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デルタ型3Dプリンタ改良(冷却ファンシュラウド・エクストルーダアーム・スプリングダンパー
 改良の成果  写真左側の上下→改良前  写真右側の上下→改良後



3Dプリンタに関してその後の経過報告を怠っておりましたが、デルタ型・Prusaいずれも試行錯誤を続けています。
組み立て時の印象に大きく反して、Prusaがまともに動作しません。ホットエンドの制御がまるで上手くいかないのです。
出力したいデータが続々と現れてきて、取りあえずデルタ型でプリントしています。

そのデルタ型は、低価格機ゆえ最低限の装備に留まる箇所が各所に見られます。
出力品質を向上させるにもどこから手を付けたら良いのか・・、実行できそうなアイデアを思いつく度に手を加えてきました。

最少機能・最低性能の評価用マシンと位置付けてきましたが、現時点での成果は、

「基本性能を押さえることで出力品質をかなり向上させられる」
「キットを組み上げるだけではマシン本来のパフォーマンスは保障されていない」
「本来のパフォーマンスに近づくと本来の限界も見えてくる」


ということでしょうか。

 
1.クーリングファン取り付け位置の変更

 
購入したデルタ型3Dプリンタ(組み立てキット)にはホットエンドのクーリングファン(40mm)が付属し、エフェクタプレートに直接ネジ止めされる設計でした。指示通りに組み立てると、ファンの位置が高く送風が一部遮られてしまいます。

 そこで、エフェクタプレートとクーリングファンをつなぐプレートを作成し(アクリル板)、取り付け位置を下げることでホットエンドの冷却フィン全体と、さらにノズル先端にも気流が当たるようにしました。多くの3Dプリンタで、ノズルから射出された溶融樹脂が直後に冷却され、素早く固化するよう設計されているからです。
 

キットの指示通りに組み立てると、ホットエンドの
冷却フィンにかろうじて気流が当たる程度です。


エフェクタプレートとクーリングファンをつなぐ
プレートを作成しファンの位置を下げました。
 

射出直後のフィラメントを急速に冷却するため
ノズルの先端にも気流が当たっています。

 

クーリングファンの下端はノズル先端の位置より上に
なければならず、プレートのサイズで調整します。

 
2.クーリングファンシュラウドの取り付け

 ノズルの先端に気流が届くようになりましたが、このままではヒートブロックにも気流が直接吹き付けるため、熱が奪われて温度制御が不安定になります。カプトンテープを巻き付けたくらいでは十分な保温にはなりません。またクーリングファンとホットエンドの間が開放状態なので、必要な部分に効率的に気流が当たっていません。

 そこでクーリングファンに専用のシュラウドを取り付け、ホットエンドの冷却フィンとノズルの先端部分に集中的に気流が当たるようにしました。THINGIVERSE(https://www.thingiverse.com/)に様々なタイプのシュラウド(.stlデータ)がありますが、デザインのみ参考にしてCADで専用に設計しました。
 

クーリングファンの取り付け方、プレートの有無
によりシュラウドの形状を適切に決定します。
 

クーリングファンをプレート内側に取り付けるよう
変更したため、シュラウドの長さを短くしました。
 

試験段階で製作したシュラウドを仮装着して、
形状やサイズを調整した改良版を製作します。
 

糸を引きながらもサポートを形成しながら
新しいシュラウドをプリントしていきます。
 

ノズルの先端に的確に気流が当たるため、
積層面の固着状態がかなり良くなっています。
 

新しいシュラウドが成形終了しました。サポートを
取り除いてクーリングファンに装着します。
 

THINGIVERSEからDLした高性能のシュラウド。
残念ながら取り付け位置が合わず装着を断念。
 

ホットエンド冷却フィンとノズル先端への気流
分配比率を再度調整した最終完成版です。
 

最終完成版をクーリングファンに取り付けます。
冷却フィンの奥半分をほぼ完全に覆います。
 

ノズル先端への気流吹き出し口です。
ヒートブロックには気流が当たりません。
 

気流を分配するためこのような形状にしました。
手前のタッピングビスでファン本体に固定します。

 

