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リビングチェア張り替え1(2024.4.12)


家具製造販売の仕事をほとんどしていないので・・と書きましたが
海外製骨董品的椅子修復と前後してリビングチェアの修理をご用命
いただきました。続く時は続くものです。ご依頼主は新しい椅子に
買い替えるか迷っておられましたが、4脚あるチェアのうち取りあえず
2脚を修理してみて、残りは後でお考えになるということになりました。

 

修理すべきは座板および背板のクロスです。
擦れて破れて外観が著しく損なわれています。

 

座板の前縁ではクロスが横方向に破れて捲れ
上がる状態です。中のクッションが露出しています。
 

元々何色だったのか分からないほど変色もしています。
この状態になるまでよくお使いになった・・いや失礼。

 

工房隣のニ〇リあたりで新しい椅子を
低価格でいくらでも買うことができます。

 

しかし、クロスを張り替えてお使いいただいた
場合の意味も、工房として説明申し上げます。
 

数本の木ネジを緩め
座板を外します。

 

続けて背板の固定を外します。下端のみ
木ネジで固定され、上端は嵌め込みです。
 

背板のクロスは比較的傷みは少ないの
ですが、変色と生地の劣化が深刻です。
 

クロスの張り替えをお勧めした理由は、本体の木組み(フレーム)が
非常にしっかりしていて問題がないことです。数十年を経た椅子の
多くは、接合部の接着が緩み、隙間が空いてフレームが歪みます。
座るとゆらゆらし始め、ある時を境に一挙にグラグラ状態に進みます。
座板と背板を外してみると、構造が堅牢さを保っていることに加え、
各部品表面の塗装に劣化もなく、ほとんど傷も付いていません。
 

取り外した座板と背板です。
ともにクロスを新しく張り替えます。
 

座板から始めます。まず、
元のクロスを取り去ります。
 

クロスはタッカー(ホチキス)で
固定されているのが相場です。
 

文房具のホチキスとは訳が違い
太くて固い針が使われています。
 

マイナスドライバの先を差し入れて
1本ずつ針を浮き上がらせます。
 

浮き上がった針をニッパを
使って抜き取ります。
 

丁寧に作業しないと途中で針が折れたり
針先だけを切断したりしてしまいます。
 

木部内に針の残骸を残したくないので
時間をかけて着実に作業します。
 

座板1枚分を作業しただけで
手の平が大変です(皮膚が剥けて)。
 

クロスを取り去ると、その下にクッション
(ウレタンシート)が敷かれています。
 

次に背板のクロスを剥がします。
張り付け方がよく分かりません。
 

背板の下端に袋を閉じた跡があります。
埋もれたホチキスを探して引き抜きます。
 

端から端まで切れ目なくホチキスが
打ち込まれています。全て引き抜きます。

 

ドライバの先で浮かせた針を、途中で
折らないようにニッパで引き抜きます。
 

前後から袋を閉じるようにクロスが固定され、
その一方(後側から)の固定を取り去りました。
 

その下から、前側からも固定している
ホチキスが現れます。厳重な閉じ方です。
 

こちらも同じようにホチキスの
針を丁寧に取り除きます。

 

背板のクロスには最初から袋状に
縫製されたものが使用されています。
 

被せてあるだけなのに脱がすことができません。
部分的に接着されているようなので鋏でカットします。

 

クロスは変色だけでなく、変質して
布地の手触り感ではありません。
 

表側クロスの下には厚みの異なる
2枚のクッションが挟まれています。
 

反対側は薄いウレタンシート1枚のみで、
劣化が進んでいるので取り除きます。
 

接着された跡が残っているので
スクレーパで削り取ります。
 

座板・背板とも合板の状態はまぁまぁです。
交換しようにも湾曲加工は困難です。
 

座板・背板ともクロスを剥がし終わりました。中に挟み込まれていた
クッションのうち、厚手のウレタンシートは再利用する予定です。

 

張り替えに必要な材料を揃えます。クロスの
カラーは予めご依頼主に了解いただいています。

 

背板のクッションから貼り付けていきます。
薄手のウレタンシートを使います。
 

背板の裏側(後側)は元のクッションを
全て取り去り合板木部のままです。
 

接着力に加え作業性を考慮して
ゴム系の接着剤を使用します。
 

要所要所に十分塗り付けますが、位置が
ずれないよう固定できれば十分です。

 

塗り付け後にある程度乾燥させてから接合します。
湾曲を伴う形状でも接合の直後に強く接着できます。

 

ただし、接合する両面に接着剤が
塗り付けられている必要があります。

 

