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大浴場引き戸の修理(2017.6.11・12)

トイレ引き戸の修理に続いて施設内の大浴場に移動します。
温泉旅館などの宿泊施設にあろうかと思われる大型の引き戸に
トラブルが生じています。その大きさに腰が引ける思いがします。

 

大浴場入口の大型引き戸が正常に開閉しないそうです。重量のある引き戸なので、
開閉補助装置によるアシストが加わり、軽い力で開き自動的に元に戻り閉まります。
元に戻る際、制動が効いてゆっくり閉まるはずが、加速しながら勢いよく閉まります。

 

浴室側から見ています。ラッチにより全開位置で開け
放しにできます。軽く引くとラッチが外れ閉まり始めます。



この辺りで制動が効いて減速するはずですが、
勢いが衰えず大きな衝撃とともに閉まるのです。

 

引き戸上部の外フレーム内部に、引き戸を自動的に
戻す(閉じる)ワイヤーが仕組まれています。

 

上部外フレームのカバーを取り外しました。
開閉機構の全貌を確認することができます。

 

引き戸の吊りレールに何やら説明書きが貼り付けられて
います。取り付け時、点検時の作業要領が示されています。

 

この説明書のおかげで制動機構の構造や
調整法、さらに不具合の原因が分かります。

 

この平たい金属ケースの部品が制動装置(ダンパー)です。
正しく機能していないため、引き戸が勢いよく閉まります。

 

ダンパーに付いている厚みのある樹脂製ギヤが
レール上のラックギヤと噛み合い回転します。

 

ギヤは回転方向により大きく抵抗が変化します。右回転
(開く方向)で軽く、左回転(閉じる方向)で重くなります。

 

「NEW*STAR」の商標は「日本ドアーチェック製造
株式会社
」のものです。「引き戸クローザ6型浴室用」です。

 

制動が効かない原因が分かりました。樹脂製ギヤにクラックが入り・・、完全に割れています。
力が加わるとクラックが広がり、ラックギヤとの噛み合いが外れてダンパーが作動できません。

 

樹脂製ギヤを補修部品と交換すれば解決します。しかし、
調べてみるとダンパーとアッシーで3万円近くもします。

 

ダンパーは正常に機能しているのでもったいない
修理になります。ギヤだけ交換できれば良いのですが。

 

割れた樹脂製ギヤを再利用する方法も
考えます。取り外して詳細に調べてみます。

 

ギヤの中心部に不思議な形状(外周が丸みを帯びた
六角形)の金属製スリーブが嵌め込まれています。

 

ただのスリーブではありません。形状的に何ら突起等がないにも
かかわらず、引き戸を閉じる回転方向でのみダンパーのシャフトと
ロックします。引き戸が開く方向では空回りするようになっています。

 


修理費用を抑えるためにはギヤを自製するしかありません。
専用の設計ツールで同じ歯数とピッチのギヤを描きます。

 

DXF形式でデータをCADに渡し、スリーブを入れる6角形を
加えます。ガタを防ぐためスリーブ外周の丸みも考慮します。

 

アクリル材で・・強度的に何とか持つだろうと
思います。壊れても再度作り直すまでです。

 

アクリル薄板を数枚貼り合わせることで強度を確保します。
以前に水栓ハンドル内のアダプターを製作した要領です。

 

元のギヤの厚みが18mmなので、5mm厚アクリル
3枚、3mm厚アクリル1枚で同じ厚みになります。

 

18mm厚アクリルのカットは到底無理でも、
この方法でブロック状のパーツを製作可能です。

 

保護紙を剥がし重ね合わせてみます。カット断面の
垂直が曖昧でも複数枚を重ねると相殺されます。

 

5mm+5mm+5mm+3mmで設計通り
厚み18mmのギヤが出来上がります。

 

アクリル専用接着剤(二塩化メチレン)を
使用し、拡散接着により強固に貼り合わせます。

 

中心部の六角穴にスリーブを叩き込み、
歯列が揃った状態で接着剤を流し込みます。

 

アクリル材同士が融着し、全体としてブロック状の部材を
構成しています。そう簡単には壊れそうにありません。

 

元の樹脂製ギヤと比べてみます。ラック側も同様の
樹脂製なので、摩耗の心配もさほどありません。

 

ダンパーのシャフトにセットします。ギヤの上下に
ゴムリング(おそらくオイルシール)が装着されます。

 

スナップリングを入れて脱落防止を図ります。
5mmと3mmから割り出せる厚みで助かりました。

 

一回転方向にのみ抵抗が大きくなる制動機構が、(工房内で)完成を
見ました。これを携えて現場に戻ります、うまくフィットするでしょうか・・

 

ダンパーはネジ2本で固定されているだけ
なので、取り付け作業は簡単なものです。

 

当たり前とは言え、ぴたりと噛み合っています。引き戸が
閉じる際には、しっかり制動が効いて確実に減速します。

 

施設利用者の方々が、急激に閉まる引き戸で危険に晒される心配は
なくなります。また、施設の職員の方々も安心していただけるでしょう。

 

ダンパーの問題は解決しましたが、新たに改善すべき点も出てきました。浴室環境の影響で
可動部分が全体的に劣化しています。酸化物が集積し引き戸の開閉を重くしているようです。
ダンパーが正常に機能するようになると、相対的に制動過多となり、引き戸が完全に戻らなく
なっています。開閉補助機能を調整する機構が備わっているものの、少し調整しただけでは
変化が見られません。軸受や摺動部から酸化物を取り除き、潤滑を復活させる必要があります。

 
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