物凄いラジオを修理することになりました。3か月以上も前の7月下旬に
お預かりしたSONY製BCLラジオです。途中でご依頼主に何度か了解
いただきながら、このほどようやく修理を完了しました。お待たせした
期間で最長記録となった修理の顛末を、3回に分けてアップします。
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451mm(横)×349mm(縦)×207(奥)mmの大サイズに、15.4kgもの重量。
作業台に載せるどころか、少し向きを変えるのも大変です。電源を入れ最小限の動作を
確認します。プロ用機材のような精悍なツマミ類が並び、高機能・高性能ぶりが漂います。
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SONYは実際に業務用機材を多く製造しているので、特に「盛って」いるわけでは
ないようです。前面に比べ背面側はあっさりしたもので、ラジカセと変わりません。
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CRF-330K型、1975年(昭和50年)に登場。
BCL・RX製品群のフラグシップモデルです。
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定価42万円、カセットテープデッキの付属しない
CRF-320Kでも32万円でした。昭和50年
当時、どれだけ高額であったか想像を超えます。
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伺っている不具合は、FM(左側)とMW・LW(右側)の
選局ダイヤルが回らないそうです。時計も動作しません。
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工房で確認したところ、カセット
デッキも全く動作しません。
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ダイヤルが回らないのはおそらく機械的な損傷、
カセットデッキも駆動機構に問題がありそうです。
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機構上の問題であれば、高周波・ラジオ関係が
不得意な守谷工房でも何とか修理できます・・
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それで修理をお引き受けしたのですが。前面
パネル脱着に干渉するツマミ類を全て取り外します。
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この複雑に加工された前面パネルは
4隅・4本のネジで固定されています。
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前面パネルを引き離します。本体と
接続するケーブル類に留意します。
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パネル左下に取り付けられた
スピーカーへの配線のみです。
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パネルが外れた状態でダイヤルの動作を確認します。シャフトが空回りして
目盛板は回転しません。ネットでCRF-330Kの修理記事を探すと、全く
同じ不具合がいくつか検索されます。この製品に共通する問題のようです。
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目盛板の手前に周波数を読み取るカーソルが
刻印されたプレートが取り付けられています。
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FM用目盛板とMW・LW用目盛板は
パネルに隠れる部分で重なり合っています。
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目盛板を引き抜きます。内側の
回転機構が見えてきます。
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周波数を精密に調整できるよう、ギヤに
よりシャフトの回転を落としています。
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回転機構を組み上げるプレートを外します。
シャフトはプレート側に固定されています。
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プレート内側に、シャフトの回転感触を保つウエイト
およびピニオンギヤが取り付けられています。
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ネット上にある他の修理事例のまんまです。ピニオンギヤにクラックが
入り、経年変化で樹脂材料が収縮して大きな隙間が生じています。元は
シャフトに圧入されていたもので、隙間によりギヤが空回りしています。
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ピニオンギヤを引き抜きます。
ゆるゆるなので簡単に抜けてきます。
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新しい部品に交換したいところですが、同サイズの
ギヤはなかなか見つかりません。再利用を試みます。
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アルコールで固化したグリスを洗浄します。
樹脂の収縮が著しくシャフトに合いません。
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ピニオンの軸穴を広げるしかありません。
棒ヤスリで穴の内側を丁寧に削ります。
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押さえ付けると何とかシャフトに密着
します。この状態で接着することにします。
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ABSなのかポリプロ系なのか、いずれにしても瞬間
接着剤との相性が良くありません。プライマーを塗布します。
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シャフト側に接着剤を付けます。瞬間的に固化
するため、プライマーを塗った側は避けます。
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隙間が開かないよう完全に固化
するまでクリップで固定します。
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僅かに隙間が残っています、もう少し軸穴を広げておくべきでした。
がピニオンは十分に固定され、シャフトの空回りは解決できます。
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次に時計の不具合を修理します。同期モーター式の電気時計
かと思っていましたが、クォーツ発振による精密なユニットです。
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取りあえず引き出さないことには作業できません。
前面側からアプローチしますが、外れてきません。
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背面側に回ります。大きな
背面パネルを取り外します。
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背面パネルを開けると、回路基板の全貌が見えます。
ディスクリート部品による当時のこってり感が溢れ出ます。
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時計ユニットからの配線を確認する
ため、片側だけ側面パネルも外します。
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時計ユニットを接続するコネクターです。
タイマーによる制御信号線が含まれます。
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コネクターを抜くとユニットが外れて
きます。ネジによる固定はありません。
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かなり厳重な金属製ケースです。特に
シールドする必要はないと思いますが。
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ケースを分解します。数本の
ネジで組み立てられています。
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クォーツが作り出すパルスにより
アクチュエータを駆動する方式です。
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ケースの隙間に照明用の
電球が差し込まれています。
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引き出してみると経年劣化により
ボロボロです。当然、点灯しません。
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腐食によりリード線が切れています。
簡単な修理なので電球を交換します。
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新しい電球を用意します。確かLEDに
交換する例がネット上にありました。
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降圧用に抵抗器を接続します。ワット数が
足りないので2本を束ねて使用します。
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接続部分にチューブを
被せて絶縁します。
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照明が点灯しないだけで製品の見栄えが大きく低下します。さて、肝心の
時計自体の故障ですが、コネクタを差し直したところ問題なく動作するように
なりました。経年により接触不良が生じていたようです。このユニットは電源
として単1乾電池を1個内蔵するようになっています。電源OFF時や停電に
対応するためでしょう、本体の電源回路から電源供給を受けていません。
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動作する気配もないカセット
テープデッキを修理します。
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デッキユニットを引き出し、両側のマイナス
ネジを緩めると取り出すことが出来ます。
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SONY製テープレコーダーの
ユニットが流用されているようです。
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カセットホルダーの底面プレートを外します。
やはりどこかで見たような気がします。
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底面プレートはほとんど化粧プレートのようです。
こちら側からは内部にアクセス出来ません。
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ユニットを裏返して
底面カバーを外します。
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ゆとりのあるオーソドックスな作りです。基板の1辺に
刻まれた端子が、本体側ソケットに差し込まれます。
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数本のベルトが全て切れています。
ゴムが溶け出すまでには至っていません。
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工房のストックの中から
サイズの合うものを選びます。
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手前のプレートを1枚外すだけで
ベルトの交換が可能です。
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キャプスタン軸やピンチローラーには特に損傷もなく、ベルトの交換と
僅かな注油で安定してテープが再生されるようになります。45年の
歳月が経過しようとしているものの、メンテナンスにより初期の性能を
取り戻せる点は、高品質であることのもう一つの側面ではないでしょうか。
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この時点で月が替わり8月に入っています。ご依頼主の指示内容は既にクリアして
いるので、全体をクリーニングしてお返しする段階です。ところが、ここであることに
気付きました・・MW(AM放送)を受信できません。FM放送は問題なく受信できます。
ご依頼主に確認すると、ダイヤルの回転とデッキが修理できただけでも十分で、AMは
受信できなくてもよいとのことです。・・考え込みました、これだけのラジオがAM放送を
受信できなくてよろしいのでしょうか。しかし、スーパーヘテロダインを進化させ高度に
設計されたSONYの渾身作です。守谷工房ごときの歯が立つわけがありません。
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