シュラウドの下端は造形物と干渉しないように、
必ずノズル先端の位置を上回るように調整します。

 
3.フィラメントエクストルーダの改良

 成形中にフィラメントの射出が一定せず、途切れたり完全に停止してしまうと出力品質を著しく損ないます。工房の3Dプリンタもフィラメントの射出制御不良により、数え切れない出力失敗を重ねてきました。

 フィラメントを適切に射出するにはホットエンドの温度管理が最も重要で、多くのコントローラにはPID制御が組み込まれていますが、最適温度で安定させるには状況の詳しい観察と各部の細かな調整が不可欠です。もう一つ重要な点は、フィラメントエクストルーダからPTFEチューブを経てホットエンド内部に至る一連のフィラメント送り出し機構の性能です。工房のプリンタでは後者の問題が最後まで残り、フィラメントエクストルーダ内でフィラメントを送り出しギヤに押し付ける「ベアリング保持パーツ」を改良することでようやく解決を見ました。
 

キット付属のベアリング保持パーツ。中央のスリーブ部に
ベアリングがはまり、右側の穴にネジを通して取り付けます。
 

左側の穴にスプリングを通した長ネジを入れて強く押さえます。
強度が不足するためひと回りサイズを大きく作り直しました。
 

キット付属の標準サイズのもの(左)と、サイズを
大きく強度を上げた改良版の比較(右)。
 

ベアリングの保持パーツを強度の高いものにしたので
押さえ付けるスプリングも強力なものに変更できました。
 

フィラメントの送り出し速度が上がり負荷が増加すると、送り出しギヤ(写真上側)が
スリップしてフィラメントの射出が途切れたりしていました。強力なスプリングに交換
できたため、フィラメントが強くギヤに押し付けられほとんどスリップしなくなりました。

  
4.スプリングダンパーの取り付け

 3軸の各キャリッジは実に簡素な構造で、ベースから伸びた3本のボルトに樹脂ベアリングを取り付け、アルミ製のレールの溝を左右から挟み込むものです。片側のボルトの位置を内側に引き寄せることで、樹脂ベアリング間に一定のプレッシャーが与えられ、レールをしっかり挟むはずなのですが・・。

 ボルトの固定はいわば「片持ち梁」であり、3Dプリントによる剛性の低いベースではレールを挟むプレッシャーなど知れています。加えて、樹脂ベアリングの出来が悪く内側のハブとの間にガタが見られます。結果、キャリッジ全体にかなりの遊び・ガタ(左右方向)があり、上下移動の度に移動量にはキャリッジの遊びがランダムに加わることになります。出力精度が保たれるわけがありません。

 スライドベアリングやリニアブッシュ+ロッドを使った精密なキャリッジ機構にしたいところですが、とある3Dプリンタのカタログからアイデアをもらい、スプリングを装着することで遊びの低減を図りました。スプリングを入手したついでに、ダイアゴナルロッドにもダンパーを装備し、エフェクタが暴れて精度に及ぼす影響を軽減しました。
 

