VHSビデオデッキとDVDプレーヤーが一体になった懐かしい雰囲気漂う
製品です。VHS1号機は1976年、DVD1号機は1996年に登場して
いるので、20年前と20年後の技術が同居する何とも奇怪な製品です。
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不具合は、CD再生時に曲のスキップができない、
VHSテープが全く再生されない、の2点です。
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シャープ製DV-NC700、VTR一体型DVDビデオプレーヤーが
正式製品名です。2004年製で、実はさほど古くはありません。
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目まぐるしく技術が進歩するも、人々が置き去りに
されかねないことを象徴するかのような製品です。
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ひとつ目の不具合、曲のスキップができない
問題を確認します。CDを再生してみます。
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ご依頼主の指示通り「選局・トラッキング」と表示の
あるボタンを操作してみます。確かに無反応です。
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ボタン内部に組み込まれている
タクトスイッチの劣化が原因でしょう。
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タクトスイッチの接点を回復するか、スイッチ
ごと交換すれば、間違いなく直るでしょう。
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側面と背面の固定ネジを緩めて
金属製の上側カバーを外します。
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露わになった内部を眺めています。底面に大型の回路基板が収められ、
その上にDVDプレーヤーユニットと、今思うと巨大なVHSメカが並びます。
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タクトスイッチにアクセスするには
前面パネルを外す必要があります。
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上下に大きなツメによる篏合が
あります。ネジ固定はありません。
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前面パネルには、一切のスイッチ、照明用
LEDなど何も取り付けられていません。
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「選局・トラッキング」のボタンを
外部から操作する(押し込む)と、
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パネル裏側のレバーが連動し、
方向を変えて下に押し下げます。
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レバーが下がるところにタクトスイッチが取り付けられて
います。接続ケーブルを不要とする巧妙な設計です。
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接点復活を試みるも機能が回復しません。点検すると
スイッチは正常です。ネットから取扱説明書をDLします。
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「選局・トラッキング」ボタンでは曲をスキップ
できません。リモコンで操作するそうです。
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技術と人々のコントを見ているようで楽しくなり
ます。気を取り直してVHSの修理にかかります。
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VHSテープをローディングさせてみます。
取りあえず内部に吸い込まれて行きますが、
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左右2本のローディングロッドがテープをヘッドの周囲に巻き
付けるところまで進むと、動作が全て停止してしまいます。
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イジェクトボタンを押すと、ヘッドからテープを引き戻して
再び停止します。カセット内にテープが巻き取られません。
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カセットの外に出たままのテープが、内部のローラーやピンにかかり
デッキからカセットを取り出せなくなります。テープは折れて傷みます。
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VHSデッキは機械部品による機構で成り立っており、数多い
部品の機械的動作不良が、様々な不具合を引き起こします。
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動作を伴う機械部品なので、油切れ、錆、摩耗、
変形、強度低下、固着などが常に付きまといます。
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機械装置として高度に複雑化したVHSデッキは、
不具合個所を特定することが容易ではありません。
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機械部品の不具合は直接手に取って確認するしか
方法がありません。そのため、ひたすら分解します。
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DVDプレーヤーと共存させるため、実装が複雑さを
極めています。DVDプレーヤーも外す必要があります。
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背面の入出力端子パネルの固定ネジを緩めます。
合理的な設計とはいえ、メンテ的には厄介です。
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DVDユニットをマウントする樹脂製の部品です。ここまで
周囲を整理してようやくVHSデッキにアクセスできます。
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回路基板を通して底側樹脂製カバーに固定している
ネジを緩めると、ようやくVHSデッキが外れてきます。
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底側カバーを取り外すと、回路基板とVHSデッキのみ残ります。カバー
内に収まった状態よりも、はるかに点検や修理を加えやすくなりました。
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TVチューナーを含む回路基板を裏側から見ています。ディスク
リート部品が並び、アナログ末期で集積化が止まっています。
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ピンチローラーの取り付けアームが、
リンク全体にわたり固着しています。
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注油しながら馴染みを取ると、再生時に
何とかテープが送られるようになりました。
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テープのローディング動作、イジェクト動作ともに動きが鈍い
のは、駆動モーターからの動力伝達ベルトの経年劣化です。
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テープ巻き取りリールの動作を制御する、複雑なカムが刻まれた回転部品です。
浮き上がっています。イジェクト時にテープが巻き取られないのは、この部品が
機能していないからです。ドライバーの先で元の位置に軽く押し込むだけです。
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再生・早送り・巻き戻しの各モードを切り替えるため
水平方向に往復移動する直線形状の樹脂部品です。
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埃の混入や樹脂材料表面の劣化により、摺動
抵抗が徐々に大きくなり、いずれ固着します。
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決して最善の方法ではありませんが、シリコンスプレーを
吹いて、樹脂表面を洗浄しながら摺動抵抗を取り除きます。
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機構部品が一挙に息を吹き返してきます。
再びカセットをローディングさせてみます。
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動作が軽快になり、テープが素早く
内部に吸い込まれて行きます。
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ローディングロッドの動作も機敏で、ヘッドの
周囲にテープが安定して巻き付いています。
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VHSデッキの一連の動作を確認します。全体的に馴染みを
取り戻し、弱点の高速巻き戻し動作も調子が出てきました。
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動力伝達機構の各部が、動作設計通りに連結し
切り離れなければ初期の機能を発揮しません。
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カバーが開いているうちに、専用洗浄液を使用
して録再ヘッドを徹底的にクリーニングします。
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元通りに全体を組み上げ、
再度動作確認を行います。
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底面のゴム足が紛失しているので、
汎用部品を使用して補います。
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バランスを均等にするため、4か所
全てに同じ部品を取り付けます。
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テレビを接続し、市販のテープライブラリを再生してみます。
テープローディングも問題ありません、滑らかに吸い込まれます。
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曲のスキップ用と取り違えていた「選局・トラッキング」ボタンを操作すると、間もなく画面が
安定し綺麗なビデオ映像が再生されます。ヘッドの状態は良好で、累積再生時間があまり
長くないようです。ヘッドの摩耗よりも先に、駆動機構の劣化が進んでしまったのでしょう。
20年分の技術的進歩が、同じ展示ケースに押し込められた博物館のような製品でした。
技術はDVDあるいはそのはるか先に到達しているのに、「VHSテープが鑑賞できないと
困る」と言う人々、その声に応えてこのような製品が本当に出てきてしまう「現代」とは?
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