ご縁あって市内の特別養護老人ホームから衣類乾燥機修理のご依頼を受けました。大勢の
お年寄りの日常生活を支えるため、施設内には様々な設備・機器が設置されています。
その使用頻度は一般家庭の比ではなく、僅かなメンテナンス不足が大小のトラブルを引き
起こしがちです。洗濯物を効率良く干す作業は、清潔で健康な生活を維持する上で非常に
重要ですが、察するに施設にとって大きな負担を生むものと思います。メーカーのサービスは
「修理不能」、「高額になる」、「買い換えた方が良い」をひたすら繰り返すばかりだそうです。
真に受けていると、どこの施設も維持管理費の工面で大変なご苦労が伴いかねません。
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電源スイッチの反応を確認します。LEDが点灯し
電気回路系は機能しているようです。しかし、
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スタートボタンを押すと、モータ始動と同時に背面から
「キー」という凄まじい音が聞こえ、ほとんど送風されません。
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乾燥機全体が埃にまみれ、部分的に付着した煤で手や
工具が黒く汚れていきます。いったん床に降ろします。
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背面カバーの吸気スリットは綿埃で閉塞寸前です。スリットを
通して、両翼ファンとの間隙も綿埃が詰まっているのが見えます。
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背面カバーを取り外します。と同時に内部から綿埃が
次々こぼれ落ちて周囲の床に散らかっていきます。
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モータ周りも綿埃が付着し、煤と混じり合ってひどく
汚れが進行しています。丁寧なクリーニングが必要です。
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送風の通り道に沿って綿埃が集積しています。両翼ファンのフィン1枚1枚の隙間には、
奥底まで綿埃が入り込んでいます。溝を埋め尽くして平板と化している部分もあります。
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両翼ファンの固定用ステーを取り外します。
上下2か所でタッピングネジで固定されています。
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ファンシャフトをステーに固定している4mmナットです。
閉め具合が調整され白ペイントでマークされています。
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ステーを取り外します。ファンプーリーがステーに
隣接しウレタン製のファンベルトが掛けられています。
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両翼ファンを手前方向に抜き取ります。溝の奥底まで入り
込んだ綿埃を徹底的に掻き出し電気クリーナで吸い取ります。
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ファンシャフトが顔を出しました。近くでよく
点検すると、深刻な状況が判明しました。
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シャフトの偏摩耗が極端に進行しています。埃が入り込み
油膜が途切れた状態で、かなり長期間酷使されたようです。
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一般的な使用ではシャフトではなく、こちらの軸受側を
先に摩耗させ、定期的に交換するよう設計されています。
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ファンシャフトはベルマウスと一体部品のため、
交換作業が厄介かつ芯出しが容易ではありません。
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ファンシャフトの偏摩耗が段付き状態にまで進行して
いるので、単に軸受の交換では問題が解決しません。
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まず、軸受内部の摩耗を取り除き内径を均一に
します。→12mm径→15mm径と内径を拡げます。
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15mmドリルビットの持ち合わせがないので
レース盤に穴繰りバイトを取り付けて削ります。
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積極的に摩耗するよう設計されているため、軟らかい
金属(焼結カーボン?)が使用されています。
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非力なミニ旋盤でも簡単に切削出来ました。
内部を掃除し切り屑を綺麗に除去します。
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ファンシャフト側に15mmのスリーブを被せて
段付き偏摩耗を見かけ上解消する作戦です。
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ファンシャフトをこれ以上摩耗されるわけには
いかないので、15mm径のアルミ棒を使います。
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アルミ製のスリーブを摩耗させ、再度ガタが
出てきたらこの(安価な)部品を交換します。
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外径15mmの素材なので、ファン
シャフトが通る穴のみを加工します。
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軸固定センターを押し当てて
穴の中心を正確に出します。
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偏摩耗したファンシャフトの最大外径、つまり
アルミスリーブの最小内径は8mmです。
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センターを正確に合わせて、8mm径
ドリルビットで穴を開けます。
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アルミ素材なのでハイスドリルで
簡単に穴が切削されていきます。
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レース盤のチャックが噛む分を見込んで、材料を長めに
取ります。穴を開けてから必要な長さに切り落とします。
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高速切断機で必要な長さに切り落とします。
端面の垂直が出るようバイスを調整します。
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ちょうど切断箇所のところまで
穴が貫通していました。
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ほぼ端面の垂直が出ていますがバリも威勢良く
出ています。高温なのでペンチで保持しています。
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再度レース盤に取り付け、
端面のバリを取り除きます。
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念のため端面全体を軽く切削して、確実に垂直を
出しておきます。両翼ファンのフラッターを防ぎます。
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周のエッジにサンドペーパーを当て
薄く残るバリを取り、軽く面取りします。
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シャフト全体を覆うアルミ製のスリーブが出来ました。
散在する段付き偏摩耗の影響を解消します。
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軸受に入れてみます。内径15mm強の穴に
15.0mm径のスリーブが隙間なく入ります。
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軸受長よりも僅かに短いのは、ワッシャを
収めるオフセットを考慮しているからです。
