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灯油ファンヒーターの刺激臭(2018.2.16)


灯油ファンヒーター修理のご依頼です。広く普及しているありふれた暖房器具です。
燃焼中の臭いがひどく、使用していると頭痛がしてくるそうです。灯油を燃焼させると
多少なりとも燃焼ガスが臭うものですが、工房に持ち帰り動作テストしてみます。

 

確かに臭います。しばらく燃焼させていると
刺激臭が立ち込め目が痛くなってきます。
 

コロナ社製、GT-D53BY型。1999年製でネット
検索すると灯油タンクのリコールがヒットします。
 

20年近く経過しているので、どこが故障しても不思議は
ありません。オーバーホールの方向で作業にかかります。

 

本体を組み上げている各部の
ネジを順に緩めていきます。

  

右側面を固定しているネジです。高温火気を
扱う器具なので本体は全面的に金属製です。

 

左側側面の固定しているネジを緩めます。
唯一、左右の取っ手は樹脂製です。

 

前面パネルを外します。どうやら左右
2本のネジを緩めるだけで外れたようです。

 

前面パネルとは別に、整流フィンの付いた
グリルが内側に取り付けられています。

 

フィンの隙間から中を覗き見ると、奥に20年分の綿埃が
積もっています。グリルの下に空気圧送ブロアが見えます。

 

固定ネジを緩め、グリルも取り外します。
右側半分は灯油タンクが収まるスペースです。

 
 
燃焼筒が姿を現しました。全面的に錆が広がっていますが、
特に損傷は見受けられません。周囲は埃だらけです。

 

天板を外すにはもう1本このネジを緩める必要が
あります(外さなくてよいことが後で分かります)。

 

天板手前の操作パネルへ、制御基板から
フラットケーブルが接続されています。
 

背面に回り、対流用ファンをパネルごと取り
外します。周囲4本のネジで固定されいます。

 

ファン回転用モーターと室温センサーへの
配線を引き出しながら取り外します。

 

背面側から見る燃焼筒です。高温加熱の
及ばない一部に金属光沢が残っています。

 

燃焼筒を収め、温風(熱風)を導くボックスを外し
ます。本体背面に4本のネジで固定されています。

 
 
先に天板を外してあるので、
取り付け構造がよく分かります。
 
  
混合気(灯油+空気)加熱器手前の気化器と
空気圧送ブロアを接続するゴムパイプを外します。

 

気化器へ延びる銅製燃料パイプを、
電磁燃料ポンプ出口部で抜き取ります。

 

灯油タンクスペースの囲い壁面に
取り付けられている制御基板です。

 

制御基板に接続されている各種のケーブルを
抜き、ボックスごと燃焼筒を取り外します。

 

ボックスを逆さにします。気化器の空気流入口が
飛び出ており、そのままでは床に当たります。

 

フランジの固定ネジを緩めます。ネジは締まって
いるものの、何故か気化器全体がぐらついています。

 

気化器から混合気加熱器内へジェットニードルが延びています。
ぐらついているのは加熱器にねじ込まれるポートの部分です。

 

ボックスを分解します。不完全燃焼を解消
するため、手の届く範囲全てを清掃します。

 

燃焼筒は、ボックスとは別のプレートに
取り付けられ収められています。

 

燃焼筒の上部に、未燃焼ガスの臭いを取り除く円盤形の
触媒(セラミック+酸化鉄)が取り付けられています。

 

その下、穴の開いた金属製円盤は、高温の
燃焼ガスを触媒に集中させる役割でしょうか。
 

燃焼筒を載せるプレートは、断熱材を
挟んだ上下2枚構造で簡単に分離します。

 

上のプレートに燃焼筒、下のプレートに
バーナーが取り付けられています。
 

断熱材があるものの下側プレートも長年高温に
晒され、金属板表面の酸化が進んでいます。

 

バーナー部の分解にかかります。バーナー外側の
リング状ガードを外します。3本のネジで固定されています。

 

バーナー本体が外れてきます。バーナーは
金属メッシュ製アウター・インナーの二重構造です。

 

アウターバーナーの周囲に巻き付けられている金属
メッシュです。網目が酸化物で詰まりかけています。

 

ワイヤーブラシで詰まりを清掃します。
出来る限り製品の初期状態に戻します。

 

光がかなり網目を通るようになりました。
燃焼ガスの通過が改善されるはずです。

 

