木製の鳩時計を修復します。物心も付かない子供の頃、自宅に掛けられていたことを
覚えています。全体が黒い色で、時刻を告げる「パッポー」という音も耳に残っています。
写真の通り、不具合は長針が欠損していることです。時計の役を果たさず、長期間(10年
以上?)保管してあったそうです。鳩が飛び出てくる機構に興味が掻き立てられます。
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文字盤、時針を確認します。ゴシック調にデザインされた数字と残っている
短針です。先に、長針・短針の取り付け方法を理解する必要があります。
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長針を固定していた化粧ナットを緩めます。
材質表面の酸化が進み、強く固着しています。
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化粧ナットの下に長針の根元部分が残っています。
金属疲労により、根元近くで折れてしまったようです。
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長針の根元が残っているので、代替部品を再生でき
そうです。ボックス内からムーブメントを取り出します。
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時報(パッポー)のON・OFFを切り替えるスライド
スイッチです。固着しているので潤滑剤を吹きます。
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レトリックな鳩時計ですが、心臓部には
クオーツムーブメントが使用されています。
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リンクやレバーを解除しながら慎重に内部
機構を取り出します。物々しい装備です。
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現在広く普及しているクオーツムーブメントに、時報制御機構と振り子駆動機構が
組み込まれています。さらに、「パッポー」を奏でるホイッスル部と鳩人形の駆動
機構が合体され、新旧の装置が一体になったさながらハイブリッド機構であります。
「パッポー」をDSPによる電子音、鳩をLCDにグラフィック表示などしては台無しです。
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ホイッスルに空気を送り込む小型のふいごが、
「パッ」用と「ポー」用に2個取り付けられています。
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昔ながらの「パッポー」音を奏でるため、
ハトロン紙製の旧態然とした造りです。
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空気室を変形運動させるため、ハトロン紙が
巧妙な蛇腹構造に折り畳まれています。
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蛇腹を開閉させながら状態を確認して
みると、ハトロン紙の一部が破れています。
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ここにも破れている部分があります。
ホイッスルに向かう空気が漏れます。
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反対側の丁番に相当する部分です。
丁番が完全に切れています。
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長針の欠損と同じくらい重大な問題です。ハトロン紙・・紙ですから経年劣化(風化)は
免れません。折り目を境にさらに破断が進みそうです。古いハトロン紙を全て取り除き、
蛇腹を新しく作り直した方が良さそうです・・が、この巧妙な蛇腹の折り畳み方が分かり
ません。一度壊してしまうと、再現は困難を極めそうです・・、修復することにします。
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先に丁番を修復します。ハトロン紙のような薄手の
用紙がないので、マスキングテープを代用します。
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下手にふいごを動かすとハトロン紙の破断が
進むため、閉じた状態で慎重に作業します。
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丁番部分を固定しただけで
ふいごの位置が安定します。
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「パッ」用と「ポッ」用、2個のふいご丁番を修復
しました。問題は空気の漏れる蛇腹の修復です。
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細いドライバーの先に木工用接着剤を少量取り、
ふいごの隙間から破断部分に塗り付けます。
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破断線に沿って少しずつ修復します。接着剤が
はみ出て蛇腹が開閉しなくなるとアウトです。
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接着剤が乾き一部が接合されるのを待って、続く
破断部分を修復します。ひたすら根気よく繰り返します。
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ふいごを開閉させると、小気味良く「パッポー」が
聞こえてきます。擦り減った神経が癒されます。
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次はムーブメント本体、乾電池ホルダーの不具合です。
単1用マイナス側の電極金具が脱落しています。
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反対側から確認すると、錆びて朽ち果てた金具の
一部が残っています。液漏れ放置による腐食でしょう。
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工房に有り合わせの材料でマイナス側金具を修復
します。大きさの合いそうなスプリングがありました。
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金具を固定する突起部分の内径と、
スプリングの外径がほぼ同じです。
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スプリングから必要な長さを取ります。
有り合わせとはいえ、バネが太過ぎます。
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単1乾電池を確実に保持できれば良しと
します。グラインダで切断端を成形します。
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乾電池のマイナス側に接触する部分を
先に行くほど薄く切削します。
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マイナス側に接続されるコードを整理します。ムーブメント
本体、振り子駆動部、ふいご駆動部への3本かと思います。
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スプリングから製作した電極金具に
コードをまとめて半田付けします。
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ムーブメント本体の突起内に
電極金具を差し込みます。
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かなり固く入っていますが、念のため瞬間接着剤を入れて脱落を
防止します。やはり、加工するにはスプリングが太過ぎました・・。
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取り外しておいた、ふいごと駆動部を
接続するリンクを、元の位置に戻します。
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「パッ」用と「ポー」用に2本を連結します。
手前に駆動部から出るレバーが見えます。
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堆積した埃を丁寧に取り払い、ムーブメント全体を
ボックス内に収めます。ムーブメント自体は快調です。
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楽しみにしていた鳩フィギュアの動作を確認して
みます。各部が非常に柔らかく軽快に動作します。
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扉が左右に開き、内部から鳩フィギュアが飛び出てきます。飛び出し切る頃、
小さな羽を両側に広げるのです。「パッポー」に合わせて時報数分、出入りを
繰り返します。立派なオートマタのひとつに数えられるのではないでしょうか。
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色々な修復作業に追われ、肝心の長針を
再生する作業が最後になりました。
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文字盤全体がゴシック調なので、短針とのバランスも
考え長針のデザインを選びました。JPG画像です。
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切り抜き加工するにはベクトルデータが必要なので、
ネット上のオンラインサービスで変換します。
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CADに取り込み、サイズや形状、特に時計の
長針軸を通すための穴形状を微調整します。
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1mmアクリル板をレーザーカッターで
切り抜きます。予備を含めて数本製作します。
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元は金属製の時針でしたが、CNCフライス盤
未導入のため無理です。アクリルで代用します。
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残っている短針の塗装色に合わせ、
アクリル製長針を塗装します。
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研磨工程無しで出来上がりとします。
そこそこ綺麗に仕上がっています。
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長針を軸に取り付けます。穴は完全な円形ではなく、
一部切り欠きにより一定位置に嵌まり合う構造です。
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化粧ナットの酸化膜も研磨除去し、センスの
良いゴシック調文字盤が完全に復活しました。
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アクセサリーに過ぎない錘チェーンの錆びを落としメタルシルバーで再塗装、全体を
クリーニングしてまとわりついた埃を落とします。最後に、時報を鳴らしながら1昼夜
ほど遅進を確認してご依頼主にお返しします。室内に響く「パッポー」を聞くと、逆に
時を遡る気がします、いつか全機械式のレガシー鳩時計を修理してみたいものです。
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