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あらためてファンシャフトを確認します。根元の周囲、ほぼ中間部、先端部の3か所に元の
シャフト径(8mm)が残っています。スリーブが3か所全体を覆うことで回転を安定させます。
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ファンシャフトにスリーブと共に軸受を入れてみます。
設計精度には及びませんが著しくガタが解消しています。
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ファンシャフト周りにグリスを塗布します。シャフトの
段付き部がグリス溜まりになることを期待します。
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スリーブの外周にもグリスを塗布します。
スリーブの外周・内周どちらでも回転可能です。
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軸受を組み合わせ、清掃の完了した
両翼ファンを元通りに取り付けます。
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取りあえずこの状態で手で回してみました。非常に滑らかに
静かに回転します。外周部の振れもほとんどありません。
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ウレタンベルトを掛けます。筐体内部や
モータ周りも既に清掃を終えています。
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ステーを取り付け電源を入れてみます。
元の性能がほぼ復活したようです。
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回転し始める時に相変わらず「キー」という
音が出ます。汚れたウレタンベルトが原因です。
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ラバークリーナを使って清掃します。
黒い汚れ(煤の付着)が一挙に落ちます。
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再度モータを回転させて見ると、
「キー」は全く聞こえてきません。
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清掃を終えた背面カバーを組み付けます。
数か所で欠損していたタッピングネジを補います。
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機能の回復に成功したので、汚れの
進んだ本体をリフレッシュします。
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内部の乾燥ドラムも埃だらけです。ガム状に固化
した汚れが内面にいくつもこびり付いています。
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ドアの内側やヒンジ周りなど、突起を含む部分には
ことごとくゴミが入り込みしつこく付着しています。
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ドラム内の温風循環部のエアフィルタです。
完全に目詰まりして温風をブロックしています。
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このフィルタが詰まると、乾燥埃を含む温風が筐体の
内部全体を循環し、埃を供給し続けることになります。
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使用説明書を確認したわけではありませんが、乾燥機
使用の都度清掃するよう指示されていると思います。
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ドラム内雰囲気の排気部も綿埃で目詰まりしています。
手前のメッシュフィルタを取り外して清掃します。
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ステンレス製ドラムの表面にも褐色の汚れが
見られます。家庭用洗剤で拭き取ります。
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衣類出し入れ用のドアです。透明アクリル板と
耐熱ガラス製の覗き窓が曇り、中が良く見えません。
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曇りの原因は耐熱ガラス表面に生じた鱗状斑点
(腐蝕)です。研磨剤入りのクリーナを使います。
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鱗状斑点が消えるまで研磨を続けます。高い
湿度と温度に晒され腐蝕が進行したようです。
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透明感が戻りました。アクリル板に若干の
擦り傷が残りますがこのくらいにします。
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ドアを密閉するアクリル製の内張りです。
周囲のウェザーストリップが黄変しています。
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取り外して家庭用洗剤にクレンザーを
加えて、束子で汚れをこそぎ落とします。
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汚れが沈着している部分は限度があります。が、
大部分の汚れが落ちて清潔感が出てきました。
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ネジ穴の周囲にも埃がリング状に入り
込んでいます。恐るべき埃の拡散力です。
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ドライバの先で埃を穿り出します。ネジ穴の
内側を清掃するだけで印象が大きく変わります。
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ウェザーストリップを元に戻します。新品に
交換したいところですが費用が嵩みます。
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内張りのアクリル表面にも曇りのような汚れの
ような付着があります。専用クリーナで磨きます。
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光沢が戻りました。耐熱ガラスの鱗状
斑点も除去したので新品に近い状態です。
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ドア内張りを元通りに組み付けます。周囲の突起に
入り込んでいた綿埃も可能な限り清掃しました。
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ドラム内部の温風循環部に取り付けられる
エアフィルター・・・、押し込んでも落ちてきます。
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エアフィルターカバーのソケット部の
拡大です。中の爪が摩耗しています。
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爪が摩耗したため、フィルター取り付け
部の相方(リング)にフックしません。
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アクリル材の小片で
新たに爪を作り付けます。
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元の爪の位置に並べて小片を接着します。実際に使用して
みて、爪の高さを調整する必要があるかも知れません。
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固化した汚れはドライバの先などで丁寧に
こそぎ落とし、全体を家庭用洗剤で拭き上げます。
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清掃にも時間をかけたので、全体に清潔感が漂い新品に
近い印象が戻ってきました。動作も問題ありません。
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梱包して大急ぎで納品に伺います。職員の方の負担が少しでも
低減し、お年寄りの方々の快適な生活に貢献できれば幸いです。
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