守谷市の近郊にあるオーディオ機器サポート会社からのご依頼です。かつて全盛を
極めた高級オーディオ機器、特にアンプの修理を専門にしています。このような会社が
健在であることは、往時のオーディオファンが今も多く残っていることを物語っています。
工房へのご依頼は、スピーカーボックスの前面グリルに張られたカバーの交換です。
*写真をクリックすると張り替え後の状態を表示します。
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スピーカーユニットもエッジやダンパーが傷んで
おり、それらは他の専門会社が修復するようです。
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左右2個組のうち片方は無残にもカバーが破れています。
他方も汚れが付着してグリルの形に黒ずんでいます。
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「Goodmans」は英国の老舗スピーカーユニットのブランドです。
「SATOH RADIO・・」はエンクロージャー製作会社でしょうか?
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ともあれ前面グリルだけお預かりしてきました。
カバーを挟んでいる前後の枠を分離します。
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釘で打ち付けてあるだけなので、
ドライバーを入れると隙間が開きます。
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途中からは直接手で引き離します。
釘の接合力が程良い感じです。
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接着剤を併用していないので助かります。
張り替える時のことが考えられているようです。
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手前の細枠と背後の幅広枠に分離します。
忘れないうちに合印を付けておきます。
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残っている釘を玄能で叩き、
打ち込んだ側に少し戻します。
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反対側に釘の頭を完全に出します。
使用されている釘は全て抜き取ります。
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釘を打ち込んだ側から
ニッパで釘を引き抜きます。
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錆びがさほど進行しておらず
十分に強度を保っています。
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手前の細枠と背後の幅広枠に分離
しました。釘も全て抜き終わりました。
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カバーは幅広枠側に張られており、
先にエンブレムを外す必要があります。
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エンブレムは2本の釘で打ち込まれており、
裏側に釘の先が僅かに飛び出ています。
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エンブレムを傷めないよう
飛び出し部分を軽く叩きます。
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表側にエンブレムが浮き出ているので
ドライバーを入れて引き上げます。
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しっかり固定することができて
しかも取り外しが簡単です。
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布製カバーは周囲の4辺全てが
タッカー(ホチキス)で止められています。
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カバーに皺が寄らないよう、夥しい数の針で
固定されています。これらを全て抜き取ります。
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どらーバーの先で少し浮かせてから
ニッパーで丁寧に引き抜きます。
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針が細く錆びかけているので、無理を
すると枠材料の内部で折れてしまいます。
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グリル2枚とも全ての
針を抜き終わりました。
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ボロ布と化した元のカバーを取り
除きます。長い間お疲れさまでした。
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手前の細枠と、古いカバーを取り除いた背後枠です。細枠はカバーと
共にスピーカー前面を飾るので、表面を整えて再塗装することにします。
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細枠の表面にサンドペーパーをかけ
ます。元の塗装膜を軽く落とします。
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表面に傾斜を作らないよう、細枠を
2本平行に並べて同時に研磨します。
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細枠の内側面と外側面にも
ペーパーをかけます。
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劣化した塗装膜や材料表面に
付いた細かな傷を落とします。
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プラサフで下地を作るので
この程度で十分です。
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1回目のプラサフを吹きます。
速乾性で作業性が良好です。
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残っていた古い塗装が隠れ
表面がしっとりしてきます。
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プラサフを吹いてから気づきました。
細枠の接合部に釘穴が残っています。
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木工パテで穴や凸凹を埋めます。
本来はプラサフの先に行う作業です。
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ここは枠材料の一部が
割れてずれています。
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修復するほどの割れではない
ようです。パテを当てて隠します。
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材料の表面にも割れた跡の
ような筋が残っています。
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ここもパテで埋めておきます。この
ような傷みが結構見つかるものです。
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パテが完全に乾燥・固化してから
サンドペーパーで成形します。
