
イギリス製8気筒エンジンディスプレイモデルの組み立てキットです。もちろん工房の
製作品ではありません。英国ブリストルにある出版社Haynesが販売している、V8
エンジンの構造を再現した精巧な模型です。技術教育において実物および実物に
近いモデルは、装置の構造や機能、原理を理解する上で重要です。実物をできる
だけ忠実に再現し教育効果の高いモデルは、なかなか見つけることが出来ません。
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ネットショッピングをしていて偶然見つけた
もので、実際にはAmazonで購入しました。
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250以上のパーツを組み立てるキットです。
プラモデルではないので接着剤は不要です。
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組み立て手順が説明されている付属の
マニュアルです。全40ページ、英文です。
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精密に作図された図解と、必要十分な解説が
用意されています。視力の衰えた目には小さい!
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ガイドピンが嵌まり込むか、要所は
ネジで固定されるよう設計されています。
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最初にピストンを組み立てます。コネク
ティングロッドにピストンピンを通します。
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左右に分割されたピストンのパーツを
ピストンピンを挟むように組み合わせます。
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8気筒エンジンなので計8個の
ピストンを組み立てます。
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ガイドピンを強く押さえ付けるよう指示が
あるものの、実際には緩んで隙間が生じます。
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接合面に少量の接着剤を
使用することにします。
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完全に密着させます。隙間が開いていると
シリンダの内壁と干渉する恐れがあります。
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クランクシャフト周りの組み立てに必要な、
ベアリングキャップと固定ネジを用意します。
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複雑な形状のクランクシャフトは、肉厚を避けたリブ構造で
一体成型されています。かなり精密なインジェクションです。
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クランクシャフトにピストンを取り付ける部分の
説明です。矢印の意味がやや分かり難い。
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実際に取り付けます。リブで区切られた
一方にピストンの片側が取り付けられます。
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隣の区切りにもう一方のピストンが取り付けられます。
ピストンは45度の角度で交差するので互いに干渉しません。
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ベアリングキャップに予め
固定ネジを取り付けておきます。
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コネクティングロッドの底部に
ベアリングキャップをネジ固定します。
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クランク1か所に交差する2個の
ピストンを取り付けます。
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計8個のピストンがいかにバランスよく運動するか良く分かります。各クランク部の
位相関係と動作は、このようなモデルを手にすることで正確に把握することができます。
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ピストン・クランクシャフトアセンブリを
シリンダブロックに挿入します。
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ピストンを2個ペアで上死点・下死点に
セットし、シリンダ内に注意深く挿入します。
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逆さの状態で組み立てたシリンダブロックを上に
向けます。ピストンが収まった状態を確認できます。
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バッテリーボックスを兼ねるベースの上に
オイルパンとクランクケースを取り付けます。
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先ほど組みあがったシリンダブロックを
クランクケースと合体させます。
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組み合わせてみると、シリンダブロックと
クランクケースの接合部に隙間が生じます。
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クランクケース側に付いているピンが
シリンダブロック側の穴に入りません。
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穴の成型が不完全で小さいため。
ピンが通りません。穴を大きくします。
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完全に密着するようになりました。
全体的に成型精度は高いようです。
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シリンダヘッド部の組み立てに移ります。
アッパー・ロワーに2分割されています。
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先に、ロワーシリンダヘッドに各2枚の
シリンダヘッドプレートを組み付けます。
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シリンダヘッドプレートに開けられた2列の
穴を、吸気・排気バルブステムが通ります。
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バルブステムに傾斜を与えるため、シリンダ
ヘッドプレートは斜めに取り付けられます。
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スチールシャフトにバルブスプリングの
セットが必要数通されています。
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バルブステムのパーツです。吸気用と排気用で
先端に取り付けるバルブの形状が異なります。
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バルブステムにバルブスプリングを
通します。非常に繊細なスプリングです。
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ロワーシリンダヘッドの穴に通し、反対側に
突き出たところでバルブを取り付けます。
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シリンダヘッドの内側に吸排気バルブが並んで
