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LASER VELOCITYの実力(2021.5.2)


ようやく本格的稼働に漕ぎつけたLASER VELOCITY、AQLV-400です。
LaserCut5.3の操作にもかなり慣れてきました。そのお陰で、先日までかかり
中国製レーザー加工機6040の改造作業を、無事終えることができました。
6040用のあれだけの部品を一挙に製作できているので、実用上十分な
性能で、とにかくまともに動作していることに違いありません。かねてから
抱えていた課題もあり、AQLV-400の実力(現性能)を試してみます。

 

あらためてレーザーヘッド周りを見渡します。鏡筒やマウントなど構成部品は
全て堅牢なダイキャスト製です。高剛性のリニアレールにスライドブロックが
載り、幅が広く高張力で渡された駆動ベルト、大型のステッピングモーター、
それらを取り付けるステー類も肉厚のダイキャスト製です。剛性を低下させる
部品は徹底的に排除されており、装置全体が金属の塊のような様相です。

 

かねてからの課題とは、「歯車」のカットです。
歯車君dxf作成では簡単な平歯車を設計できます。

 

任意の歯数(140まで)で平歯車の
DXFデータを生成することができます。

 

工房での修理作業の際に、破損した歯車と同じ歯数、外径、
厚み、軸穴の歯車が必要になることがしばしばあります。

 

在庫している汎用部品の中から、同じ
ものが見つかることはまずありません。

 

例えば歯数40、外径20mmの平歯車が必要な場合、
DXFデータをCADに読み込み、サイズを変更します。

 

かねてからの課題とは、歯数が多く(40~60)、外径の
小さい(10~20mm)平歯車を製作することです。

 

中国製6040では、微小な歯が切断時に
潰れてしまい、まるで使い物になりません。

 

どこまで切厚物が断できるかパワーを試すのでは
なく、どれだけ細かな切断が可能かを試したいのです。

 

切断データをLaserCut5.3に読み込みます。
最初に2mm厚のアクリル材をカットしてみます。

 

ワークテーブルにアクリル材をセットします。5mm厚を
完全に切断できているのでパワーには問題ありません。
 

Z軸を昇降させてレーザーのフォーカスを合わせます。
左右から2個のレーザーポインターが出ています。

 






MakerLabNagoya Wikiさんが示している素材別
パラメーターに、2mm厚アクリルの切断はスピード
12、出力30%とありますので、同じ設定にします。

 

平歯車の加工データをAQLV-400に送り
込みます。スピードや出力も一緒に送られます。

 

加工の開始は本体のSTARTスイッチ、あるいは
LaserCut5.3のスタートボタンでも操作できます。

 

レーザーヘッドが動き出します。「ガガガガ・」という振動音が
連続するだけで、カットしているような雰囲気ではありません。

 

アクリル材の表面にレーザーが
刻印した痕がくっきり残っています。

 

裏返してみると、同じように刻印が残っており
厚み方向にレーザーが貫通しているようです。

 

切断が細かいので抜き取るのに少し手間が
かかります・・が、切り抜かれています。
 

歯車にシャフトが通る軸穴の追加を
忘れていました。データを修正します。

 

取りあえずスピードや出力は問題ないよう
です。再び2mm厚アクリル材をセットします。
 

軸穴のカットが加わります。切断に
要する時間はものの20秒くらいです。

 

レーザービームの通過痕が
何かすっきりした感じです。

 

母材から抜き取る際に少々抵抗があるのは、
レーザーの切り代が十分に狭いせいだと思います。

 

両面の保護紙を剥がします。
綺麗に切れているのでは・・

 

まず直感として、これまでに
経験のないクオリティです。

 

小さな歯先が乱れることなく
均一に再現されています。

 

拡大してみると、歯の形状を構成するインボリュート
曲線(曲面)が全周にわたり綺麗に揃っています。

 

このサイズの歯車では、2mmは厚みとして
過大です。1mm厚アクリル材に変更します。

 

材料の厚みが変更されているので
フォーカスも調整し直します。
 







厚みが半分なのでレーザー出力も小さくて済む
はずです。出力30%を20%に絞ってみます。

 

脱調を防止するため数か所で切断がスキップ
されます。レーザーヘッドが戻り加工を追加します。

 

2mm厚と特に変わりなく
切断痕が残っています。

 

材料の裏側までレーザー
ビームが届いています。

 

出力は20%で良いようです。
もう少し下げられるかも知れません。

 

保護紙を剥がします。2mm厚の結果と
特に違わないように見えますが・・

 

拡大してみると、歯先の形状にいくらか乱れがあります。1mm厚に
対してレーザーの出力が少し大きかったのでしょうか。切断に加えて、
レーザービーム通過時の発熱により、周囲が溶けかけているようです。

 

次に、平歯車の外径を20mm
から15mmに変更してみます。

 

CAD上で単純に縮小処理しただけなので、
歯先のピッチも4分の3と小さくなります。

 

「ガガガガ・」の振動数が高くなったように感じ
ます。ひと回り小さい歯車が切り抜かれます。

 

