灯油ファンヒーター修理のご依頼です。広く普及しているありふれた暖房器具です。
燃焼中の臭いがひどく、使用していると頭痛がしてくるそうです。灯油を燃焼させると
多少なりとも燃焼ガスが臭うものですが、工房に持ち帰り動作テストしてみます。
|
確かに臭います。しばらく燃焼させていると
刺激臭が立ち込め目が痛くなってきます。
|
コロナ社製、GT-D53BY型。1999年製でネット
検索すると灯油タンクのリコールがヒットします。
|
20年近く経過しているので、どこが故障しても不思議は
ありません。オーバーホールの方向で作業にかかります。
|
本体を組み上げている各部の
ネジを順に緩めていきます。
|
右側面を固定しているネジです。高温火気を
扱う器具なので本体は全面的に金属製です。
|
左側側面の固定しているネジを緩めます。
唯一、左右の取っ手は樹脂製です。
|
前面パネルを外します。どうやら左右
2本のネジを緩めるだけで外れたようです。
|
前面パネルとは別に、整流フィンの付いた
グリルが内側に取り付けられています。
|
フィンの隙間から中を覗き見ると、奥に20年分の綿埃が
積もっています。グリルの下に空気圧送ブロアが見えます。
|
固定ネジを緩め、グリルも取り外します。
右側半分は灯油タンクが収まるスペースです。
|
燃焼筒が姿を現しました。全面的に錆が広がっていますが、
特に損傷は見受けられません。周囲は埃だらけです。
|
天板を外すにはもう1本このネジを緩める必要が
あります(外さなくてよいことが後で分かります)。
|
天板手前の操作パネルへ、制御基板から
フラットケーブルが接続されています。
|
背面に回り、対流用ファンをパネルごと取り
外します。周囲4本のネジで固定されいます。
|
ファン回転用モーターと室温センサーへの
配線を引き出しながら取り外します。
|
背面側から見る燃焼筒です。高温加熱の
及ばない一部に金属光沢が残っています。
|
燃焼筒を収め、温風(熱風)を導くボックスを外し
ます。本体背面に4本のネジで固定されています。
|
先に天板を外してあるので、
取り付け構造がよく分かります。
|
混合気(灯油+空気)加熱器手前の気化器と
空気圧送ブロアを接続するゴムパイプを外します。
|
気化器へ延びる銅製燃料パイプを、
電磁燃料ポンプ出口部で抜き取ります。
|
灯油タンクスペースの囲い壁面に
取り付けられている制御基板です。
|
制御基板に接続されている各種のケーブルを
抜き、ボックスごと燃焼筒を取り外します。
|
ボックスを逆さにします。気化器の空気流入口が
飛び出ており、そのままでは床に当たります。
|
フランジの固定ネジを緩めます。ネジは締まって
いるものの、何故か気化器全体がぐらついています。
|
気化器から混合気加熱器内へジェットニードルが延びています。
ぐらついているのは加熱器にねじ込まれるポートの部分です。
|
ボックスを分解します。不完全燃焼を解消
するため、手の届く範囲全てを清掃します。
|
燃焼筒は、ボックスとは別のプレートに
取り付けられ収められています。
|
燃焼筒の上部に、未燃焼ガスの臭いを取り除く円盤形の
触媒(セラミック+酸化鉄)が取り付けられています。
|
その下、穴の開いた金属製円盤は、高温の
燃焼ガスを触媒に集中させる役割でしょうか。
|
燃焼筒を載せるプレートは、断熱材を
挟んだ上下2枚構造で簡単に分離します。
|
上のプレートに燃焼筒、下のプレートに
バーナーが取り付けられています。
|
断熱材があるものの下側プレートも長年高温に
晒され、金属板表面の酸化が進んでいます。
|
バーナー部の分解にかかります。バーナー外側の
リング状ガードを外します。3本のネジで固定されています。
|
バーナー本体が外れてきます。バーナーは
金属メッシュ製アウター・インナーの二重構造です。
|
アウターバーナーの周囲に巻き付けられている金属
メッシュです。網目が酸化物で詰まりかけています。
|
ワイヤーブラシで詰まりを清掃します。
出来る限り製品の初期状態に戻します。
|
光がかなり網目を通るようになりました。
燃焼ガスの通過が改善されるはずです。
