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Pana VHSデッキNV-HC1長期戦 その2(2017.10.4)


9月7日にお預かりし、1週間かかってデッキメカを分離するところまでたどり着きました。
機構に依存したアナログ時代の究極的装置は、気が滅入るほど巧妙・複雑・合理的で、
各部品の働きおよび部品同士の関連を斟酌しながら、メンテを進めなければなりません。

 

メイン基板にはサブの回路基盤が2枚取り付けられており、そこから引き出されている数本の
フラットケーブル、動作位置検出用ロータリースイッチの配線、および電源ユニットが接続されないと
動作させることができません。不具合個所に手を入れるたび、これらの脱着を余儀なくされます。

 

テープを全くローディングしないため、最初に
ピンチローラのアーム周りを点検します。

 

シャフトの溝に噛み込む爪を押し戻し、
アームの固定用カバーを外します。

 

ピンチローラと一体で回転と同時に上下動し、
ローラに一定のプレッシャーを加えます。

 

ピンチローラおよびアームが共に抜けてきます。
ローラのゴムがかなり劣化しているようです。

 

写真奥に見える割としっかりしたスプリングの
張力で、ローラにプレッシャーが加えられます。

 

アームの上下動に合わせてタイミング良く、
ローラがキャプスタンに押し当てられます。

アームは3ピースから成るアセンブリです。さらにこの小さな
サブアームはローラの回転に時間差を与える働きをします。

 

よく見ると、一部欠損したような痕跡を
確認できます。そう言えば・・・!

 

テープデッキの分解中に、内部に部品の破片の
ようなものが落ちているのを見つけていました。

 

形状からして、いかにもアームの
部品から脱落したような感じです。

 

やはりそうです。破断面が完全に一致します。恐らく
ポリアセタールだと思いますが、接着が面倒です。

 

2液性エポキシは接着しないし、シアノアクリレート
系の瞬間接着剤では荷重に耐えられません。

 
 
それでも工房では特殊な方法で何とか付けてしまいます。
ひとまず、ピンチローラが正しく動作しない問題が解決しました。

 

テープトレイ左奥の爪を手で解除してやると
テープのオートローディングが動作します。

 

ピンチローラが所定の位置に正しく収まるものの、
テープをヘッドに導く左右のピンが動作しません。

 

ローディング駆動用のモータから、ギヤチェーンを
延々と伝って被駆動部に動力が伝達されます。

 

経年劣化により伝達経路のどこかに、
動作を阻害する抵抗が生じているはずです。

 

アーム駆動用のカムシャフトを抜き、
その先に続くレバー類を取り外します。

 

このレバーに付いているピンは、ローディングの
途中でテープをピンチローラの内側に引き込みます。

 

レバー、平ギヤのほとんどが、シャフト端の溝に
樹脂製ワッシャを嵌め込んで固定されています。

 

樹脂製平ギヤの表面に刻まれた溝(カム)に小さな
ピンが嵌まり、様々な直線運動が作り出されます。

溝にはプラグリスが塗り込められています。黒変している
のは、部品の摩耗により金属が混ざり込んだ結果です。

 

すなわち、黒い部分ほど部品の摩耗
(微妙な変形)が進んでいるということです。

 

古いグリスを汚れと共に除去し、新しいプラ
グリスを塗り込むぐらいしか方法はありません。

 

清掃を繰り返すものの、例えばこのピンを動作方向に
押しても、強い抵抗に遭って容易には動きません。

 

ピンセットで指しているこの部品は、左右に長く広がるプレートの右端です。真上にある
レバーのリンク動作により左右に大きくスライドしますが、ほとんど固着しています。

 

力を入れて右側にスライドさせた位置です。PLAY
(再生)時に巻き取り側リールにギヤを噛み合わせます。

 

逆に左側に寄せた状態です。いずれの
方向も抵抗に遭いかなりの力が要ります。

 

プレートの左端は反対側の送り出しリールの先まで達して
います。スライドする度に、全長にわたり摩擦が生じます。

 

金属部品の表面が全体的に酸化し、生じた被膜の微細な
凹凸が摩擦を高めています。注油と清掃を繰り返します。

 

回転側リールを決定するため、中間ギヤを移動させるリンク
です。プレートの溝に沿って上下しますが、うまく滑りません。

 

