9月7日にお預かりし、1週間かかってデッキメカを分離するところまでたどり着きました。
機構に依存したアナログ時代の究極的装置は、気が滅入るほど巧妙・複雑・合理的で、
各部品の働きおよび部品同士の関連を斟酌しながら、メンテを進めなければなりません。
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メイン基板にはサブの回路基盤が2枚取り付けられており、そこから引き出されている数本の
フラットケーブル、動作位置検出用ロータリースイッチの配線、および電源ユニットが接続されないと
動作させることができません。不具合個所に手を入れるたび、これらの脱着を余儀なくされます。
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テープを全くローディングしないため、最初に
ピンチローラのアーム周りを点検します。
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シャフトの溝に噛み込む爪を押し戻し、
アームの固定用カバーを外します。
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ピンチローラと一体で回転と同時に上下動し、
ローラに一定のプレッシャーを加えます。
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ピンチローラおよびアームが共に抜けてきます。
ローラのゴムがかなり劣化しているようです。
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写真奥に見える割としっかりしたスプリングの
張力で、ローラにプレッシャーが加えられます。
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アームの上下動に合わせてタイミング良く、
ローラがキャプスタンに押し当てられます。 |
アームは3ピースから成るアセンブリです。さらにこの小さな
サブアームはローラの回転に時間差を与える働きをします。
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よく見ると、一部欠損したような痕跡を
確認できます。そう言えば・・・!
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テープデッキの分解中に、内部に部品の破片の
ようなものが落ちているのを見つけていました。
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形状からして、いかにもアームの
部品から脱落したような感じです。
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やはりそうです。破断面が完全に一致します。恐らく
ポリアセタールだと思いますが、接着が面倒です。
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2液性エポキシは接着しないし、シアノアクリレート
系の瞬間接着剤では荷重に耐えられません。
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それでも工房では特殊な方法で何とか付けてしまいます。
ひとまず、ピンチローラが正しく動作しない問題が解決しました。
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テープトレイ左奥の爪を手で解除してやると
テープのオートローディングが動作します。
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ピンチローラが所定の位置に正しく収まるものの、
テープをヘッドに導く左右のピンが動作しません。
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ローディング駆動用のモータから、ギヤチェーンを
延々と伝って被駆動部に動力が伝達されます。
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経年劣化により伝達経路のどこかに、
動作を阻害する抵抗が生じているはずです。
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アーム駆動用のカムシャフトを抜き、
その先に続くレバー類を取り外します。
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このレバーに付いているピンは、ローディングの
途中でテープをピンチローラの内側に引き込みます。
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レバー、平ギヤのほとんどが、シャフト端の溝に
樹脂製ワッシャを嵌め込んで固定されています。
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樹脂製平ギヤの表面に刻まれた溝(カム)に小さな
ピンが嵌まり、様々な直線運動が作り出されます。 |
溝にはプラグリスが塗り込められています。黒変している
のは、部品の摩耗により金属が混ざり込んだ結果です。
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すなわち、黒い部分ほど部品の摩耗
(微妙な変形)が進んでいるということです。
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古いグリスを汚れと共に除去し、新しいプラ
グリスを塗り込むぐらいしか方法はありません。
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清掃を繰り返すものの、例えばこのピンを動作方向に
押しても、強い抵抗に遭って容易には動きません。
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ピンセットで指しているこの部品は、左右に長く広がるプレートの右端です。真上にある
レバーのリンク動作により左右に大きくスライドしますが、ほとんど固着しています。
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力を入れて右側にスライドさせた位置です。PLAY
(再生)時に巻き取り側リールにギヤを噛み合わせます。
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逆に左側に寄せた状態です。いずれの
方向も抵抗に遭いかなりの力が要ります。
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プレートの左端は反対側の送り出しリールの先まで達して
います。スライドする度に、全長にわたり摩擦が生じます。
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金属部品の表面が全体的に酸化し、生じた被膜の微細な
凹凸が摩擦を高めています。注油と清掃を繰り返します。
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回転側リールを決定するため、中間ギヤを移動させるリンク
です。プレートの溝に沿って上下しますが、うまく滑りません。
