立派な掛け時計の修理に挑みます。重厚に縁取られた文字盤と、
ガラス窓に収められた振り子室から成る、伝統的な木製2ピース
構造をしています。振り子が途中で止まってしまうそうです。
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1.状態の確認 |
丁寧に木枠組みされたガラス窓を開けると、装飾の
施された振り子と、奥に時報用の音叉が見えます。
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文字盤を覆うガラス円窓を開けてみます。
装飾的にデザインされた明朝体の数字です。
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盤面左右にゼンマイの巻き上げ軸が2本見えて
います。機械式ゼンマイ・振り子時計かと思いきや・・
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俯せにして背面を確認します。樹脂製(?)のカバーが
あり、その下のシールにリズム時計工業とあります。
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カバーを開けて見ると、中にはクォーツ式ムーブメントが何とも退屈そうに
納まっています。旧式デザインを踏襲した電子式クォーツ時計です。
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振り子駆動や音叉による時報機能を併せ持った特殊な
ムーブメントで、UM-1乾電池を1個使用します。
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乾電池をセットして動作を確認します。クォーツ発振で
駆動される小さなマグネットローターが動いています。
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振り子が振れ始めましたが何となく元気があり
ません。しばらくすると確かに止まってしまいます。
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毎時・毎30分時に指針を合わせてみるも、
時報が鳴りません(時報系機構が動作しない)。
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2.ムーブメント取り出し |
ムーブメントを取り出すには、先に文字盤側から
指針を取り外しておかなければなりません。
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固定ネジに続いて、長針と
短針を丁寧に抜き取ります。
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背面側からドライバーを入れて、予め
ムーブメントの固定ネジを緩めておきます。
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ムーブメントから配線されている時報
ON・OFF用スイッチも取り外します。
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ムーブメントから突き出た軸の根元は、
留めネジ(ブッシュ)で固定されています。
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文字盤面に傷を付けないよう慎重に作業
します。ムーブメントが抜けていきました。
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ムーブメントを取り出します。奥にある
音叉ハンマーを駆動するリンクも外します。
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横幅100mm前後もある
大型のムーブメントです。
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3.ムーブメントの動作点検 |
取り出したムーブメントに再度乾電池を
セットして、動作を詳しく調べます。
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振り子を吊り下げていない状態で
アームは軽快に振れています。
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時報ON・OFFスイッチの端子間で電圧を確認します。
スイッチOFFでは乾電池の電圧約1.5Vが出ています。
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ON(導通)にすると電圧は出ないはず
ですが、僅かにメーターが振れています。
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スライドスイッチに接点の劣化があるようです。
念のため潤滑剤を吹いて復活させておきます。
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ムーブメント本体を分離させます。
周囲4か所で爪が嚙み合っています。
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時報ON・OFFスイッチへの配線をくぐらせ
ながら、本体背面側をゆっくり引き上げます。
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本体背面側はカバーだったようです。コイル・マグネットローター周りのパーツと
時報系機構の駆動スイッチが実装され、その下にもう1枚プレートが見えます。
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駆動スイッチをON・OFFする突起は
プレート下のレバーから出ています。
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ピンセットで駆動スイッチを強制的にONにします。
が、モーターは始動せず時報系機構が動きません。
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モーター軸のピニオンを突いて
みると、にわかに回り出しました。
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スイッチの接点が劣化している可能性があり
ます。ペーパーを入れて軽く研磨します。
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4.音叉駆動モーターの不具合 |
モーターの状態も疑わしいところ
です。取り外して点検します。
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モーターの端子は基板に直接半田
付けされているので吸い取ります。
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手前の押さえを広げながら
少しずつ持ち上げます。
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取り出してみると綺麗なままです。
極性を間違えないよう「UP」と記しました。
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指先でピニオンを回転させてみると・・
小型3極モーターにしては固いです。
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分解すると調子を損なう可能性が
あるので、隙間から潤滑剤を入れます。
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グリスが固着したか錆が生じていたのか、
潤滑剤により非常に軽く回るようになりました。
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ウォームギヤと次段の平歯車が空転しています。
カバー側に突起が成形されており、軸を押さえています。
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この突起か軸受側の溝が微妙に
摩耗しているのかも知れません。
