県内にある大学の図書館で、司書カウンターにアクリルパーティションを
設置する作業です。部材が揃い部品加工も終わりましたので、現場での
取り付け作業に出向きます。部品加工を終えたとはいえ、実は左サイドの
湾曲部分はまだです。2mm厚アクリル平板を、半径750mmの4分の1
円にどうやって加工するか決めかねています。無理をせず湾曲部分以外を
先に作業し、時間をかけて湾曲部分の解決方法を考えることにします。
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・現場設置作業1 |
左サイドの湾曲部分以外を先に取り付け施工します。パネルと支柱の
平面配置図をプリントし、留意点などを書き込んだものを持参します。
カウンターテーブルのサイズは下見時を含め既に3回確認しています。
工房で加工した部材を現場に持ち込み、そこで寸法違いが発覚すると
作業が進められない・・よりも、お客さんの見ている前で恥をかきます。
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設計サイズに裁断したアクリルパネル、組み立てを
終えた支柱、その他の必要資材を運び込みます。
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作業開始前に、ここで再度取付位置を確認します。
支柱の本数が足りない・・なんてことが起こりがちです。
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設置平面図に従って支柱の
取付位置をマークします。
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取り合えず支柱を所定位置に
置いてみます。まだ固定しません。
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支柱に沿ってパネルも並べてみます。
センチ単位の狂いがあればすぐに分かります。
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支柱の底板をマスキング
テープで仮固定します。
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最終的な固定は底板の裏面に両面テープを
入れますが、パネルを取り付けてからにします。
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支柱の縦方向3カ所に開けた穴にネジを通して
パネルを支えます。ではパネルを取り付けます。
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パネルを持ち上げて短冊に開けた穴の位置を
支柱に合わせ、すかさずネジを通します。
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2枚のパネルが連続する部分は、それぞれの
短冊が支柱を挟んでネジで固定されます。
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パネルの取り付けは、思いのほか簡単
です。予想以上に正確に組み上がります。
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右側サイドを折り返し、正面に連続する
パネルをもう1枚取り付けたところです。
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カウンターの内側に支柱が並びますが、
特段に目障りな印象はありません。
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簡単な取り付け方法とはいえ、パネルの重量が
適度に分散されて堅牢かつしなやかな構造です。
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支柱の取り付け間隔も
必要十分のようです。
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さらに連続する2mの長いパネルを取り付け
ます。カウンターが完全に覆われていきます。
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左サイドの奥まった部分です。短いパネルを
1枚取り付けて、湾曲部分に接続させます。
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左サイド湾曲部分を除いて
パネルを取り付け終わりました。
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パネルを取り付けた範囲内にある
支柱について、最終的に固定します。
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パネルが点灯する際は、間違いなく
こちら側が浮き上がるはずです。
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裏側に両面テープを入れてテーブル面に固定
すれば、利用者側への転倒はほぼ防止できます。
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両面テープのはみだし部分を取り除き、
位置がずれないように裏紙を剥がします。
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テーブル面にしっかり
押さえ付けます。
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よほどの外力が加わった場合は、貼り付け面が
適度にずれることで変形を吸収できるはずです。
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パネルと支柱を固定している
ネジを最後まで締め込みます。
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今回予定していた作業の完了です。
最後に保護シートを剥がします。
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湾曲部分のパネル取り付けが残っていますが、なかなかの
光景です。このスケールのアクリルパーティションを、多分
目にしたことはないと思います。何とか湾曲部分のパネルを
うまく用意して、早く全体を完成させたいものです。しかし・・
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・コーナー用湾曲パネル製作・・失敗 |
R750mmの湾曲パネルを作ります。この作業は失敗に
終わりますので、興味のない方は現場設置作業2へどうぞ。
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レーザー加工機でアクリル板から
R750mmの8分の1円を切り出します。
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12mm厚のMDF材に円弧を写し取り、
両端に半径方向の直線を入れます。
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バンドソーで円弧を正確に切り抜きます。
750mmは湾曲パネルの半径です。
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MDFは均質性が高いので、鋸刃が
素直に追随し作業が比較的容易です。
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この8分の1円弧を、片側2枚、
両側で4枚切り出します。
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切断面を整えるため、
8枚をクランプで束ねます。
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ベルトサンダーで切断面の凹凸を
均し、4枚の形状を揃えます。
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両端を半径方向に
切り揃えます。
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アクリルパネルを半径750mmの湾曲形状に
加工するため、元になる型枠を作ろうとしています。
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8分の1円を2枚ずつ接続し
4分の1円を作ります。
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マスキングテープで位置を決め
接合面に接着剤を入れます。
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平面を維持した状態で接着剤の乾燥を待ちます。
昇降盤の定盤面にウェイトをかけて押し当てています。
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接着剤のみでは強度不足
なので補強材を当てます。
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4分の1円の両端に
ネジ穴を開けます。
