家庭園芸用ハンドトリマーを修理します。ご依頼主様は守谷工房での
修理を希望され、九州にあるご実家からわざわざ持ってきて下さいました。
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バリカン状の6枚刃上下2組のうち、一方が高速で左右往復運動し、芝生の刈り込み
などに使用されます。電源(AC100V)に接続しスイッチを入れると、モーター音は
しますが、つまりモーターは問題なく回転していますが、バリカンが全く作動しません。
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ホームセンターで安価に販売されているのを
よく見かけます。製造元は知りませんでした。
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底面のカバー表面に製品型番が刻印されています。
アイデック社製「ミニバリカンワイド刃AMB-H16A」。
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アイデック社のWEBページを確認してみます。
「緑化農業園芸機器」を取り扱う会社です。
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製品の紹介ページを見ると、アイデアに富んだ製品が
色々と並んでいます。トリマーの扱いはないような・・。
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ロックを解除し底カバーをスライドさせて
外します。金属製のプレートが見えます。
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プレートは4本のネジで固定されています。
バリカンの激しい運動に対応するのでしょう。
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本体内部のモーターから伝達される回転運動を、
プレート内の機構で左右往復運動に変換します。
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泥汚れ等により上下バリカン刃が固着して
いると考えましたが、そうではないようです。
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本体カバーを外してみます。内部の装置を
左右から挟み込むように合体しています。。
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100V整流子モーターから、ピニオンも含め4枚のギヤで
減速されています。最終段は黒色樹脂製の大ギヤです。
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その大ギヤの歯の一部が損傷しています。2枚が完全に欠損し、その前後に
ある2枚は歯先がかなり変形しています。手前の同軸ヘリカル(はすば)ギヤが
空転するため、以後に回転運動が伝達されません。これが故障の原因です。
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部品を交換する必要があります。販売会社の
WEBから補修部品の有無を問い合わせます。
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回答は、10年以上前の製品で製品本体も
補修部品も既に無いとのこと。まぁそうでしょう。
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手に入らない部品は自製するしかありません。アクリル板の
積層成形を試します。まず、大ギヤの形状を精密に測定。
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ピッチ円60mm、歯数58のところ60(1枚当たり6度)に
します。問題はこのヘリカルギヤに対応させることです。
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1枚目は中心が径5.8mmの円、最後は中に
6角形が空いた外径38mmのリングです。
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元の大ギヤの厚みが12mmなので、2mm厚アクリル板を
計6枚重ねます。中の6角形を1.2度ずつ回転させると、
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中の6角形を一致させた状態で6枚を重ねると6度(1.2度×5)、つまり上下で
歯1枚分が捻じれることになります。1段ごとに段差が残りますが、疑似的に
ヘリカルギヤが再現できれば十分です。使用条件的に、アクリル材の強度が十分か
否かは分かりません。破損してしまったらCADデータから再度製作するまでです。
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CADデータ(DXF)を基に、レーザー
カッターでアクリル板を切り抜きます。
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切断加工された大ギヤ部品です。中に抜かれた
6角形は、基準となる頂点にマークしておきます。
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マークされた頂点を揃えながら、プレート側の
六角ナットに部品を嵌め込んでいきます。
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1枚ごとに1.2度ずつ回転させているので、
歯先が上から下にかけ斜めに並んでいます。
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歯の谷間部分にマイナスドライバーの先などを
入れ、出来るだけ直線に並ぶよう修正します。
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薄いアクリル板にそれなりの強度が期待出来る
のは、接着剤で積層間を強固に接合するからです。
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全ての積層間に接着剤を流し込みます。
アクリル板からアクリルブロックに変貌します。
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垂直方向に向きを変え、
さらに接着剤を追加します。
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中心が径5.8mm穴の1枚を、一番上に重ねます。
歯先の位置を下からの傾斜方向に合わせます。
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3Dプリンターで製作する方法も検討しましたが、
成形精度とPLA樹脂の材料強度に不安があります。
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最下面のリングを取り付けます。本体カバーに
挟み込まれ、スペーサーのように機能します。
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取り付け位置を正確に出すため、予め
プレート側の6角ナットに通しておきます。
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その上から既に出来上がっている
部分を重ね、接着剤を入れます。
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元の大ギヤと同等に構成された
補修部品が出来上がりました。
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最後に調整として、歯先に残る段差を可能な限り小さくしておきます。
細いヤスリを入れて段差を切削します。本来歯面は連続した曲面です。
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1段手前のヘリカルギヤと噛み合わせてみます。何とか歯先が互いに
入り込んでいます。また、シャフトの方向もほぼ平行が保たれています。
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本体に組み込んでみます。ここで
グリスを十分に塗り付けます。
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ピッチ円まで正確に一致させることはとても
無理ですが、きつくもなく緩くもないようです。
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本体を組み上げて動作試験を行います。内部から
アクリルの割れる音が聞こえなければ良いのですが・・
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意外とスムーズに回っています。
大ギヤの噛み合いに問題はないようです。
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プレートと共にバリカン刃を元に
戻します。最終動作試験です。
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バリカン刃が力強く往復運動しています。
ギヤの回る音も軽快で調子が良さそうです。
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アクリル材はABS樹脂等に比べて硬度が高く、その分柔軟性を欠くので、
石のような硬いものを噛んだ時の耐衝撃性が心配です。一瞬で歯先が
飛んでしまう可能性があります。取りあえずご依頼主様の元に戻して、
しばらく使っていただきます。3Dプリンター版も試してみたいものです。
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