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お世話になっている電機製作所より、構内に設備されている電話機の
修理を依頼されました。外線を内線に切り替える際、「保留」ボタンを
使用します。状況からして最も回数多く押されてきたのでしょう。「1回で
切り替わらない」から、「何度か押すと切り替わる」を経て、やがて「強く
押すと切り替わる」、ついに「全く機能しない」と劣化してきたようです。
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不具合を確認してみます。確かに「保留」ボタンを押しても機能しません。
目一杯力を込めて押し込むと、まれに切り替わります。テレビやエアコンの
リモコン、電卓、ミュージックキーボードなどに共通して起こるトラブルです。
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いずれの機器も、基板上に用意された接点とゴムシート面に
形成された導電性膜によるスイッチが用いられています。
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NTT(日本電信電話株式会社)製、マルチビジネス
システムαIXシリーズの12回線用標準電話機です。
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ネット上には製品情報がほとんどありません。NTT東日本の
WEBに、ファームウェアアップデートの案内があります。
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後継機種のものですが、NTT西日本の
WEBにシステムの取扱説明書があります。
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取扱説明書の発行年からすると、20年近く
以前の製品です。懐かしくもISDN対応機です。
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裏カバーを取り外しました。デジタル化黎明期の
回路基板らしく、カスタムICがいくつも並んでいます。
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チップが装填されていない裏側に、押しボタンによる
キーが構成されているはずです。慎重に引き剥がします。
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基盤とほぼ同サイズのゴムシートが重なっています。
押しボタンに対応した突起が成形されています。
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上部1/5ほどのスペースに液晶表示器が
載っています。外側に一時退避させます。
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液晶表示器の位置決めを兼ね、左右に
押しボタンを備えた樹脂フレームです。
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長い年月を経て、押しボタンの隙間から
埃が入り込み汚れています。水洗いします。
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周囲に汚れによるベタつき等があると、ボタンの
操作感が損なわれます。これでほぼ新品状態です。
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「保留」が機能しない問題を解消します。ゴムシート裏側に
形成された導電性膜は、使用するうちに必ず経年劣化します。
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基板上の接点を短絡させる導電性を復活させます。
導電性塗料、導電性インクマーカー等を利用します。
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工房ではカーボン微粒子を含むマーカーを使用しています。基板上に作られた
キーアレイの場合、微小電流でセンシングされるので僅かな導電性で動作します。
できれば銀微粒子を含んだマーカーの方が確実でしょう。ただし、秋月電子あたり
でも結構な値段です。留意点として、ひと塗りでパターンを描くことが重要です。
不用意に塗り重ねると、導電材と母材の樹脂が分離して別個に層を形成し、その
一部が電気的絶縁体と化すことがあります。こうなると剥がしてやり直しです。
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修理のため本体を分解したついでに
長年の汚れを綺麗に落とします。
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中継先切り替えボタンのカバーです。透明
塩ビ板に細かな擦り傷と汚れが付いています。
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樹脂用コンパウンドで磨きます。簡単な作業では
深い傷まで取れませんが、輝きが戻ります。
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先にゴムシートを上側本体の裏にセットします。
正確に位置を合わせて密着させます。
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ゴムシート表面の凹凸が本体の凹凸と
完全に一致し、張り付くように収まります。
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裏カバーを組み付ける前に、受話器を
つなぎ回線に接続して動作を確認します。
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「保留」ボタンだけでなく、「*」、「0」、「#」にも動作不良がありました。
一度完全に組み上げた後、新たに「5」が機能しなくなり、数回にわたり
導電性膜を作り直しました。確かISDNは2020年あたりで運用を停止し
IP網に全面移行する予定では? 社長様、ご確認・ご検討下さいませ。
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