んでいるうちに大きな力が加わり引きちぎれた
のでしょう。逆ピンセットでしばらく固定しておきます。

 

中足の補修完了です。
元の位置に取り付けます。

 

ゼンマイ巻き上げ用プーリーを両側から挟み
込むように差し入れ、溝の底でネジ固定します。

 

ゼンマイを解放状態から数回巻き上げ、
切り込みからフックの穴に通します。

 

腹側のカバーを取り付けます。中足の左右両側も
ネジ固定され、構造全体の強度が上がってきます。

 

ゼンマイユニットを収めるボックス状の部品で、背中側
後方に残るこの機構がまだ解明できていません。

 

上下スライドする小さな部品を隙間に
落とし込み、スプリングを乗せます。

 

順番からすると、この背中側のカバーを
取り付けてしまいたいところですが・・、

 

そうすると前胸部に付いている
このレールが入らなくなります。

 

スプリングを避けながらレールを組み付け、その
後で背中側カバーを固定しなければなりません。

 

このあたりでようやく前胸部から背中側後方に
展開する機構の仕組みが分かってきました。

 

取りあえず背中側カバーの固定ネジを締め込み
ます。動きに関係する部品は全て固定できました。

 

角を含む前胸部は、普段は前方に飛び出て角を持ち上げた
状態にあります。スプリングに逆らって前胸部を押し込むと、

 

前胸部が後方に引き込み角が下がった状態で、
上下スライドする部品により一時的にロックされます。

 

リングを引いて紐を引き出すとゼンマイが巻き上げられます。手を離すと最初は低速で
歩行し、途中から速度が上がり、リングが本体に到達・接触するとロックを解除します。

 

しかし、カブトムシがここまで速く歩く(走る?)のは妙です。もしかするとゼンマイユニットに
問題が残っているのかも知れません。中間ギヤの歯に一部欠損があると、速度がうまく
制御できなくなります。ですが、微細加工されたゼンマイユニット内部は、下手に手を出さ
ない方が無難です。最低限の歩行動作を取り戻すことが出来たところで良しとしましょう。

 

甲(前羽)カバーを取り付けて修理完了です。完了状態での歩行の様子も
動画でご覧下さい。歩行の最後に、下げていた角を勢いよく持ち上げるなど
練りに練られたアイデアと、その精巧な実装技術には驚かされるばかりです。

 
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