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パネルの高さに等しい長さ1mの合板を
用意し、4分の1円の両端に取り付けます。
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まだ構造体として十分な強度に達していない
ので、無理な力が加わらないようにします。
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上下を逆にします。反対側にも
4分の1円を取り付けます。
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湾曲したパネルを製作するためとはいえ
この手間のかかり方は何なのでしょう。
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中間を支える棒材を加工します。
ルーターで肩を丸く落とします。
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平面のままではパネルに
段が付く恐れがあります。
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向きを変えて反対側も
肩を丸く落とします。
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Rの頂点(稜線)部分がパネルと点(線)接触
するだけなので、正確な円弧を再現できるはずです。
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肩をR加工した棒材を、等間隔に5本配置しました。
この上に薄いべニア合板を張り付ければ、パネルを
加工するための型枠(太鼓)が出来上がります。
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材料保管庫から2.7mm厚の
古いべニア板を引っ張り出します。
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型枠に被せ、両端を
クランプで仮固定します。
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タッカーで周囲をひたすら
固定していきます。
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R750mm4分の1円弧の
型枠(太鼓)の完成です。
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たった1枚の湾曲パネルを加工するにしては
大変な木工製作でした。ほぼ1日を費やしました。
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型枠の上に2mm厚1000mm×
1878mmのアクリル板を載せます。
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ヒートガンを用いてアクリル板を外側から加熱します。ヒートガンを左右に
ゆっくり振りながら横方向直線上を120℃くらいまで均一に加熱し、円弧に
沿って少しずつ型枠に馴染ませていく作戦です。写真はまだ加熱する前の
状態で、アクリル材の自重のみで既にこれだけ型枠に寄り添います。加熱
作業はさして時間もかからず、軽く片付くだろうと高を括っていたところ・・・。
結果は見るも無残な大失敗です。酷すぎて写真を載せる気になりません。
アクリル板+型枠べニア板の熱容量が大きく、この程度のヒートガンでは
横方向直線上を均一に120℃まで加熱するには時間がかかり過ぎます。
左端から右端まで1分くらいかけて移動させる必要があり、それでは先に
加熱した部分があっけなく冷えてしまいます。放射温度計を持ち出して、
アクリルの表面温度を確認しながら加熱したところ、ようやく塑性変形に
持ち込むことができました。しかし、保護シートを少し剥がしてみると、元の
美しい光沢面が失われ代わって見苦しいゆず肌が広がっています。自棄に
なってシートをめくると、型枠に寄り添うどころか表面は縦横両方向に大きく
波打っているではありませんか。万単位の高価なアクリル板が廃材と化す
瞬間でした。専門の加工所では、加熱炉に入れて200℃以上で軟化させる
ことを後になって知りました。時刻は既に深夜、不勉強がもたらした失態です。
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・現場設置作業2 |
再び現場に足を運んでいます。残りの湾曲部分のパネルを取り付けます。
R750mmに綺麗に湾曲したアクリル板が、既に支柱に固定されています。
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あの大失敗の後、どのような方法で
湾曲加工に成功したのか・・・
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実は、湾曲加工など一切しておりません。
アクリルを平板のまま直接取り付けています。
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解決策はどこに転がっているのか、
なかなか分からないものです。
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2mm厚のアクリル板を、湾曲部分
だけ1mm厚に変更しただけです。
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1mm厚では平板としての剛性が乏しく、
面積の大きい平面部分には使用できません。
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しかし、湾曲部分であれば、平板が大きく曲がる
ことで水平方向の剛性が飛躍的に高まります。
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垂直方向の剛性は支柱が請け負うので、すなわち湾曲部分は1mm厚
アクリル板が使えるということです。1mmの厚さ(薄さ)は、R750mmも
ある大きな湾曲を弾性変形域内で十分吸収できるので、加熱して成型
する必要など全くありません。テーブルの形状通りに円弧を描いています。
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支柱とのネジ固定を終え、保護
シートを剥がしにかかります。
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大失敗を振り返りながらの最終
仕上げには複雑な思いが伴います。
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左サイドの湾曲部分パネルが
取り付けられた状態です。
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カウンター手前から見た状態です。
相変わらずうまく写真に写り込みません。
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残っていた支柱を
最終的に固定します。
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両面テープを挟んでカウンター
テーブルにしっかり貼り付けます。
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完成です。カウンターの全周にクリアなパーティションがセットされました。
保護シートを取り除いて間もないこともあり、アクリル材の表面は最高に透明な
状態です。うっかりするとパネルに気づかず、手や顔面をぶつけそうです。
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設置作業を終えて、職員の方々に説明しているところです。やはり、
湾曲部分のパネルが取り付けられて、本当に完成したという印象を
受けると話されていました。パネル上端の高さは床面から1.9mです
ので、身長のある学生さんでも飛沫等の防止は十分かと思われます。
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カウンター右サイドからのビューです。
支柱の存在もほとんど気になりません。
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パネルはカウンターの前縁ぎりぎりに位置しています。
テーブル上の物品配置も従来通りで問題ありません。
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最後にもう一度この角度からの完成状態を示し
ます。受注時に作成したパースと比較してみます。
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3DCADのおかげで、製作前に完成イメージを
簡単に把握・検討することができます。
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とりわけご依頼者に完成状態を具体的に説明できる点は、十分に
納得された上で発注いただくことにつながり、受注側としても自信を
持って製作を進めることができます。年度末の大仕事にようやくケリが
付きました。あの大失敗さえ無ければ・・、後悔しても始まりません。
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