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ペーパー掛けにより1回目のプラサフはかなり落ちてしまいます。
結果、平滑になった表面に2回目のプラサフを吹き付けます。
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元の色と同じ黒のカラースプレーを
使用します。艶消しに仕上げます。
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下地にプラサフを吹いているので
木目はほぼ見えなくなります。
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吹き付け量を少な目に抑え、2回重ね塗りします。枠材の木目が
ほぼ消えて、品の良い艶消しでしっとりした仕上がりです。
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カバーを張り付ける背後枠です。カバーで隠れて
しまうので特に処理しなくてもいいのですが、
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タッカーの針を抜いた後にささくれが
残り、かなり飛び出ています。
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軽くペーパーを掛けておきます。
ささくれはなくなりました。
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張り替え用のカバーです。秋葉原の専門店へ
出かけるまでもなく、Amazonで入手できます。
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低域から広域まで減衰が均一・・という触れ込みの
製品で、表裏で織り方の異なる2枚重ねです。
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問題はいかに歪みや皺を作らず、
均一に張り付けるかです。
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周囲4辺をタッカー止めします。少し長い
12mmのタッカー針をセットします。
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前面側の細枠に隠れる位置に
正確に打ち込みたいものです。
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細枠の位置を知るための
簡単なジグを作ります。
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背後枠の内側にセットすれば、
残る隙間が細枠の幅になります。
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そこにタッカーの先を合わせれば、細枠の
中心線に沿って針を打ち込めます。
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上下枠の中心を固定し、左右枠の中心を固定し、
カバーを引き寄せながら徐々に4隅へ向かいます。
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網戸を綺麗に張る要領に似ていますが、
はるかに歪みやすく難しいものです。
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周囲にはみ出した部分をカッターナイフで切り
取ります。布がほつれないよう薄刃を使用します。
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カバーを張り付けた側を下にして強く押さえ付け、
カッターナイフを軽く何度も通して切り離します。
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カッターナイフを強く当てると、布が
簡単にほつれて仕上りを損ないます。
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枠材とカバーの織り目を完全に一致させるのは
至難の業です。何かプロの技があるのでしょうか。
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4辺ともはみ出しを切り取りました。
余りを何かに使おうと思います。
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寸分の乱れもない均一な張り・・には、なかなかならないものです。
予め補助枠のようなものに均一に張っておき、2段階で張り付けるのか。
製造元ではどのような技法が用いられているのか興味深いところです。
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前面側細枠と
重ね合わせます。
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前後枠とも裏返しにします。塗装面を
傷めないようカバーの残りを敷きます。
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抜いておいた元の釘を再利用します。
程良い錆が緊結力を発揮します。
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釘穴も元の穴をそのまま利用します。
位置がずれる心配がありません。
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いずれカバーが張り替えられることを前提に、簡単に分解可能で、
しかも一定の緊結力を保持できる合体方法が採られています。
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取り外しておいたエンブレムです。
すっかり汚れてしまい冴えません。
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エッチングにより刻まれた文字なので、
文字面にだけペーパーをかけます。
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窪みにはペーパーが及ばない
ので、文字面だけ研磨できます。
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文字面に真鍮の
輝きが蘇りました。
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間を置かずクリヤーラッカーを
吹き付けておきます。
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文字面が輝き、谷汚しの
黒も引き締まりました。
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元の位置に戻します。
同じ穴に差し込むだけです。
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エンブレムの輝きひとつで
新品感が漂います。
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2枚とも作業を完了しました。実際にエンクロージャーに当ててみたいもの
ですが、ご用命はここまでです。本体は依頼元の会社に保管されています。
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ラジオやアンプやCDプレーヤー修理など半田付けばかりの作業が続き、製作作業
とりわけ木工関係の仕事から長く遠ざかっていました。木工と呼べるほどの作業では
ありませんでしたが、久しぶりに材料加工を楽しみました。大きさや形を変えて行く
仕事は、成果を実感できてやりがいがあります。守谷工房は表向き「家具屋」なんで。
*写真をクリックすると張り替え前の状態を表示します。
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