|
本体内外の埃を一挙に吸い出します。特に燃焼筒を収めるボックス内で埃の
蓄積が深刻です。掃除機ブラシが届かないので、刷毛で埃を掻き出します。
|
燃焼筒の下部、混合気加熱器の周囲を清掃
します。吸気ポート周りの汚れが気になります。
|
吸気ポートは加熱器に横方向からねじ込まれる構造です。
ぐらついていたのは、ねじ込みが緩んでいたからです。
|
気化器表面の汚れは、霧化した灯油を含む混合器が漏れ
出し、高熱でタール化したものでしょう。クリーナーを吹きます。
|
気化器自体に特に損傷は見当たりません。また、
ジェットニードルや燃料パイプに詰まりもありません。
|
空気圧送ブロアの周囲も清掃します。右手前のゴム
製パイプを通り、気化器に空気が送り込まれます。
|
徹底的に埃を吸い出し、バーナー・燃焼筒を
元通りに組み付け、ボックスを元に戻します。
|
配線を正しく差し込み、背面の対流用ファン、手前のグリルを
取り付けます。金属製の製品は分解・組み立てが容易です。
|
清掃を中心にしたオーバーホール作業の完了です。
ただし、刺激臭の原因は特定できていません。
|
点火してみます。混合器加熱室のヒートアップや空気圧送ブロア、燃料ポンプなどの
作動、プロセッサに制御された一連のシーケンスも正常です。1発で点火しました。
ですが・・、間もなく目が痛み出し室内がみるみる刺激臭に満ちてきます。ダメです。
|
ネット上にあるファンヒーターの修理事例は、多くの場合
刺激臭の原因を未燃焼ガスの漏れだと指摘しています。
|
しかし、その対処方法はまちまちで決定打に欠きます。
漏れ出している部分を特定する方向で再度分解します。
|
アウターバーナーの内側にインナーバーナーが収められて
います。燃焼ガスは2つのバーナーの中を通るはずです。
|
インナーバーナーまで進んだ混合器は
着火して燃焼ガスになるはずです。
|
インナーバーナーの下にアルミ製の
パッキンが入れられています。
|
ここはまだ着火前の混合気が通過するので
漏れ出さないようパッキンを挟んでいるようです。
|
パッキンを新品に交換したいところですが、バーナー部品変形の
可能性もあり万全ではありません。高温用シール材を併用します。
|
パッキンの形を整え底面側にシール材を塗り付けます。
バーナー直下なので耐熱温度340度では少し不安です。
|
混合気加熱器の頂上部に丁寧に貼り付けます。締め付けでパッキンの幅が広がったようで、
周囲のリング部に一部乗り上げています。カッターナイフで切り取り段差をなくしておきます。
|
インナーバーナーの底面にも
シール材を塗り付けます。
|
着火前の混合気が漏れ出しそうな流路を、
アルミ製パッキンにシール材を併用し完全に塞ぎます。
|
よく見ると、周囲のリング部の上面にタールが付着
しています。漏れ出ていたことは間違いないでしょう。
|
耐熱性が十分ではありませんが、アウターバーナーの
底面にもシール材を塗り付けてから取り付けます。
|
燃焼筒を取り付けている上側プレートの
裏側にもタールの付着が見られます。
|
気化器にねじ込まれるポート部品が緩んだ隙間、そこから
漏れ出た混合気が原因です。ここにもシール材を入れます。
|
タールの生成条件は「混合気が漏れ出すこと」、「一定以上の高温に晒されること」、
この2つです。注意深く観察し、合理的に原因を考察することが重要です。元通りに
組み直し、グリルなど一部の部品を取り付けていない状態で乱暴ですが、ここで点火
してみます。点火や燃焼の状態に特に変化はありません・・が、刺激臭がしません。
|
火力が強い状態です。青い炎が
出て勢いよく燃焼しています。
|
室温が上がり火力が弱くなった状態です。低火力の
方が臭いが出やすいのですが、問題ありません。
|
修理完了です。納品に伺いたいところですが、シール材の状況を確認するため
しばらく工房内で連続試運転を行います(それで温まろうってのはズルい?)。
再び臭ってくるようでしたら、シール材を高性能のものに変更する、アルミ製
パッキンを新品に交換する、パッキンを2重に取り付けるなどの対策を講じます。
|
|
|