守谷工房のリペアへ                守谷工房Topへ

ビジネスフォンの修理(2017.6.11)

お世話になっている電機製作所より、構内に設備されている電話機の
修理を依頼されました。外線を内線に切り替える際、「保留」ボタンを
使用します。状況からして最も回数多く押されてきたのでしょう。「1回で
切り替わらない」から、「何度か押すと切り替わる」を経て、やがて「強く
押すと切り替わる」、ついに「全く機能しない」と劣化してきたようです。

 

不具合を確認してみます。確かに「保留」ボタンを押しても機能しません。
目一杯力を込めて押し込むと、まれに切り替わります。テレビやエアコンの
リモコン、電卓、ミュージックキーボードなどに共通して起こるトラブルです。

 

いずれの機器も、基板上に用意された接点とゴムシート面に
形成された導電性膜によるスイッチが用いられています。



NTT(日本電信電話株式会社)製、マルチビジネス
システムαIXシリーズの12回線用標準電話機です。

 

ネット上には製品情報がほとんどありません。NTT東日本の
WEBに、ファームウェアアップデートの案内があります。

 

後継機種のものですが、NTT西日本の
WEBにシステムの取扱説明書があります。

 

取扱説明書の発行年からすると、20年近く
以前の製品です。懐かしくもISDN対応機です。

 

裏カバーを取り外しました。デジタル化黎明期の
回路基板らしく、カスタムICがいくつも並んでいます。

 

チップが装填されていない裏側に、押しボタンによる
キーが構成されているはずです。慎重に引き剥がします。

 

基盤とほぼ同サイズのゴムシートが重なっています。
押しボタンに対応した突起が成形されています。

 

上部1/5ほどのスペースに液晶表示器が
載っています。外側に一時退避させます。

 

液晶表示器の位置決めを兼ね、左右に
押しボタンを備えた樹脂フレームです。

 

長い年月を経て、押しボタンの隙間から
埃が入り込み汚れています。水洗いします。

 

周囲に汚れによるベタつき等があると、ボタンの
操作感が損なわれます。これでほぼ新品状態です。

 

「保留」が機能しない問題を解消します。ゴムシート裏側に
形成された導電性膜は、使用するうちに必ず経年劣化します。

 

基板上の接点を短絡させる導電性を復活させます。
導電性塗料、導電性インクマーカー等を利用します。

 

工房ではカーボン微粒子を含むマーカーを使用しています。基板上に作られた
キーアレイの場合、微小電流でセンシングされるので僅かな導電性で動作します。
できれば銀微粒子を含んだマーカーの方が確実でしょう。ただし、秋月電子あたり
でも結構な値段です。留意点として、ひと塗りでパターンを描くことが重要です。
不用意に塗り重ねると、導電材と母材の樹脂が分離して別個に層を形成し、その
一部が電気的絶縁体と化すことがあります。こうなると剥がしてやり直しです。

 

修理のため本体を分解したついでに
長年の汚れを綺麗に落とします。

 

中継先切り替えボタンのカバーです。透明
塩ビ板に細かな擦り傷と汚れが付いています。

 

樹脂用コンパウンドで磨きます。簡単な作業では
深い傷まで取れませんが、輝きが戻ります。

 

先にゴムシートを上側本体の裏にセットします。
正確に位置を合わせて密着させます。

 

ゴムシート表面の凹凸が本体の凹凸と
完全に一致し、張り付くように収まります。

 

裏カバーを組み付ける前に、受話器を
つなぎ回線に接続して動作を確認します。

 

「保留」ボタンだけでなく、「*」、「0」、「#」にも動作不良がありました。
一度完全に組み上げた後、新たに「5」が機能しなくなり、数回にわたり
導電性膜を作り直しました。確かISDNは2020年あたりで運用を停止し
IP網に全面移行する予定では? 社長様、ご確認・ご検討下さいませ。

 
守谷工房のリペアへ                守谷工房Topへ