SONY製9バンド(短波7+中波+FM)ラジオ修理のご依頼です。手に取った瞬間、
世界を席巻したSONYの栄光が伝わってくるリジッドなクオリティです。昭和最後の
頃の製品で、ご依頼主のご尊父の遺品だそうです。インターネットが張り巡らされる
前の時代、故人が電波を通して世界の情報に耳を傾けられた姿が偲ばれます。
|
高度なインジェクション成型により
緻密で引き締まった外装です。
|
この小型ボディに短波だけで7バンド、中波と
FM(一部TV)の受信機能を備えています。
|
型番はICF-4900。世界のSONYなので
海外仕様も含め数モデルが存在するようです。
|
ここにも型番の刻印があります。ロッド
アンテナがすんなり畳み込まれています。
|
さすがにネット上にも仕様は残っていません。
辛うじて英語版のマニュアルがこちらにありました。
|
有難いことに全回路図もこちらにありました。昔の
製品は回路図が添付・公開されていたものです。
|
短波の受信バンド切り替え用スライドスイッチです。
大きくも小さくもなく機能に徹したデザインです。
|
スライドスイッチは手前正面の周波数表示部に
連続しており、非常に分かりやすく使い易いです。
|
周波数表示部を拡大します。7列の短波周波数に
続き、中波とFMの周波数が刻まれています。
|
不具合の一つは、音量調整が効かなくなっていること
です。常に最小音量の(何も聞こえない)状態です。
|
もう一つは、電源ONを兼ねたSW(短波)の選択スイッチ、
さらに電源OFFのスイッチがうまく機能しないことです。
|
いずれも内部に原因があるので、
乾電池を抜き分解作業に入ります。
|
本体を固定しているネジは
「↓」マークで示されています。
|
小型の製品とはいえ、たった
2本のネジで固定されています。
|
背面側のケースが開いてきました。
2本以外にネジはないはずですが・・
|
途中までケースが開いたところで、奥の部分が
ヒンジのような状態となって分離してきません。
|
よく見ると嚙み合わせ部分に
少量の接着剤が使われています。
|
接着剤をカッターナイフで切り離し、無事にケースを分離することができました。
昭和の頃のディスクリート部品を多用・詰め込んだ懐かしいプリント基板です。
|
内部の回路基板を前面側と背面側のケースがサンド
イッチにしている構造です。さらに分解を進めます。
|
回路基板を前面側ケースに固定
するネジが数本打たれています。
|
こちらはロッドアンテナを
固定しているネジです。
|
緩めるとロッドアンテナを
引き抜くことができます。
|
取り外したロッドアンテナの下に可変抵抗器(ボリューム)が見えてきました。音量の
調節ができないのはこの部品の不良が原因です。しかし、補修部品はもはや存在
しないでしょう。ネットを検索するとこのボリューム修理の報告がいくつか見られます。
|
ボリュームの調節ツマミを引き抜きます。
前面側ケース側面の穴を通っています。
|
中央部にもう1本、回路基板を
固定しているネジがありました。
|
内部の回路基板が浮き上がってきました。
チューニング位置の表示機構が実に巧妙です。
|
途中まで浮き上がったところで前面側ケースに
シールド接続されている配線を見つけました。
|
可変抵抗器(ボリューム)が完全に露出したところで接点の回復を試みます。
部品を分解修理している例もありますが、かなりリスクが大きいので避けます。
|
外部から潤滑剤を吹き付け、僅かな隙間
から摺動部に浸潤・到達するのを待ちます。
|
ツマミをゆっくりと左右に回転させ、リン青銅板製摺動子の
先端から酸化物が剥がれ落ちるまで何度も繰り返します。
|
切り替えスイッチには、薄型のタクトスイッチが
使われています。これも入手困難な部品です。
|
薄いプラスチック製カバーを取り外し潤滑剤を
吹き付けます。が、十分に回復してきません。
|
内部の銅合金製接点部品を取り出します。
径3mmほどのとても小さな部品です。
|
中央部が凸面に加工されており、
外周に沿って軽くふち折りされています。
|
長年の使用で塑性変形して平板と化し、
クリック感が失われたのでしょう。
|
柔らかい台の上に置いて、先の
丸い道具で内側を押し出します。
|
いくらかは元に戻ったかと思います。さらに内部の
電極を研磨して導通性を復活させておきます。
|
切り替えスイッチが正常に機能するようになりました。クリック感は今一つですが
使用上問題はありません。ボリュームも雑音が徐々に消えてほぼ復活しました。
|
不具合の修理を終えたところで、
本体ケースをクリーニングします。
|
周波数表示部のアクリル製
窓に傷や汚れが目立ちます。
|
樹脂用コンパウンドを付けて丁寧に研磨します。
溝部分にコンパウンドが入らないよう注意します。
|
光沢が戻ると一段と質感が高まります。少し剝がれて
いますが、左下のシールが往時を物語っています。
|
ネットやモバイルが普及した今日でも、停電時や災害時にはポータブルラジオが
頼りになります。ご尊父が愛用されたラジオを長く大切になさって下さい。
|
|
|