ウレタンシートのはみ出た部分を
カッターナイフで切り落とします。
 

外形に合わせたつもりでも
微妙にはみ出た部分があります。
 

外形に合わせて切り落とします。カッターの
切れ味が悪いとシートを引きずります。
 

薄刃のカッターを使用し、数回
使う度に新しい刃に交換します。

 

下端部分はクロスが2枚重なることを
考慮し、シートの一部を切り欠きます。
 

下端から1cmほどの位置で
シートに切り込みを入れます。
 

まだ接着剤が完全に乾いていない
ので、引き剥がすことができます。

 

同じように背板上端部分も
1cmほど切り落とします。

 

上端はフレーム内側の溝に嵌まり
込むため、厚みを残しておけません。

 

背板の後ろ側には背中は当たりませんが、クロスを張った時に
痩せた印象が出ないよう、また手触り感を向上させるために
薄手のウレタンシートを張ります。表側(背中に当たる側)は
背中のホールド感や心地良さが求められるので、より重厚な
クッションが必要です。30mm厚の高反発ウレタンを使います。
 

さすがに元のウレタンシートを残すと
厚くなり過ぎるので取り除きます。

 

接着方法は同じくゴム系
接着剤を使用します。
 

塗り付けた接着剤がある程度乾いたところで
ウレタンシートを当てて押さえ付けます。

 

背板については、市販のウレタン
シートのサイズで間に合います。
 

4脚のうち最初の2脚を
ひたすら作業します。

 

接着剤が乾いたところで
はみ出し部分をカットします。
 

どうせクロスに隠れてしまいますが、
できるだけ外形通り綺麗に切り落とします。

 

カッター刃の切れ味が重要です。新しい
刃は滑るようにウレタンを切り進みます。
 

元のウレタンを取り除いたとはいえ、
全体ではかなりの厚みに達しています。

 

この状態でクロスが張られうまくフレームに
納まれば、高い心地良さが得られるはずです。
 

上端のカーブに沿ってウレタンがカット
されています。ここで一つ心配な点が・・。

 

ウレタンシートの縁が立ったまま(直角)では
クロスが張られた形状に影響がありそうです。
 

カッターを45度に傾け、周囲の
縁部分を斜めにカットします。

 

この作業も、カッター刃が新しいとサクサク
進みます。しかも正確なカットが容易です。
 

表裏とも下地のウレタンシートを張り終えた時点で
フレームに嵌め込んでみます。厚手のクロスを張った
状態でも綺麗に収まるか、今はまだ分かりません。

 

座板にクッションを張ります。元のウレタンシートは
さほど傷んでいないのでそのまま再利用します。

 

新しいウレタンシートと反発力が異なるので
座り心地の向上に寄与します。ところで、
 

座板の面積が予想外に大きく、標準サイズの
市販ウレタンシート1枚ではカバーし切れません。

 

そこで不足分を継ぎ足します。この切れ端は
背板に使用したウレタンシートの切り落としです。
 

元のウレタンシートに接着剤を塗り付けます。幸いなことに
ゴム系接着剤の溶剤はウレタンをほとんど侵食しません。

 

接着剤がある程度乾くのを待って
ウレタンシートを当て押さえ付けます。
 

手を離してウレタンシートが浮き上がって
くるようでは、乾燥が十分ではありません。

 

継ぎ足す部分の断面に
接着剤を塗り付けます。
 

継ぎ足しのウレタンシートを貼り付け
マスキングテープで軽く押さえます。

 

座板の下側には、さすがに手が触れる
こともないのでクッションは入れません。
 

はみ出た部分をカットします。念のため
新しいカッター刃に交換しておきます。

 

慣れてくれば簡単な作業です。切れ味の良い新しい
カッター刃で力を入れずにカットすることがコツです。
 

座板両サイド奥の変形部分も
外形通り綺麗にカットします。

 

よく見ると元のウレタンシートが、横方向に伸びて
座板の外形をはみ出しています。修正します。
 

背板と同じようにウレタンシートの周囲縁部分を
斜めにカットします。クロスの当たりを改善します。

 

この状態で手で押さえ付けたり座ったりしてみます。
固さの異なる2枚のクッションが心地良さを生み出します。

 

下地のクッションを張り付けるところまで作業を終えました。
半分の2脚分なのになかなか大変な作業量です。やはり
背板の分が加わったことで、通常の椅子張り替えの2倍
近くに作業が増えています。クロスを張る前ですが、この
状態でも非常に良好な座り心地です。フレームも含め元の
全体設計が優れているからだと思います。ご依頼主に
買い替えではなく張り替えをお勧めして良かったのでは・・。

 

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