キット付属のパーツを使用し指示通りに組み立てた状態です。
左側2個、右側1個の樹脂ベアリングでレールを挟みます。
 

樹脂ベアリング間のプレッシャーは、片側に
あるネジを締め込むことで与えられます。
 

ネジをかなり締め込んでもベースが撓んでしまい
シャフト代わりの長ネジは外側に広がります。
 

キャリッジに軽く力を加えてみると遊びが大きく
樹脂ベアリンは簡単にレールから離れてきます。
 

キャリッジを取り外していったん分解します。元はボルトで
代用されてたスペーサを正確な金属管に交換しています。
 

シャフト代わりの長ネジを内側に引き寄せる簡単な
機構。捻じれやすく遊びを生む原因になっている。
 

元の5mmL30ヘキサボルト(左)と
交換用の5mmL45丸頭ボルト(右)。
 

元のヘキサボルトを抜き取り、代わりに
45mmの丸頭ボルトを入れます。
 

元通りに金属管のスペーサ、樹脂ベアリングを通します。
樹脂ベアリングは径23mmの見かけないサイズです。
 

レールに取り付けてボルトで
樹脂ベアリングを固定します。
 

樹脂ベアリングがレールの溝に嵌り込むまで
キャリッジ横の調整ネジをある程度締め込みます。
 

上から見るとシャフト代わりの長ネジが八の字に広がって
います。調整ネジを締め込み過ぎないようにします。
 

ホームセンターで取扱いのある汎用スプリング。
種類が限られかつ意外と高価です。
 

左右のボルト端に2本のスプリングを渡しました。樹脂ベアリ
ングはスプリングのプレッシャーによって押さえ付けられます。
 

調整ネジの締め込みとバランスを取ることで
強く均一にレールを挟み込んでいます。
 
 
手で左右に力を入れてみます。しっかりレールに固定されて
遊びがほとんどありません。かつ上下にスムーズに移動します。
 

写真のようにダイアゴナルロッドのエフェクタ側、ロッドエンドの根元にスプリング端を
かけました。ロッドエンドもクオリティが低く、ガタの顕著なものがいくつかありました。
スプリングがダンパーの働きをすることで、エフェクタの暴れを軽減できると思われます。

 
5.改良の成果

 ネット上には多くの3Dプリンタ製作記事が見られます。しかし、ほとんどの場合でモデルや機種が異なっているため、参考にはなっても同じアイデアで問題を解決できることはありません。まさに試行錯誤の末、工房のデルタ型3Dプリンタはようやく本来の性能を発揮するようになってきました。ただし、中国製低価格マシンでの本来の性能ですから、そうならない段階は単にお粗末と言わざるを得ません。

 ここで説明した以外にも、テーブル面の付着性改善(カプトンテープ+ホットベッド)、Z軸高さの調整、オートレベリング機能の放棄など大小様々な改良を試みました。当初は不可欠だと思い込んでいたオートレベリング機能は、最初の数レイヤーを出力する際に、何とホットエンドが持ち上がって積層側面を傾斜させる原因となっていました。ホットエンドをネジで固定し、上下にスイングできなくしてこの問題は解消しました。

 以下に出力結果を紹介します。
 

一連の改良を加える前の、ほぼキットの
組み立て終了時点での出力結果です。
 

底部の数レイヤーが手前にせり出しています。オートレベリング
機構によりホットエンドが微妙に傾くことが原因でした。
 
 
逆さにして底面を見ると、最初のレイヤー(捨て打ち)面に樹脂が
充填されず隙が見える部分があります。テーブル面に密着させる
必要のあるレイヤーで早くも射出不良が生じていることがわかります。
 


オートレベリング機構を放棄しホットエンドをネジで
固定、クーリングファンにシュラウドを取り付けました。
 

底部近くの側面の傾斜が解決しています。
側面の4面はほぼ均一に仕上がっています。
 
 
底面に隙のある部分は見られません。最初のレイヤーで
フィラメントが均一に充填されテーブルに密着していたようです。
 


キャリッジを改良し、ダイアゴナルロッドにも
スプリングダンパーを取り付けた状態で出力。
 

底面の1層が若干はみ出ているのは、2層目以降よりも
多めに射出しているため。各面が綺麗に仕上がっています。
 
 
底面では樹脂同士が完全に融着し合い、平滑な
テーブル面を写し取って綺麗な光沢面ができています。
 


タービンのブレードを出力してみました。傾斜のある面や
折り返し端にプリンタの基本性能が顕著に現れます。
 

改良を加えた後で出力したものです。ブレード表面の
形成や折り返し端のラインが大幅に改善されています。
 

Prusa(直交座標型)の組み立て作業中に、新たにフィラメントを追加購入しました。
最初に購入したフィラメントより若干価格の高い製品なのですが・・。

同じPLA樹脂ですが温度特性がかなり異なっています。同温度で射出するとフィラメントが流れ始めたような痕跡が残ります。
20度以上低い温度で特に問題ありませんが、プリンタの温度計測と表示がどこまで正確なのか不明です。

新しいフィラメントを使用すると成形側面に筋がはっきりと残り、出力品質をかなり低下させてしまいます。
元のフィラメントでは綺麗に仕上がるので、原因はフィラメントの特性・品質にあり、プリンタの問題ではなさそうです。
しかし、フィラメントの特性とプリンタの相互作用も考えられるので、観察・原因究明はまだ続きます。
 

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