引き出しの取っ手を製作して欲しいと、そのサンプルが持ち込まれました。
ホームセンターを覗くと、「よくぞこれだけ集めた」と思うほど様々な取っ手が
並んでいます。これだけあれば大概の取っ手は見つかりそうなものですが、
実際にサンプルを手に探しに行くと、同じものは絶望的に見つかりません。
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引き出しや開き戸にはいくつもの「同じ」取っ手が付けられ
ています。1つ2つ欠損すると不便かつ見栄えを損ないます。
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ブロック形状の取っ手であれば3Dプリンターを
駆って複製しますが、この形状は無理です。
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ブリッジやサポートが不可避で綺麗な仕上がりが
望めません。しかし、形状を良く観察すると・・、
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径10mmの丸棒を円弧状に曲げ加工されて
いるだけです。適当な丸棒から製作可能です。
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両端の鋭利なカット面に影響されて、実は
単純な形状であることに気付きませんでした。
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サンプルと同等の径10mmアクリル丸棒です。本物は
インジェクション加工なので、より綺麗に仕上りそうです。
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加工時の「掴み」と「捨て」を確保する
ため、多少長めに材料を採寸します。
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サンプルと同じ形状(円弧状)に変形させる
だけです。円弧は正円の一部のようです。
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アクリル材を曲げるなら熱加工以外は考えられません。材料を布の上に置き、
ヒートガンで満遍なく加熱します。ほどほどに加熱しないと、一定温度に
達したとたん溶融が始まり、材料内部から泡が生じて表面を台無しにします。
しかし、マイルドだからと言ってヘアドライヤーでは変形温度に至りません。
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丸棒を回転させながら全体かつ
内部まで均一に加熱します。
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時々持ち上げて力を加え、材料の軟化状態を
確認します。グローブを着用しないと火傷します。
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十分に柔らかくなったところで、サンプルの
形状に合わせて少しずつ曲げて行きます。
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中央付近の形状を整えてから、左右を片方
ずつ曲げます。その都度、再加熱します。
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サンプルと同じ径の円筒など何かジグを用意すれば、はるかに手際よく作業
できると思います。同じ取っ手を10個、20個と製作するならそうしますが、
今回は1個だけのご用命なのでサンプルを使った現物合わせで片付けます。
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長めに採った材料が両端からはみ出ています。
ここを正確にカットできないと複製になりません。
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カットする位置をサンプル
から正確に写し取ります。
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両端の切断面は同一平面に一致させなければ
なりません。スライドソーの精度に頼ります。
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この小さな材料を指先で固定するのは危険過ぎます。
当て木やマスキングテープで十分に固定します。
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丸鋸が材料に触るか触らないかぎりぎりの
タッチで、時間をかけて慎重に切り進めます。
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左右端とも切断完了です。途中で特にぶれる
こともなく、正確にカット出来ているようです。
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切断部分をマスキングテープで養生しておいたので、切断面周囲に材料のハツリが
ほとんど出ていません。また、レザーカットではこれだけの平面性を出せません。
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マスキングテープをはがします。
透明アクリル製の美しい取っ手です。
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元のサンプルと並べてみます。
完コピと言ってよろしいのでは・・
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次に、取っ手を固定するための
ネジ穴を開けなければなりません。
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切断するにも穴を開けるのも、甚だ不安定な
形状です。加工時の固定にも工夫が必要です。
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当て木を介してバイスで挟み、両端の
切断面が水平に顔を出すよう固定します。
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穴開け深さを調節できるドリルスタンドを使用
します。発熱しないようゆっくりドリルを下ろします。
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穴あけを急ぐと、発熱により溶け出たアクリル
屑が内側を抉りながら穴を広げてしまいます。
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外側から見ると穴が斜めに開いているようですが、
アクリル材の屈折率1.49によるものです。
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この穴に3mmのネジを切ります。サンプルでは小さな
雌ネジを埋め込んでいますが、入手できそうにありません。
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ネジを切るにしても簡易的な方法を採ります。実際に
使用するネジの先を、ブタンバーナーで炙ります。
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先が熱いうちに穴にねじ込みます。アクリルを
溶かしながら簡単に内部へ進んで行きます。
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途中でねじ込みが固くなってきたら、ネジの
頭近くを再度加熱し、穴の奥まで到達させます。
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アクリル材に直接ネジ加工しているので、強度はとても十分とは言えません。しかし、
元の取っ手も材質や形状、大きさからして、さほど強度のあるものではないでしょう。
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最後に、サンプルと同じカラーで着色・塗装します。
メタリックシルバーを吹き付けます。プラサフは不要です。
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アクリル材表面に元々艶があるので
メッキに近い光沢が得られます。
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上下を逆にして2回目を吹き付けます。
十分に乾燥させて塗装完了です。
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サンプルと区別できない程度の仕上がりです・・、
時間の経過したサンプルよりも綺麗(新品)です。
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これだけの手間がかかるので、市販品と同じ価格ではとても提供出来ません。
しかし、5段の引き出しのうち最上段の取っ手がいつの頃からか無くなっている、
この使い勝手や見栄えの悪さを解消する費用として、取っ手数個分の出費は
決して高くないのでは。費用以前に・・お引き受けします、守谷工房が。
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