本体内外の埃を一挙に吸い出します。特に燃焼筒を収めるボックス内で埃の
蓄積が深刻です。掃除機ブラシが届かないので、刷毛で埃を掻き出します。

 

燃焼筒の下部、混合気加熱器の周囲を清掃
します。吸気ポート周りの汚れが気になります。

 

吸気ポートは加熱器に横方向からねじ込まれる構造です。
ぐらついていたのは、ねじ込みが緩んでいたからです。

 

気化器表面の汚れは、霧化した灯油を含む混合器が漏れ
出し、高熱でタール化したものでしょう。クリーナーを吹きます。

 

気化器自体に特に損傷は見当たりません。また、
ジェットニードルや燃料パイプに詰まりもありません。

 

空気圧送ブロアの周囲も清掃します。右手前のゴム
製パイプを通り、気化器に空気が送り込まれます。

 

徹底的に埃を吸い出し、バーナー・燃焼筒を
元通りに組み付け、ボックスを元に戻します。

 

配線を正しく差し込み、背面の対流用ファン、手前のグリルを
取り付けます。金属製の製品は分解・組み立てが容易です。

 

清掃を中心にしたオーバーホール作業の完了です。
ただし、刺激臭の原因は特定できていません。

 

点火してみます。混合器加熱室のヒートアップや空気圧送ブロア、燃料ポンプなどの
作動、プロセッサに制御された一連のシーケンスも正常です。1発で点火しました。
ですが・・、間もなく目が痛み出し室内がみるみる刺激臭に満ちてきます。ダメです。

 

ネット上にあるファンヒーターの修理事例は、多くの場合
刺激臭の原因を未燃焼ガスの漏れだと指摘しています。

 

しかし、その対処方法はまちまちで決定打に欠きます。
漏れ出している部分を特定する方向で再度分解します。

 

アウターバーナーの内側にインナーバーナーが収められて
います。燃焼ガスは2つのバーナーの中を通るはずです。

 

インナーバーナーまで進んだ混合器は
着火して燃焼ガスになるはずです。

 

インナーバーナーの下にアルミ製の
パッキンが入れられています。

 

ここはまだ着火前の混合気が通過するので
漏れ出さないようパッキンを挟んでいるようです。

 

パッキンを新品に交換したいところですが、バーナー部品変形の
可能性もあり万全ではありません。高温用シール材を併用します。

 

パッキンの形を整え底面側にシール材を塗り付けます。
バーナー直下なので耐熱温度340度では少し不安です。

 

混合気加熱器の頂上部に丁寧に貼り付けます。締め付けでパッキンの幅が広がったようで、
周囲のリング部に一部乗り上げています。カッターナイフで切り取り段差をなくしておきます。

 

インナーバーナーの底面にも
シール材を塗り付けます。

 

着火前の混合気が漏れ出しそうな流路を、
アルミ製パッキンにシール材を併用し完全に塞ぎます。

 

よく見ると、周囲のリング部の上面にタールが付着
しています。漏れ出ていたことは間違いないでしょう。

 

耐熱性が十分ではありませんが、アウターバーナーの
底面にもシール材を塗り付けてから取り付けます。

 

燃焼筒を取り付けている上側プレートの
裏側にもタールの付着が見られます。

 

気化器にねじ込まれるポート部品が緩んだ隙間、そこから
漏れ出た混合気が原因です。ここにもシール材を入れます。

 

タールの生成条件は「混合気が漏れ出すこと」、「一定以上の高温に晒されること」、
この2つです。注意深く観察し、合理的に原因を考察することが重要です。元通りに
組み直し、グリルなど一部の部品を取り付けていない状態で乱暴ですが、ここで点火
してみます。点火や燃焼の状態に特に変化はありません・・が、刺激臭がしません。

 

火力が強い状態です。青い炎が
出て勢いよく燃焼しています。

 
 
室温が上がり火力が弱くなった状態です。低火力の
方が臭いが出やすいのですが、問題ありません。

 

修理完了です。納品に伺いたいところですが、シール材の状況を確認するため
しばらく工房内で連続試運転を行います(それで温まろうってのはズルい?)。
再び臭ってくるようでしたら、シール材を高性能のものに変更する、アルミ製
パッキンを新品に交換する、パッキンを2重に取り付けるなどの対策を講じます。

 
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