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中国製リニアガイドのメンテ(2018.3.17)


3Dプリンターの精度向上には、3軸のスライド構造をリニアシャフト+リニアブッシュから
リニアレール+リニアガイドへ変更したいものです。シャフト周りの移動(回転)がなく
レールの剛性が高いので、優れた精度を維持することが可能です。問題はその価格です。


 
品質に優れた日本製品ならば間違いありませんが、
L310mmのセット品で1本軽く8千円を超えます。

 

安かろう悪かろうを承知の上でつい手を出してしまうのが
Aliexpress。同じ規格(L300mm)で2000円以下です。

 

メインランドからの送料を抑えるため、
ついまとめ買いしてしまいます。

 

最近のAliexpressはデリバリータイムがかなり
早くなり、決済上のトラブルもあまり聞きません。

 

半月ほどで配送されてきた12mm幅の
ミニチュアリニアガイド(セット品)です。

 

何よりも見た目がよろしくありません。金属部分
・樹脂部分とも、いかにも品質が低そうです。
 

レールをスライドさせると、もろに「引っ掛かり」ます。また、
ボールを直接左右に動かすと、循環自体が引っ掛かります。

 

ベアリングボールがひどく行儀悪く並んでいます。
3本に1本はまともに使えない有様です、さすが。

 

「何とか実際に使用できる最低限の
性能」を目標にメンテを試みます。
 

2本のネジを緩め、ブロック両側に
あるサイドシールを取り外します。

 

樹脂製リターンキャップをラジオ
ペンチで少しずつ引き離します。

 

保持ワイヤーの弾性範囲内で
リターンキャップを引き抜きます。

 

ベアリングボールが一挙に流れ落ちて
きます。トレイなどを置いて受けます。

 

精密加工されているはずのブロック本体ですが、
黒いスラッジにまみれ上質感がありません。

 

リターンキャップの内側には、潤滑油
シール用のプレートが嵌め込まれています。

 

カッターナイフの刃先を入れる
ことで分離することが出来ます。

 

リターンキャップの内部を確認します。スラッジの
ようなグリスのような、黒い汚れが付着しています。

 

小さな布を滑り込ませ
汚れを全て落とします。

 

スラッジにゴミや金属粉が含まれていると、ガイドの滑りを悪化させます。製造段階に加え、
製造後の保管状態にも問題があるようです。組み上げた後で新しい潤滑油を入れます。

 

ブロック本体を入念に点検します。左右に
ある大きな穴をベアリングが循環します。

 

隣り合った小さな穴には、リターン
キャップの突起が嵌まり込みます。

 

隣接する2つの穴の縁が、一部で干渉しています。
ピンセットの先で周をなぞると引っ掛かります。

 

穴あけ加工の位置精度と開口部縁の仕上げ処理が十分では
ありません。ここでベアリング循環が滞る可能性があります。

 

本体ブロック側の問題として、ベアリングボールが循環する経路のどこかに
「引っ掛かり」があるはずです。リターンキャップ出入り口とブロック開口部の
ジオメトリにも、僅かな不一致を疑ってかかる必要があります。リューターに
細いダイヤモンドビットを取り付け、開口部縁を軽く研磨してみます。

 

潤滑スプレーを吹いて研磨屑が
残らないよう洗い流します。

 

保持ワイヤー、リターンキャップ、
サイドシールを組み付けます。

 

先に反対側のリターンキャップを嵌め
込んでから、保持ワイヤーを掛けます。

 

保持ワイヤーの弾性範囲内で、ラジオ
ペンチを使い掛けることが出来ます。

 

保持ワイヤーが張られているので、ベアリング
ボールは脱落することなく内部を循環します。

 

保持ワイヤーの内側ではベアリングボールの半分を
ブロックの溝が覆います。その縁にバリがあります。

 

バリがベアリングに接触するまで飛び出て
いると、スムーズな循環を妨げます。

 

500番程度の耐水ペーパーを小さく
切り、溝の内側上下の縁を研磨します。

 

奥側の縁は手が入らないので
ピンセットでつまんで往復させます。

 

研磨後は潤滑スプレーを吹いて
研磨屑を綺麗に洗い流します。

 

高圧エアで洗浄に使用した潤滑
スプレー液を吹き飛ばします。

 

ベアリング循環通路に残る
潤滑スプレー液も飛ばします。

 

ベアリングの循環経路をひと通りメンテし終えました。ボールを詰め直して
「引っ掛かり」が解消していれば、メンテ方法として妥当だったことになります。

 

取り出しておいたベアリングボールを
ティッシュペーパー上に広げます。

 

変色した古いグリスやスラッジに
まみれ表面が汚れています。

 

ティッシュペーパーを折りたたみ、
ボールを中に挟み軽く揉みます。

 

ティッシュペーパーに汚れが
拭き取られて綺麗になります。

 

ベアリングボールを1個ずつブロックに戻します。
保持ワイヤーの中ほどから軽く押し込みます。

 

メンテの効果が出ているのか、
引っ掛からずに軽く循環します。

 

途中で脱落したのか、あるいは最初から
不足しているのか、ボールが1・2個足りません。

 

補充用のベアリングボールを用意しました。
3/32インチはホームセンターでは入手できません。

 

ベアリングボール自体の品質も疑わしいものです。新しく購入したもので
全て交換したいところですが、日本製高品質のボールは結構高価です。

 

ガイドレール側も簡単にメンテします。品質が
悪く古くなって固化したグリスが付着しています。

 

レール側面のベアリングボールを受ける
V字溝です。所々にスラッジが残っています。

 

溝の奥までウェスを入れて
丁寧に汚れを取り除きます。

 

500番のペーパーでボールの
接触面を軽く研磨します。

 

本格的に研磨してしまうと、リニアガイドの精度を
損ないかねません。汚れを落とす程度に留めます。

 

数往復させてペーパーの当たりが
滑らかに変化する程度にします。

 

ベアリングボールを詰め直したブロックをレールに
組み合わせます。ボールが綺麗に整列してます。

 

「引っ掛かり」まくっていたメンテ前とは
劇的な違いです。するりと入っていきます。

 

水平状態から片端を徐々に持ち
上げて、傾斜を与えてみます。

 

傾斜30度ほどでブロックが
自重でスライドしていきます。

 

ブロックの動きをよく観察すると、「引っ掛かる」ことはないものの、金属どうしの摺動ノイズが
かすかに聞こえます。保持ワイヤーの僅かな変形もスライドの感触を変化させ、製品としての
安定性に乏しいことが分かります。日本国内製品の高品質には到底及びませんが、ともあれ
購入直後の「使い物にならない」状態ではなく、グリスを適切に選べば「使える」状態です。

 

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