リュータを使い溝の形状を僅かに変更します。
ピンが滑る斜辺をほんの少しなだらかにします。

 

摺動面に潤滑オイルが行き渡り、全体的に動きが軽くなってきました。続けて
デッキメカの裏面にも摩擦を生じている部分が残っていないか、確認します。

 

プレートが軽くスライドするようになっています。強い
抵抗に遭いモータの回転が停止することはないでしょう。

 

この2枚の爪が中間ギヤを左右に移動させ、
噛み合った側のリールに回転を伝えます。

 

ギヤのブレーキ機構など、細部にも摺動部が
隠れています。丁寧に注油と清掃を繰り返します。

 

埃の吸着・集積を防ぐため、部品表面に
残る油滴・油膜はできるだけ除去します。

 

多くのビデオデッキ、カセットデッキにも見られる典型的なトラブルの発見です。
リールのベースは、ギヤ一体のディスクと、一定の摩擦で摺動回転するディスクの
2重構造になっています。リールは後者のディスクに乗って回転しています。

 

ベースの内部にスプリングが組み込まれており、
2枚のディスクを一定の力で押し付けています。

 

時間経過とともにスプリングの反発力が相対的に
過大となり、リールの回転を重く不安定にします。

 

ベースの底面がシャシーに接触するようになり、結果エンコーダの印刷が
擦れて剥げかかっています。過去にスプリングの調整で解決しようとした
ことがありますが、いずれも失敗に終わっています。別方法を考えます。

 

底部を擦らないよう、ベースを僅かに持ち
上げることにします。薄いワッシャを入れます。

 

外径がベース底部の穴に嵌まり、かつシャフト根元の
ハブ金具に内径が嵌まるようサイズを調整します。

 

シャフトに通します。すぐ隣に見えるのは、メイン基板に
取り付けられたエンコーダ読み取り光学センサーです。

 

エンコーダのパターンを修正します。
サインペンで元のパターンをなぞります。

 

こんなものでしょうか。回転の有無を検出するだけなので、さほど精密な
パターンは必要ありません。このインクがかすれなくなればOKです。

 

さらに、リールを固定するこのレバー型ブレーキ。
スプリングが強く、メカに大きな負荷をかけています。

 

バーナーで焼きを戻し、張力を低下させます。
(後で新しいスプリングに交換します。)

 

頂上部分に、リールをシャフトに固定する爪が出ています。
材料(樹脂)が劣化しシャフトの溝を捉えられなくなっています。

 

細いステンレスワイヤーを加工して、リールを
固定するフック状の部品を作り、取り付けます。

 

ほとんどの平ギヤは、互いに位置を同期させながら回転しています。ギヤ位置の設定では
にがAV(http://niga2.sytes.net/av/hc1.html)」の内容が非常に役に立ちました。複雑で込み
入った機構に満ちているので、少し作業を続けただけで気が滅入ってきます。さて、連日のように
少しずつ作業を繰り返しようやくここまで辿り着きました。大きな問題はひと通り解決しています。

 

テープをローディングさせます。機械であるギヤやリンクが
プログラムのように、決められた手順通りに動作します。

 

左右のピンがテープを引き出し、
ヘッドシリンダの周りに導きます。

 

インピーダンスローラ、音声ヘッド(?)、ピンチローラ、
いずれもスムーズにテープが走行しています。

 

テープが長く重量のある120分テープでは、巻き戻しの
最後で回転が遅くなり、時に停止してしまいます。

 

また、巻きが乱れて走行抵抗が大きくなっている
テープでは、再生もできないことがあります。

 

過負荷が加わると、電気的エマージェンシー
回路が作動しモータを停止させるようです。

 

早送り、巻き戻し、そして再生もできます。今後、このVHSデッキがどのくらい利用
されるのか分かりませんが、ほぼ1か月間、毎日のように作業して何とか復旧させる
ことができました。ただし、再生される画像を見て、カセットデッキの時とは真逆に
がっかりしました。HD以前のSD画質、それも3倍速で録画されたテープデッキの
画質とはこの程度だったのでしょうか。4K・8Kに進む現在では信じがたい画質です。

 

1か月に及ぶ長期戦をようやく終えることができます。
途中で紹介しました「にがHP」様に感謝申し上げます。

 
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