います。バルブステムを押すと実際に開閉します。
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ロッカーシャフト(スチール製)にロッカーアームを通し
ます。左右シリンダブロックで組み方が異なります。
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ロッカーアームアセンブリを、左右のアッパーシリンダ
ヘッドに取り付け、ベアリングキャップをネジ固定します。
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ロワーシリンダヘッドと合体させてみます。
ロッカーアームがバルブステムの頭を叩きます。
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あらためてここでシリンダブロックと
クランクケースをネジで固定します。
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両端に突き出たクランクシャフトを回転させると
8気筒分のシリンダが次々と往復します。
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紙製ではありますが、シリンダヘッドガスケットです。
内部の視界を遮りますが、透明では存在が分かりません。
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その上にロワーシリンダヘッドを載せます。
V8エンジンの迫力が出てきました。
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ロワーシリンダヘッドをネジで固定します。
実物のV8エンジン構造とほぼ同等です。
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左右に分かれた4気筒ずつふたグループの
シリンダヘッドが、45度に開いたV字になります。
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バルブステムを駆動するカムシャフトの組み立てに
移ります。スプリングを通していたスチールシャフトです。
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シャフト断面およびカムに開けられている穴は、周の一部が
欠き取られており、各カムの位相角が正確に決定されます。
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従って、カムの挿入順序を間違えるわけには行きま
せん。アッパー・ロワーシリンダヘッドの間に入ります。
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シャフトと共にカムが回転し、ロッカーアームを下から
正確なバルタイ(バルブタイミング)で上下させます。
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ロワーシリンダヘッドとアッパーシリンダ
ヘッドを合体させネジで固定します。
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V8エンジンの最重要部分、クランクシャフト、ピストン、シリンダ
ブロック、ヘッド、バルブ、カム、ロッカーアームを俯瞰できます。
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シリンダ周り組み立ての最後に、ロッカーアームカバーを取り付けます。ここまでの筐体部品には
全て透明樹脂材料が使用されており、組み上げてきた複雑で巧妙な構造を、外側から覗き見る
ことができます。実物の持つ構造に限りなく近く、非常に良く考えられた学習教材と言えます。
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前後に突き出た左右のカムシャフトに溝付きベルト車を
入れます。正確にはカムシャフトスプロケットです。
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説明なしではまず理解できないこの部品、左右
スプロケットの同期位置を合わせる冶具です。
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冶具に付いている3本のピンが、スプロケットの
特定位置に開いた3個の穴に嵌まり込みます。
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カムシャフトスプロケットの位置を保ったまま、クランクシャフト
スプロケットとアイドルプーリ経由でタイミングベルトを掛けます。
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タイミングベルトカバーを取り付けます。
同じく透明樹脂製で内部を透視できます。
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クランクシャフトプーリ、ウォーターポンプを挟み冷却ファンを
取り付けます。重要度の高い補器類が網羅されています。
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強いて申し上げれば、ラジエータが略されている点が残念です。しかし、
このスケールで再現することは難しいでしょう。また、熱交換システムとして
ラジエータの機能を正確に説明することは、必ずしも必要とは思えません。
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このモデルには、さらに深い理解を促す工夫が
盛り込まれています。点火システムです。
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カムシャフトの回転によって駆動されるディストリ
ビュータから、8本の点火プラグへ配線が延びます。
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ディストリビュータには回転する電気接点が内蔵されており、
その先には点火プラグではなくLEDが接続されています。
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クランクシャフトの手前にモータユニットを取り付けます。
歯車で減速された後、実際にピストンを駆動します。
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モータユニットおよびディストリビュータ(LED)への
電力は、ベース内のバッテリーから供給されます。
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モータユニットの上に、クラッチカバーに見立てたキャップを
被せます。巧妙にデザインされており違和感がありません。
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吸気マニホールドやエアクリーナを取り付けます。ドレス
アップパーツに過ぎませんが、実物に近い印象を高めます。
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クランクシャフトが回転し、ピストンが交互に上下し、バルブがタイミングよく
開閉し、ロッカーアームやカムが実物同然に動作します。ピストンが上死点に
到達するタイミングで、点火プラグに見立てたLEDが一瞬点灯します。これら
一連の動きを、全て透明樹脂を通して細かく観察することができます。
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2Dの図面ではなく、3DのCGでもなく、モデルとは言え実際に動作し機能を
再現して見せるこのような教材は、多くの学習情報と、理解を促すヒントと、
そして圧倒的な説得力を併せ持っています。技術を生み出し工業を発展させた
英国ならではの、素晴らしいモデルです。同じように技術立国・ものづくり大国と
呼ばれる日本ですが、このレベルの教材は、残念ながら私が知る限り皆無です。
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