おもちゃのリペアへ                守谷工房Topへ

ドローン用超小型モーター再生(2019.8.14)


小学5・6年生くらいの少年がおもちゃ病院に持ってきた小型ドローンです。他の
ドクターが途中まで分解した状態から引き継ぎました。ローター4基のうち1基が
回転せず、当然飛行させることが出来ません。老眼には辛い修理になりそうです。
 

引き継いだ時点で、回転しないローターの
駆動モーターが既に取り外されています。

 

モーター底部のキャップが抜けていますが、
これは非常に重要なモーターの一部です。

 

ローターを高回転させるため、ドローンには超小型の直流整流子モーターが
採用されています。キャップのような部品の内側には、整流子に電力を伝える
ための2枚のブラシが組み込まれています。見るからに状態が悪そうです。

 

モーター本体の底部を観察すると、コイルを巻き付けられたローター(回転子)が
中に収められています。中心をシャフトが貫通し、シャフト端には整流子が見えます。
整流子の枚数、あるいはコイル配線の接続端数から5極モーターだと分かります。

 

院長が交換用モーターを探してくれていますが、整流子周りの
修理を試みます。微細な作業なのでピンセットの先を研ぎます。

 

モーター(キャップ)の径は7mmしかありません。ブラシの
状態が非常に悪いので、真鍮板による再生を考えます。

 

先に元のブラシを取り除きます。精密加工された
樹脂製キャップの内側に複雑に組み込まれています。
 

ピンセットの先で注意深く少しずつ取り出します。
ブラシの先がささくれたような形をしています。

 

2極分のブラシを引き出しました。確かに
先端が細くささくれたような形状です。

 

想像するにブラシの先、整流子と接触する部分に切り込みが
入っているようです。しなやかに接触させるための工夫でしょう。

 

ローターが高速回転するためにも有利な方法です。
最後にブラシと電源コードの半田接続を切り離します。

 

何らかの原因でキャップの固定が緩み、ブラシの
固定が不安定となりブラシの先が破損したようです。

 

取り除いたブラシの残骸です。切り込みにより
細く分割されたブラシの先が形を留めていません。

 

ブラシを取り除いたキャップ部分です。
この中に新しいブラシを組み込みます。

 

0.1mm厚の真鍮板(リン青銅板の在庫なし)
から0.5mm幅で細長い材料を切り出します。
 

薄刃のカッターナイフを使用しても
両側に多少の毟れが残ります。

 

ブラシの先に切り込みを入れ糸状に
分割するなど、もちろん無理です。

 

キャップ内側の成型突起に合わせ
真鍮板を折り曲げていきます。

 

根元部分を樹脂突起の形状に
合わせて軽く変形させます。

 

整流子に接触する部分は直線、整流子を滑り
込ませるためその先を僅かに内側に曲げます。

 

片側のブラシを何とか組み込みました。拡大鏡下での作業ですが、手で加工できる
限界ぎりぎりです。微細に成型された突起類を破損すると取り返しが付きません。

 

突起の隙間に押し込んだ部分を瞬間接着剤で
固定し、電源コードと半田付けで接続します。

 

もう一方のブラシを組み込みます。
2本のブラシが互いに接触しています。

 

こちらも瞬間接着剤で固定し、
電源コードに半田付けします。

 

少し折り曲げておいたブラシの先端からローターの
シャフトを滑り込ませ、ブラシで整流子を挟みます。

 

上手く組み付けが出来たか否かは、通電してみれば分かります。動作しなかった
1基のローターが息を吹き返しました。今のうちに瞬間接着剤でキャップを固定します。

 

ドローン本体への組み付けを進めます。組み立て
作業中に再び不具合が起きないよう祈ります。

 

配線を本体内の隙間に
丁寧に収めます。

 

底面側のカバーを取り付けます。
全くズレの無い精密加工部品です。

 

精密ネジ5本により固定します。カバーの
内側にバッテリーが組み込まれています。

 

修理完了・・したのですが、おもちゃ病院で引き継ぐ直前まで数名のドクターが
何か議論していたことを思い出しました。ローターが回転すると何故か上方に
向かって気流・風圧が発生し、ドローンが浮遊する気配がありません。逆に
床に押さえ付けられたままです。実際に操作してみると・・、確かにそうです。

 

セット内に交換用のローター羽根が入っていることで
気付きました。羽根には右回転用と左回転用があります。

 

右回転用と左回転用が全て
逆に取り付けられていました。

 

おもちゃとはいえドローンに組み込まれている
モーターとリチウムイオン電池の性能は驚異的です。

 

軽々と飛行する様子を写真に収めたかった
のですが、とても操縦のコツがつかめません。

 

限界ギリギリの微細手加工でブラシを再生しましたが、やはり接触面積が大きく接触
抵抗も大きいようで、1基だけローターの回転数が最大にならないようです。ローターを
停止させる時、一番先に回転が止まることから推測されます。しかし、高性能ジャイロに
よる姿勢制御装置の働きで、僅かな推力差などものともせずドローンはかっ飛びます。

 
おもちゃのリペアへ                守谷工房Topへ