
ダブルラジカセと一緒に持ち込まれた、もう1台のカセットプレーヤーです。手にした瞬間
「ウォークマン?」と声が出るSONYの製品です。このTCM-50は1999年、ウォークマン
20周年を迎えた年に発売されていますが、ウォークマンシリーズはポータブルオーディオ
として別カテゴリーで展開されており、こちらは「簡易テープレコーダ」の扱いです。
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SONY簡易テープレコーダのシリーズも、2005年発売の
TCM-IC100が最後のモデルとなり、既に生産を終えています。
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20年近く過去の製品とはいえ、オートリバース機構に
よるA・B両面再生や各種録音補助機能を備えています。
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シリーズの中古製品は現在でもまだ流通しています。
信じられないことにAmazonで新品が販売されています。
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能書きを垂れてないで点検に入ります。
テープを保持するカバーが上に開きます。
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テープの位置決めピンとキャプスタンが
並びます。小型のローラーも見えます
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カセットテープを入れて
実際に再生してみます。
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ご依頼者がおっしゃっていたように全く
動作しません。バッテリーは新品です。
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原因を突き止めるため本体を分解します。
まず裏側カバーを固定しているネジを緩めます。
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バッテリーボックスカバーを少し
ずらすと最後の1本が隠れています。
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裏側カバーが開き、SONYらしさの
漂う回路基板が出現しました。
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以前に短波ラジオを修理した時に味わったのと
同じ雰囲気です。フィルム配線を引き抜きます。
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表側のカバーを取り外します。テープ保持カバーを
開けた内側から3本の小ねじで固定されています。
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テープ駆動メカと一体になった回路基板を
引き出します。SONYの実装そのものです。
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先に引き抜いたフィルム配線は表側カバーに
付いているマイクやLEDへの配線です。
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駆動メカが露出したところで、電源を
接続して直接動作を確認します。
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駆動部の動力源となる極薄型の
DCモーターは問題なく回転します。
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しかし、2個のフライホイールは回転しません。
基板下の動力伝達系に問題がありそうです。
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2本の小ねじを緩めることで、
簡単に回路基板が外れてきます。
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うっかりもう1枚のフィルム配線を
忘れていました。これも引き抜きます。
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DCモーターから2個のフライホイールに
かかるベルトが明らかに緩んでいます。
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長い年月を経て伸び切っています。また材質の固化が進行し弾力が
低下しています。これでは動力が伝達されません。原則的に交換です。
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テープの巻き取りリールを駆動するプーリ
です。回転させてみると重い感じがあります。
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他方のプーリも点検します。やはり
抵抗が生じて重くなっています。
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回転軸の周囲に潤滑剤を補います。ノズル
から直接吹きかけると周囲に飛び散るので、
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ピンセットの隙間に少量を保持
させて軸の根元に差し込みます。
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補修用のベルトは、運良く
工房にストックがありました。
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フライホイールの内側にプーリ溝があります。
DCモーターと3点間にベルトをかけます。
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ベルトが新しいので少しきつめですが、スリップする
ことなく、2個のフライホールを静かに回転させます。
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テープカウンターを駆動する
極細ベルトも緩んでいます。
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補修部品の入手が難しそうなので
長さを切り詰めることで対処します。
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いったん回路基板を合体させます。磁気ヘッドのトラックを
切り替えるスライドスイッチ、正確に位置を合わせます。
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録音ボタンが押されると金具がスライドして
スイッチを切り替えます。正確に溝に合わせます。
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この状態で電源を接続して動作を確認します。
問題が解決しました、音声が正常に再生されます。
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注意深く再生音を聞いていると、コッコッという機械音が
します。片側のキャプスタンが固定されていません。
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根元に嵌まるストッパーワッシャが脱落しており
キャプスタンが落ちます。この繰り返しが音の原因です。
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根元に切られた溝に樹脂製ワッシャが入るのですが、
代替方法として細いステンレス線を利用します。
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ステンレス線をキャプスタン根元の
溝に嵌まるように1周巻き付けます。
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両端をラジオペンチで撚り合わせ
溝に嵌まって抜けないようにします。
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ギリギリのところで
余分を切り落とします。
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これでキャプスタン軸およびフライホイールの
上下移動を防ぐことができるでしょう。
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組み立て前に本体をリフレッシュします。
全体的に塗装やメッキがくすんで冴えません。
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樹脂用のコンパウンドを少量付けて拭き
上げます。強く磨くと印刷文字が消えます。
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軽く拭き上げただけでくすみが
取れてすっきりした印象です。
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側面や裏側カバーも
同様に清掃します。
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清掃した表側・裏側の両カバーと、
修理を終えた内部の機器です。
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一体の駆動メカ・回路基板を元通り表側カバーに組み込み
ます。先にマイク・イヤホンジャックの突起部を通します。
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ジャック側が正確に収められると
反対側も簡単に収まります。
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テープ保持カバーを開いて、内側
から小ねじ3本で固定します。
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フィルム配線を戻します。途中を折らないよう
根元の補強部分に力を入れて押し込みます。
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念のためここでも動作テストを行います。ケース内に
収まってから不具合が起こることがよくあります。
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問題ないので最後に裏側カバーを取り
付けます。手提げ用ストラップも入れます。
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小ねじを締め付けて作業完了です。
今回もSONYの世界を堪能しました。
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不具合が解消し本来の機能を取り戻しました。のみならず全体がリフレッシュして
SONYクオリティが蘇っています。ページ先頭の写真と是非比べてみて下さい。
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発売当時、既にCDウォークマンが普及し、その後半導体による音楽プレーヤー、現在は
ハイレゾ音源を携帯できる時代です。しかし、コンビニや100円ショップから、未だにカセット
テープは姿を消していません。生活を一変させる技術と、変えようのない文化があります。
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