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化粧鏡台の修復過程 その4
足掛け1年半にも及ぶ化粧鏡台の修復も、作業完了が見えてきました。途中で1年近く
手を付けずにいたので、実際には1か月弱の作業ですが。修復作業をしながら様々な
ことがらを思い浮かべます。設計・製作した家具職人の方の技やセンス、長年製品を
愛用された方の思い入れ、家具が置かれていた部屋の空気や明るさ・・など色々です。
6.鏡の再装着
取り外しておいた鏡裏面の背板です。張り付け
られている布地は、擦ると剥がれ落ちてきます。
オービタルサンダーに粗目のペーパーを
取り付けて、一挙に削り落とします。
布地は跡形もなく粉砕され、残った
ダストをクリーナーで吸い取ります。
合板表面には塗料や接着剤が固まった
跡があり、元々古いベニヤ板だったようです。
R加工された周囲の縁もペーパーで
研磨して形を綺麗に整えます。
淡い茶色~濃いベージュ色の布地を
用意し、背板よりひと回り大きく裁断します。
布地が吸水するため、接着剤が早く乾燥
しそうです。予め合板に水を吹いておきます。
接着剤を合板の表面
全体に塗り付けます。
スクレーパーを使い、表面
全面に均一に塗り広げます。
布地を上から置くと皺が寄るので、
合板を持ち上げて上から置きます。
軽く押さえて接着剤を
布側に作用させます。
布が剥がれ落ちないよう表に返します。
布側からしっかり押さえ合板と密着させます。
周囲を裏側に折り込み
クリップで押さえます。
裏側に1cmほど回り込むところで
カッターで布の周囲を切り離します。
上側左右の角はRに合わせ
鋏で短めに切り離します。
裏側に折りこむ部分に
接着剤を入れます。
接着剤の乾燥を待ちながら
裏側に折り込みます。
背板の修復完了です。布地の穏やかな
色調が和裁の雰囲気を漂わせます。
保管してあった鏡を綺麗に清掃し、いよいよ木枠に嵌め込みます。
このサイズの鏡、面取り加工も含めるとかなり高額になるでしょう。
さて鏡を置いてみますが、この通り僅かに枠側が小さく
なっています。接合面を切り揃えたことが原因でしょう。
留めの接合面の僅かな修正が大きく影響する
ものです。ダイヤモンド砥石で鏡の1辺を削ります。
何とか収まりました。裏側の保護塗装膜の
状態からしても、鏡はまだ新しいものです
元のクッションシートを
そのまま再利用します。
背板を置いてネジで
固定すれば完成です。
元はネジを打った上から布地を張り付け、ネジの頭が
隠れていました。折り返しの処理が難しいので略します。
7.最終組み立て、修復完了
再塗装が完了し塗装膜が完全に固化した本体です。
やや抑え気味の光沢で、桑の美しい杢が映えます。
1年以上前に塗装を終えていた引手金物です。
ようやく元の引き出し面板に戻されます。
研磨や塗装により割ピンを通す穴が小さく
なっています。少し大きめに開け直します。
ひとつひとつ丁寧に取り付けて行きます。
面板に旧式家具の風格が戻ります。
裏側に突き出た割ピンを左右に広げます。金属
疲労で折れる可能性があるのでゆっくり曲げます。
キャップを取り付けます。
木槌で軽く叩き込みます。
全ての引手金物を取り付け終わりました。金物を研磨して
光沢のある真鍮色を出しても良かったかも知れません。
支柱を片側ずつ嵌め込みます。今でも
きつく嵌まり込み、緩みがありません。
左右にわたす化粧板を兼ねた補強材を入れます。
素朴な装飾に当時の豊かな感性が見えるようです。
製作された当時、お客さんの元へ納品する直前に、鏡台を製作した
職人さんは同じような達成感と安堵感を味わったのではないでしょうか。
本体に鏡を取り付けます。左右で固定ネジを受ける金具に、片方でネジ山の
破損がありました。トーチで半田を流し込み補修しましたが、記録は略します。
本体に取り付けられた鏡は、修復作業中に工作台に寝かされていた
鏡とは全くの別物です。水を得た魚、中国の山林に帰ったパンダ、充電
中の充電器・・のようです。映る光景が雑然とした工房でさえなければ・・
厚労省国民健康調査
によれば、昭和30年20歳女性の
平均身長は
151.7cm
。これはその姿を映したサイズです。
当初の修復方針通り、本体背面や底面、引き出しの
内面等には手を加えず、当時の風合いを温存しました。
いったんは譲り受けてきた古い化粧鏡台ですが、骨董市で売り飛ばすわけには
行きません。お母様の形見として身近に置いていただくのが良いと思います。
現代風の新しい和室にも、修復を終え装いが整った化粧鏡台が似合うでしょう。
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