トイレ引き戸の修理に続いて施設内の大浴場に移動します。
温泉旅館などの宿泊施設にあろうかと思われる大型の引き戸に
トラブルが生じています。その大きさに腰が引ける思いがします。
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大浴場入口の大型引き戸が正常に開閉しないそうです。重量のある引き戸なので、
開閉補助装置によるアシストが加わり、軽い力で開き自動的に元に戻り閉まります。
元に戻る際、制動が効いてゆっくり閉まるはずが、加速しながら勢いよく閉まります。
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浴室側から見ています。ラッチにより全開位置で開け
放しにできます。軽く引くとラッチが外れ閉まり始めます。
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この辺りで制動が効いて減速するはずですが、
勢いが衰えず大きな衝撃とともに閉まるのです。
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引き戸上部の外フレーム内部に、引き戸を自動的に
戻す(閉じる)ワイヤーが仕組まれています。
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上部外フレームのカバーを取り外しました。
開閉機構の全貌を確認することができます。
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引き戸の吊りレールに何やら説明書きが貼り付けられて
います。取り付け時、点検時の作業要領が示されています。
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この説明書のおかげで制動機構の構造や
調整法、さらに不具合の原因が分かります。
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この平たい金属ケースの部品が制動装置(ダンパー)です。
正しく機能していないため、引き戸が勢いよく閉まります。
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ダンパーに付いている厚みのある樹脂製ギヤが
レール上のラックギヤと噛み合い回転します。
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ギヤは回転方向により大きく抵抗が変化します。右回転
(開く方向)で軽く、左回転(閉じる方向)で重くなります。
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「NEW*STAR」の商標は「日本ドアーチェック製造
株式会社」のものです。「引き戸クローザ6型浴室用」です。
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制動が効かない原因が分かりました。樹脂製ギヤにクラックが入り・・、完全に割れています。
力が加わるとクラックが広がり、ラックギヤとの噛み合いが外れてダンパーが作動できません。
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樹脂製ギヤを補修部品と交換すれば解決します。しかし、
調べてみるとダンパーとアッシーで3万円近くもします。
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ダンパーは正常に機能しているのでもったいない
修理になります。ギヤだけ交換できれば良いのですが。
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割れた樹脂製ギヤを再利用する方法も
考えます。取り外して詳細に調べてみます。
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ギヤの中心部に不思議な形状(外周が丸みを帯びた
六角形)の金属製スリーブが嵌め込まれています。
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ただのスリーブではありません。形状的に何ら突起等がないにも
かかわらず、引き戸を閉じる回転方向でのみダンパーのシャフトと
ロックします。引き戸が開く方向では空回りするようになっています。
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修理費用を抑えるためにはギヤを自製するしかありません。
専用の設計ツールで同じ歯数とピッチのギヤを描きます。
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DXF形式でデータをCADに渡し、スリーブを入れる6角形を
加えます。ガタを防ぐためスリーブ外周の丸みも考慮します。
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アクリル材で・・強度的に何とか持つだろうと
思います。壊れても再度作り直すまでです。
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アクリル薄板を数枚貼り合わせることで強度を確保します。
以前に水栓ハンドル内のアダプターを製作した要領です。
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元のギヤの厚みが18mmなので、5mm厚アクリル
3枚、3mm厚アクリル1枚で同じ厚みになります。
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18mm厚アクリルのカットは到底無理でも、
この方法でブロック状のパーツを製作可能です。
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保護紙を剥がし重ね合わせてみます。カット断面の
垂直が曖昧でも複数枚を重ねると相殺されます。
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5mm+5mm+5mm+3mmで設計通り
厚み18mmのギヤが出来上がります。
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アクリル専用接着剤(二塩化メチレン)を
使用し、拡散接着により強固に貼り合わせます。
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中心部の六角穴にスリーブを叩き込み、
歯列が揃った状態で接着剤を流し込みます。
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アクリル材同士が融着し、全体としてブロック状の部材を
構成しています。そう簡単には壊れそうにありません。
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元の樹脂製ギヤと比べてみます。ラック側も同様の
樹脂製なので、摩耗の心配もさほどありません。
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ダンパーのシャフトにセットします。ギヤの上下に
ゴムリング(おそらくオイルシール)が装着されます。
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スナップリングを入れて脱落防止を図ります。
5mmと3mmから割り出せる厚みで助かりました。
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一回転方向にのみ抵抗が大きくなる制動機構が、(工房内で)完成を
見ました。これを携えて現場に戻ります、うまくフィットするでしょうか・・
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ダンパーはネジ2本で固定されているだけ
なので、取り付け作業は簡単なものです。
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当たり前とは言え、ぴたりと噛み合っています。引き戸が
閉じる際には、しっかり制動が効いて確実に減速します。
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施設利用者の方々が、急激に閉まる引き戸で危険に晒される心配は
なくなります。また、施設の職員の方々も安心していただけるでしょう。
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ダンパーの問題は解決しましたが、新たに改善すべき点も出てきました。浴室環境の影響で
可動部分が全体的に劣化しています。酸化物が集積し引き戸の開閉を重くしているようです。
ダンパーが正常に機能するようになると、相対的に制動過多となり、引き戸が完全に戻らなく
なっています。開閉補助機能を調整する機構が備わっているものの、少し調整しただけでは
変化が見られません。軸受や摺動部から酸化物を取り除き、潤滑を復活させる必要があります。
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