「ロックミシン」、聞いたことはありますが、かがり縫い(布の端がほつれ
ないようにする)専用ミシンだと初めて理解しました。ご依頼主が知人から
譲り受けたもので、知人宅で長い年月仕舞い込まれていたそうです。
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メンテされずに年月が経過したため、電源を接続しペダルを踏んでも
全く動きださないとのことです。普通のミシンでも専門店のような修理は
無理ですが、油切れによる固着程度であれば何とか手に負えそうです。
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希少にも取扱説明書が残っています。baby lock
社製、EF-205型。本体にも刻印があります。
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baby lockを検索してみると、トップに同型機が紹介されて
います。世界初の家庭用小型ロックミシンとあります。
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1968年(昭和43年)に発売の機種で日本国内で製造された
製品です。依頼されたものは若干デザインが異なります。
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2本糸シンプルタイプの現行機種BL2-228は、
明らかにEF-205の基本構造を踏襲しています。
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電動機から主駆動軸へ掛けられている剥き出しの歯付き
ベルトです。現在の安全設計基準では考えられません。
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主駆動軸のプーリーを回してみます。力を入れると
ギシギシ音がして、各部の固着を伺わせます。
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7~8kgはありそうな重量です。本体の主要部分は
分厚いダイキャスト製です。分解の手順を考えます。
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メスカバーが邪魔になるので
先に取り外しておきます。
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メスカバーとは、布地の縁を切り揃える
刃物部を安全に覆うカバーのことです。
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本体左側面のカバーが開閉し、中に
ドライバーなどが収納されています。
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底板を取り外します。作業台に密着固定させる
ため、吸盤状のゴム足が取り付けられています。
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内部の機構が見えてきました。
意外とシンプルな構成です。
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取り外したダイキャスト製の底板です。これだけでもかなりの
重量があります。一部に錆が見られますが埃や汚れは僅かです。
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内部には2本の回転軸があります。左側が電動機で駆動される主駆動軸、
右側はメス(布地の縁を切り揃える刃物)を駆動する補助駆動軸です。内部は
非常に綺麗な状態で、実使用時間があまり長くないのではないでしょうか。
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表パネルを取り外します。鍋ネジと皿ネジの
中間くらいのネジで、丁寧に固定されています。
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パネル面に2個の糸調子ツマミが取り付けられています。
一方は針糸用、他方はかがりルーパー糸用・・だそうです。
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伝達機構が比較的シンプルとはいえ、全体が同期、同時に作動するため、油切れを
起こしている個所を特定できません。全ての回転部・摺動部に注油することにします。
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本体天井部分に取り付けられているこの
パッドから、各部に木綿紐が延びています。
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この穴を通して外部から注油すると
パッドに一定量の油が貯留されます。
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パッドから延びる木綿紐は、主要な回転・摺動部に
接続されており、紐を伝って給油される仕掛けです。
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原始的とはいえ優れた給油システムに感心している間に、
油が行き渡りプーリーが軽く回るようになってきました。
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長期間放置されていたので、各部とも多め(垂れて
くる程度)に注油し、余分をウェスで拭き取ります。
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底板、表パネル、メスカバーを
元の位置に組み付けます。
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電源を接続しペダルを踏んでみます。主駆動軸を始め、各部が一斉に動き
出しました。しかも、振動が少なく静かで力強い、非常に安定した動きです。
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本来ならば駆動部品を全て分解し、固着した油のスラッジを完全に取り除く
必要があるでしょう。そのためには、再組立て時に各部のタイミング調整が
不可欠で、各部同期に関する調整データ無しでは作業は不可能です。修理
専門店もしくはbaby
lock社に依頼することになります。工房はここまでです。
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