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ハンドトリマー大ギヤのワンオフ製作(2018.3.7)


家庭園芸用ハンドトリマーを修理します。ご依頼主様は守谷工房での
修理を希望され、九州にあるご実家からわざわざ持ってきて下さいました。

 

バリカン状の6枚刃上下2組のうち、一方が高速で左右往復運動し、芝生の刈り込み
などに使用されます。電源(AC100V)に接続しスイッチを入れると、モーター音は
しますが、つまりモーターは問題なく回転していますが、バリカンが全く作動しません。

 

ホームセンターで安価に販売されているのを
よく見かけます。製造元は知りませんでした。

 

底面のカバー表面に製品型番が刻印されています。
アイデック社製「ミニバリカンワイド刃AMB-H16A」。

 

アイデック社のWEBページを確認してみます。
「緑化農業園芸機器」を取り扱う会社です。

 

製品の紹介ページを見ると、アイデアに富んだ製品が
色々と並んでいます。トリマーの扱いはないような・・。

  

ロックを解除し底カバーをスライドさせて
外します。金属製のプレートが見えます。

 

プレートは4本のネジで固定されています。
バリカンの激しい運動に対応するのでしょう。

 

本体内部のモーターから伝達される回転運動を、
プレート内の機構で左右往復運動に変換します。

 

泥汚れ等により上下バリカン刃が固着して
いると考えましたが、そうではないようです。

 

本体カバーを外してみます。内部の装置を
左右から挟み込むように合体しています。。

 

100V整流子モーターから、ピニオンも含め4枚のギヤで
減速されています。最終段は黒色樹脂製の大ギヤです。

 
 
その大ギヤの歯の一部が損傷しています。2枚が完全に欠損し、その前後に
ある2枚は歯先がかなり変形しています。手前の同軸ヘリカル(はすば)ギヤが
空転するため、以後に回転運動が伝達されません。これが故障の原因です。

 

部品を交換する必要があります。販売会社の
WEBから補修部品の有無を問い合わせます。

 

回答は、10年以上前の製品で製品本体も
補修部品も既に無いとのこと。まぁそうでしょう。

 

手に入らない部品は自製するしかありません。アクリル板の
積層成形を試します。まず、大ギヤの形状を精密に測定。

 

ピッチ円60mm、歯数58のところ60(1枚当たり6度)に
します。問題はこのヘリカルギヤに対応させることです。

 

1枚目は中心が径5.8mmの円、最後は中に
6角形が空いた外径38mmのリングです。

 

元の大ギヤの厚みが12mmなので、2mm厚アクリル板を
計6枚重ねます。中の6角形を1.2度ずつ回転させると、

 

中の6角形を一致させた状態で6枚を重ねると6度(1.2度×5)、つまり上下で
歯1枚分が捻じれることになります。1段ごとに段差が残りますが、疑似的に
ヘリカルギヤが再現できれば十分です。使用条件的に、アクリル材の強度が十分か
否かは分かりません。破損してしまったらCADデータから再度製作するまでです。

 

CADデータ(DXF)を基に、レーザー
カッターでアクリル板を切り抜きます。

 

切断加工された大ギヤ部品です。中に抜かれた
6角形は、基準となる頂点にマークしておきます。

 

マークされた頂点を揃えながら、プレート側の
六角ナットに部品を嵌め込んでいきます。

 

1枚ごとに1.2度ずつ回転させているので、
歯先が上から下にかけ斜めに並んでいます。

 

歯の谷間部分にマイナスドライバーの先などを
入れ、出来るだけ直線に並ぶよう修正します。

 

薄いアクリル板にそれなりの強度が期待出来る
のは、接着剤で積層間を強固に接合するからです。

 

全ての積層間に接着剤を流し込みます。
アクリル板からアクリルブロックに変貌します。

 

垂直方向に向きを変え、
さらに接着剤を追加します。

 

中心が径5.8mm穴の1枚を、一番上に重ねます。
歯先の位置を下からの傾斜方向に合わせます。

 

3Dプリンターで製作する方法も検討しましたが、
成形精度とPLA樹脂の材料強度に不安があります。

 

最下面のリングを取り付けます。本体カバーに
挟み込まれ、スペーサーのように機能します。

 

取り付け位置を正確に出すため、予め
プレート側の6角ナットに通しておきます。
 

その上から既に出来上がっている
部分を重ね、接着剤を入れます。

 

元の大ギヤと同等に構成された
補修部品が出来上がりました。

 

最後に調整として、歯先に残る段差を可能な限り小さくしておきます。
細いヤスリを入れて段差を切削します。本来歯面は連続した曲面です。

 

1段手前のヘリカルギヤと噛み合わせてみます。何とか歯先が互いに
入り込んでいます。また、シャフトの方向もほぼ平行が保たれています。

 

本体に組み込んでみます。ここで
グリスを十分に塗り付けます。

 

ピッチ円まで正確に一致させることはとても
無理ですが、きつくもなく緩くもないようです。

 

本体を組み上げて動作試験を行います。内部から
アクリルの割れる音が聞こえなければ良いのですが・・

 

意外とスムーズに回っています。
大ギヤの噛み合いに問題はないようです。

 

プレートと共にバリカン刃を元に
戻します。最終動作試験です。

 

バリカン刃が力強く往復運動しています。
ギヤの回る音も軽快で調子が良さそうです。

 

アクリル材はABS樹脂等に比べて硬度が高く、その分柔軟性を欠くので、
石のような硬いものを噛んだ時の耐衝撃性が心配です。一瞬で歯先が
飛んでしまう可能性があります。取りあえずご依頼主様の元に戻して、
しばらく使っていただきます。3Dプリンター版も試してみたいものです。

 
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