スピード10、出力30%はそのままです。
レーザーの通過痕が綺麗に残っています。

 

取り出してみます。やはり抜き取る
際に少し(かなり)きつい感じです。

 

しかしレーザーは裏側まで通過して
おり、完全に切断されています。

 

歯数40、外径15mmの平歯車は、既に十分小さな
サイズです。このレベルの部品が自製できるとは・・

 

出力30%のままにしては、逆に
歯先が綺麗に仕上がっているようです。

 

どうやら切断時の適正なスピードと出力は、材料の厚みのみで決定
できるわけではないようで、切断形状の細かさ(複雑さ?)も影響する
ようです。スピード10、出力30%による1mm厚アクリル材の切断は、
写真の通り歯先形状が綺麗に再現され、溶け出した跡も見られません。

 

さらに厳しい切断条件に挑戦します。
平歯車の歯数を40から60に変更します。

 

切断データを作り直します。
外径は20mmに戻しています。

 

軸穴は全て径2mmに揃えています。もちろん
必要があれば任意の径に変更できます。

 

歯数60を刻むと、振動音が一段と甲高くなります。
ヘッドが移動しているというより振動している感じです。

 

「ガガガガ・」が鳴り止むと
切断が完了しています。

 

歯数が40から60に増え、歯先が一挙に小さくなります。
左上の歯数40の抜き跡と比べるとその違いが分かります。

 

切断スピード10、レーザー出力20の
ままですが、切断面は十分に綺麗です。

 

全周にわたり歯先形状に
著しい乱れはないようです。

 

設計通り外径(歯先円径)20mm。現時点で
ピッチ円径、歯底円径は考慮していません。

 

保護紙を剥がして切断状況を確認
します。精緻な印象を受けます。

 

拡大してみると、歯先が綺麗なインボリュート曲線を描いています。
歯数を60に上げてもこの切断結果・・、AQLV-400の実力でしょうか。

 


最後に、歯数60のまま外径を
15mmに変更してみます。

 

レーザー加工機にとってかなり
厳しい切断条件のはずです。

 

「ガガガガ・」がほとんど「ガー」に近く聞こえ、
レーザーヘッドの移動量はわずかです。

 

レーザービームの通過痕が鮮明です。
細かな形状に十分追随しています。

 

母材から引き抜く際、やや引っ掛かりが
あり強めに押し込んで取り出しました。

 

アクリル材の裏側まで完全にカットされていなかった
ようです。押し出す際に歯先が引きちぎられています。

 







ここでレーザー出力を上げる気には
ならず、スピードを少し落としてみます。

 

歯数60、外径15mmを
再度切断してみます。

 

スピードの増減と出力の増減は、必ずしも
同じ傾向で影響するわけではないようです。

 

アクリル材の両面とも、レーザーの
通過痕が綺麗に残っています。

 

スピード12の場合よりもいくらか
容易に取り出すことができます。

 

先ほどのような歯先形状の
乱れはないようです。

 

保護紙を剥がします。レーザー出力が大きすぎると
保護紙がアクリル材に融着することがあります。

 

歯先まで融着もなくペラッと剥がれます。
外径15mmに切断されています。

 

歯車表面に「30」と記入されて
いますが、「20」の誤りです。

 

外径15mmに歯数60を刻む細かさですが、
何とか歯先の形状が保たれています。

 

使用しているカメラのマクロ撮影ではこれが限界です。それでも指紋が
鮮明に写り込んでいます。歯先のインボリュートが再現されているのか
今一つ判別出来そうにありません。それでも、歯の1枚1枚がしっかり
分離しており、歯車として最低限機能させることは可能かと思われます。

 

先ほどスピード12で切断した
歯車と噛み合わせてみます。

 

やはり問題なく噛み合います。片方に刃先の乱れが
なければ、ほぼ完璧に回転を伝達できそうです。

 

かねてから抱えていた課題とは、ウォークマンのようなカセットプレーヤーに
多用されている樹脂製平歯車の自製です。外径10~20mmの精密な歯車が
組み込まれていますが、経年劣化により樹脂が変質し歯車が割れてしまう
トラブルが頻発しています。CDプレーヤーのトレイ駆動ギヤなども同様です。
そして、外径も歯数も軸穴もまちまちな樹脂製平歯車は、補修部品の入手は
ほぼ不可能いまな状態です。ごく稀に、歯車の詰め合わせセットの中から
代用可能なものを発見できることもありますが。テクニカルパートナーのY氏
からも、何とかならないかと相談されており、LCDプリンタによる製作なども
検討してきました。専門業者に外注すると、金型を起こして射出成型となり
歯車1枚に莫大な費用がかかります。まだまだ切断条件を細かく調整する
必要があるものの、この程度の品質であればウォークマン用中間伝達に
用いられる平歯車として、十分代用になる部品を製作できそうです。そして、
ついに本性を現したと言いますか、LASER VELOCITY・AQLV-400の
基本性能を実際に目の当たりにして、1級部品ばかりで構成された本格的
レーザー加工機の実力を思い知らされる次第です・・ここまで凄いとは。

 

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