昨年末に大きなお仕事が入ってきました。群馬県利根郡片品村に素敵な民宿(シャレーみのり)が
あります。レストラン(みのりの里)が併設されていて体験農園で収穫された野菜を使った極上の
メニューを楽しむことができます。食事に添えられるパンも、業務用ベーカリー(パン焼き窯)を使って
オーナーが自ら焼き上げる逸品です。そのベーカリーが故障し、知人を通して何とかならないかと
連絡をいただきました。メーカーに依頼するも、数十万円もの修理見積もりに大変お困りのようです。
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休業されている冬期間に修理せねばなりません。
高速道が空きそうな三が日に伺うことにしました。
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現地は降雪地帯ですが現時点で積雪はありません。
今のうちならばノーマルタイヤで出かけられます。
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いったん積もってしまうと出かけられず、雪解けまで
待っていると春の営業再開に間に合いません。
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約200kmを走り現地に到着しました。久々に
群馬の山々を眺めながら快適なドライブでした。
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こちらがレストランみのりの里です。実は
かなり以前に一度訪れたことがあります。
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お洒落な看板を見ると、食事が
美味しかったことを思い出しました。
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厨房内に案内され故障中のベーカリーとご対面します。株式会社マルゼン製MBHO-T21
ホイロ付きデッキオーブンです。間口1350mm、5.8kw、新品では150万円以上もします。
ご依頼主様が送って下さった写真で大体理解していましたが、やはり業務用は大きく圧巻です。
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製造販売元の株式会社マルゼンのWEBです。国内に
3か所の工場と10か所もの営業拠点があります。
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MBHO-T21は既に製造を終了しています。ご依頼
主様は開業以来16年間使い続けてきたそうです。
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故障の状況は、操作しても温度が上がらずパンが焼き
上がらないそうです。電熱線の損傷が疑われます。
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手前ドアを開けて内部を点検します。窯内は耐火性セメント
ボードで覆われています。300度C前後に達するはずです。
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窯内右側面に熱電対プルーブが出ていたので、
本体右側に電力・制御系が収められているはずです。
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ネジを緩めて側面パネルを外します。
冷却ファンが取り付けられています。
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電力系統の配線が現れました。左側は温度を精密に
調整するための半導体スイッチングデバイスでしょう。
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3相200V仕様です。電力配線が
赤・白・青に色分けされています。
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上部セメントボードを支えているフレームを
外します。窯内からアクセス可能です。
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詳しくは分かりませんが、かつての
アスベストに代わる材料なのでしょう。
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フレームを下げることでセメント
ボードを取り出すことができます。
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作業の邪魔になるのでフレームも取り外して
おきます。中ほどでフックに掛かっています。
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セメントボードが取り出されると、その上に上面加熱用電熱線が
現れます。業務用のコイルフィンヒータが並んでいます、壮観です。
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ヒータユニットの右端に配線が集中しています。
本体右側の電力供給部に引き込まれています。
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コイルフィンヒータが何本も内部断線する可能性は
低いはず・・と考えている時、問題を見つけました。
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コイルフィンヒータ右端子から出る配線が切れて
います。焼き切れたように乱れた切断状態です。
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スパーク(火花)が飛んで
切れた痕が分かります。
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手前ドアが付いたままでは頭や肩が
つかえて手が十分に入りません。
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ドアを取り外すことにします。しかし、
組み付けがよく分かりません。
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回転軸となる金属シャフトが、両端で
6角ネジにより固定されています。
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本体右手前の制御ボックスが
干渉します。取り外します。
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さらに、制御ボックスを固定する
アングル材も干渉しています。
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ボックス内の制御系統への
配線(コネクタ)を抜きます。
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一部の配線はコネクタではなく
ネジ止めされています。
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ボックス下部に電源制御用の
配線が接続されています。
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完全にドアを取り外すことはできません。ですが、この程度に
横にずらすことができれば内部に十分アクセス可能です。
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後になり、ドアを外さずともヒータユニットをメンテする方法に
気づきましたが、この時点ではそれどころではありません。
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あらためて近くから
断線個所を確認します。
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試行錯誤の果て、ヒータユニットを天井に
固定している3本のネジを見つけました。
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構造がよく分からないままですが
外せるネジは外してみます。
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一挙に構造が判明しました。左右フレームの奥半分は
レールになっており、ヒータユニット後辺がスライドします。
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ヒータユニットを前傾させることができるので
これで何とか断線個所に手が届きます。
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電熱線への配線を調べると図の×部分で断線しています。
が、3相のいずれに接続されていたのか分かりません。
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窯内の温度分布を考慮した配線パターンと、
切れた電線の長さから接続先を割り出しました。
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断線は配線の途中ではなく、ヒータユニットとの接続
部分で生じています。ヒータ端金具の腐食が原因です。
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配線金具をヒータ端にネジ止めすることで接続されていますが、
金具が徐々に欠損し最後は一挙に焼き切れたのでしょう。
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ご依頼主様が最後に「バチッ」という音を聞いています。
まずいことに補修用配線金具の持ち合わせがありません。
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太めの針金をいただいて短く切り、一方を電線に巻き付けて強くかしめ、他方はネジ止め用に
リング形に加工しました。次に焼損しそうな端子がありますが、もうひとシーズン持たせます。
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写真に記録しておいた分解手順を
基に、大急ぎで組み立てます。
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既に5時間以上作業してきました。
ブレーカを上げて通電します。
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コネクタの差し違いなど数回エラーに見舞われましたが、制御
パネルのエラーコード表示に救われました。電源が入りました!
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ご依頼主様が手を叩いて喜んでおられます。放射
温度計で測定すると、みるみる温度が上昇してきます。
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数分で天井表面が200度Cを超えたことを
確認し、修理を終えることにしました。
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回路計による点検では、電熱線自体は全て正常です。接続用金属端子の耐腐食性が
アキレス腱とは何とも意外でした。完全な補修にはコイルフィンヒータごとの交換が必要です。
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午後9時を過ぎ作業を終えて外に出ると、大接近した三日月と金星が夜空に。
到着した午後2時頃、泥っていたレストラン前の道が、この時間はすっかり凍り
付いています。後日、パンがおいしく焼けたとの連絡をいただき安堵致しました。
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