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摩耗分の補修は厄介なので、せめて
プラ用グリスを多めに入れておきます。
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5.振り子駆動コイルのトラブル |
ここまでの作業では、まだ振り子が停止する原因に辿り着いていません。
振り子取り付け部の付け根にある白い樹脂製パーツを点検していると・・
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本体底に潜り込んでいる基板下部を点検する
には、やはり内部プレートを外さねばなりません。
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白い樹脂製パーツは極細のエナメル線を2組
巻きつけたコイルで、4本のリードが出ています。
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各コイルの片側リードを共通とし、計3本となって基板に
配線されています。そのうち単独の1本が切れています。
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2組のコイルは振り子位置の検出用と、マグネットに作用
する駆動用でしょう。状況からして前者が断線しています。
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断線箇所がコイルの根元ではなく、多少長さを残していたのが幸いです。リードの端に細い
銅線(径0.2mm弱VVFケーブルの心線)を継ぎ足します。リード径はその1/3以下です。
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銅線の他方を基板のランドに半田付けします。
コイルのリードが折れて切れないか緊張します。
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他のリードもほぼ空中配線です。周囲に瞬間
接着剤を流し込んで配線ごと固定します。
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6.回路基板の損傷 |
バッテリーホルダーに延びている基板の端に深刻な腐食が
あります。かつて乾電池の液漏れに曝されたのでしょう。
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反対の+側金具からの配線も
いつの間にか断線しています。
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基板の端部分は復旧不能です。バッテリーホルダーから
別系統で配線します。心臓の冠動脈バイパス手術です。
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別系統配線を上手く収納しながら
内部プレートを元に戻します。
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マグネットローター周りのパーツを元に戻して、本体背面側と合体させ
ます。バッテリーホルダ内に配線が露出しますが許容範囲内とします。
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7.本体クリーニング作業 |
機構的な問題は何とか解決しました。
折角ですから外装をリフレッシュします。
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文字盤表面のうっすらした汚れを拭き
取り、ガラス丸窓も磨き上げます。
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ガラス丸窓の真鍮製窓枠です。長い年月を
経て光沢を失い、表面が荒れ始めています。
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金属研磨用ケミカルを使い丹念に研磨します。
強固な酸化膜を落とすのは容易ではありません。
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完全にひと皮剥けて、ブラスの
眩い光沢が復活しました。
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一部深く入り込んだ傷は除去できませんが
ほぼ全体が鏡面状態を取り戻しています。
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自動車用のクリアスプレーを吹き付けておきます。
汚れの付着を防ぎ、真鍮材表面の酸化を抑制します。
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振り子収納部のガラス窓も、内外
から汚れを丁寧に拭き取ります。
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汚れでくすんでいたガラス窓が
透明感と輝きを取り戻しました。
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本体外装は天然木が美しく加工された工芸品のような
風合いです。劣化の進んだ塗装面をワックス処理します。
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乾燥を待ってワックスを2重掛けします。
落ち着いた光沢が戻ってきました。
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左右の前面稜線に沿って塗装の
剝げ落ちた跡が見られます。
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フローリングのスクラッチ修復用の
タッチアップペンを利用します。
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うまく近似色を選ぶことで、傷はほとんど目立たなくなります。
タッチアップはワックスに溶けるので、ワックス処理の後で作業します。
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8.組み立て~修理完了 |
ムーブメントを本体内に戻します。時報ON・OFF
スイッチへ配線し、音叉駆動用リンクを取り付けます。
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ほぼ新品状態に再生した
ガラス丸窓を元に戻します。
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文字盤の右側に蝶番を
しっかりねじ止めします。
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留めネジ(ブッシュ)をねじ込んで
ムーブメントの軸を固定します。
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短針・長針の順に取り付けて
最後に固定ネジを締め込みます。
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時報との関係で指針の位置を決まます。
しかし、軸に切り欠きがあるので簡単です。
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毛細血管のようなコイルの接続やバイパス手術など
外科のような治療を経て掛け時計が復活しました。
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振り子が元気に往復しています。ひと晩
様子を見ましたが停止することはありません。
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金属部分の輝きと落ち着いた風合いの木部が
伝統的な掛け時計の懐かしさを伝えてくれます。
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クォーツ式ムーブメントが、機械式とは比較にならない正確な時を
刻みます。本格的な音叉から重厚な時報が聞こえてきました。
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