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リュータを使い溝の形状を僅かに変更します。
ピンが滑る斜辺をほんの少しなだらかにします。
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摺動面に潤滑オイルが行き渡り、全体的に動きが軽くなってきました。続けて
デッキメカの裏面にも摩擦を生じている部分が残っていないか、確認します。
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プレートが軽くスライドするようになっています。強い
抵抗に遭いモータの回転が停止することはないでしょう。
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この2枚の爪が中間ギヤを左右に移動させ、
噛み合った側のリールに回転を伝えます。
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ギヤのブレーキ機構など、細部にも摺動部が
隠れています。丁寧に注油と清掃を繰り返します。
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埃の吸着・集積を防ぐため、部品表面に
残る油滴・油膜はできるだけ除去します。
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多くのビデオデッキ、カセットデッキにも見られる典型的なトラブルの発見です。
リールのベースは、ギヤ一体のディスクと、一定の摩擦で摺動回転するディスクの
2重構造になっています。リールは後者のディスクに乗って回転しています。
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ベースの内部にスプリングが組み込まれており、
2枚のディスクを一定の力で押し付けています。
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時間経過とともにスプリングの反発力が相対的に
過大となり、リールの回転を重く不安定にします。
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ベースの底面がシャシーに接触するようになり、結果エンコーダの印刷が
擦れて剥げかかっています。過去にスプリングの調整で解決しようとした
ことがありますが、いずれも失敗に終わっています。別方法を考えます。
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底部を擦らないよう、ベースを僅かに持ち
上げることにします。薄いワッシャを入れます。
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外径がベース底部の穴に嵌まり、かつシャフト根元の
ハブ金具に内径が嵌まるようサイズを調整します。
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シャフトに通します。すぐ隣に見えるのは、メイン基板に
取り付けられたエンコーダ読み取り光学センサーです。
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エンコーダのパターンを修正します。
サインペンで元のパターンをなぞります。
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こんなものでしょうか。回転の有無を検出するだけなので、さほど精密な
パターンは必要ありません。このインクがかすれなくなればOKです。
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さらに、リールを固定するこのレバー型ブレーキ。
スプリングが強く、メカに大きな負荷をかけています。
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バーナーで焼きを戻し、張力を低下させます。
(後で新しいスプリングに交換します。)
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頂上部分に、リールをシャフトに固定する爪が出ています。
材料(樹脂)が劣化しシャフトの溝を捉えられなくなっています。
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細いステンレスワイヤーを加工して、リールを
固定するフック状の部品を作り、取り付けます。
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ほとんどの平ギヤは、互いに位置を同期させながら回転しています。ギヤ位置の設定では
「にがAV(http://niga2.sytes.net/av/hc1.html)」の内容が非常に役に立ちました。複雑で込み
入った機構に満ちているので、少し作業を続けただけで気が滅入ってきます。さて、連日のように
少しずつ作業を繰り返しようやくここまで辿り着きました。大きな問題はひと通り解決しています。
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テープをローディングさせます。機械であるギヤやリンクが
プログラムのように、決められた手順通りに動作します。
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左右のピンがテープを引き出し、
ヘッドシリンダの周りに導きます。
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インピーダンスローラ、音声ヘッド(?)、ピンチローラ、
いずれもスムーズにテープが走行しています。
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テープが長く重量のある120分テープでは、巻き戻しの
最後で回転が遅くなり、時に停止してしまいます。
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また、巻きが乱れて走行抵抗が大きくなっている
テープでは、再生もできないことがあります。
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過負荷が加わると、電気的エマージェンシー
回路が作動しモータを停止させるようです。
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早送り、巻き戻し、そして再生もできます。今後、このVHSデッキがどのくらい利用
されるのか分かりませんが、ほぼ1か月間、毎日のように作業して何とか復旧させる
ことができました。ただし、再生される画像を見て、カセットデッキの時とは真逆に
がっかりしました。HD以前のSD画質、それも3倍速で録画されたテープデッキの
画質とはこの程度だったのでしょうか。4K・8Kに進む現在では信じがたい画質です。
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1か月に及ぶ長期戦をようやく終えることができます。
途中で紹介しました「にがHP」様に感謝申し上げます。
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