ダイソン社のヘアドライヤーを初めて手にとりました。ハンディクリーナーの簡単なメンテを
したことはありますが、下手に手を入れてメーカーの保証外になるような事態は避けたい
ものです。でも、「どこに修理を頼んでも断られた」とご依頼主はおっしゃっています。電源が
入ったり切れたりを繰り返すそうで、「ダイソンにもそんなことがあるのか」と思っていました。
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ハンディクリーナーや扇風機と共通する、従来の
家電製品とは明らかに一線を画する高品質です。
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有名な「羽根のない扇風機」と同様の
原理で、強力で安定した気流を送り出します。
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ダイソン社のWEBサイトを覗いてみます。製品の種類は
限られているものの、どれも新技術が盛り沢山です。
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ヘアドライヤーには、デジタルモーター、エアマルチプライアー
テクノロジー、インテリジェント・ヒートコントロール・・等々。
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スイッチを入れると取りあえず風が吹き出ます。かなりの
騒音ですが、猛烈な風量を考慮するとむしろ静かです。
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その風が、電源コードを引くと止まってしまいます。この本体
付け根の膨らみは、内部断線の可能性を示しています。
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グリップ下端の吸気カバーを外します。
ここからエアを取り込むなど常識破りです。
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ダイソンの技術領域に足を踏み入れます。
早速立ちはだかるのはスター型のネジです。
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お預かりしている修理品に横着は許されません。
正確にフィットするドライバービットを選び出します。
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ビット長が短いため、ぎりぎりでネジ溝に届きます。
無理な力を加えないよう慎重にネジを緩めます。
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意外と長さのあるネジが使われています。
反対側のもう1本も、同様に緩めます。
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吸気カバーの内側には、非常に目の細かい
金属製のフィルターが取り付けられています。
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精密加工されたパンチングメタルのような金属板で
シェーバーの外刃に材質が良く似ています。
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フィルターを取り付けるだけにしてはやけに複雑な構造
です。4本のポストの隙間から空気が取り込まれます。
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次に分解できそうな手掛かりはこのネジです。
やはりスター型の特殊(でもない)ネジです。
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反対側までほぼ貫通し、グリップ部の
強度を保つための長いネジです。
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次に見えるこのネジ。グリップ外側には円筒形カバーを
被せているようで、カバーをグリップ本体に固定しています。
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カバーを引き抜こうにも、操作ボタンが飛び出して
いて邪魔します。押し込んであるだけでは・・
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やはりそうでした。再度はめ込む時は
少量の接着剤を入れることにします。。
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外側カバーを引き抜きます。選ばれた
材質で作られた手触り感の良いカバーです。
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グリップの内部が露わになりました。モーターや
配線はさらに内部カバーを分解した中にあります。
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下側のネジはカバーを外す前に緩めてあります。
上側は3本のネジで固定されています。
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ドライバービットを合わせてネジを緩めます。とにかく
精密な造りで、ずれ、隙間、はみ出しが見当たりません。
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操作スイッチ(反対側)の上下位置にゴムバンドが
入れられています。外側カバーのズレ防止用でしょう。
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グリップの内部構造が左右に2分割されました。中にダイソン製小型
モーターと、モーターへ接続される配線が収められています。電源
コードの内部断線を修理するにも、ここまで分解する必要があります。
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ダイソンが誇るデジタルモーターV9です。他社モーターの半分の重量で11万rpm
(max)、精度15ミクロンの13枚羽根が3.5kPaで13ℓ/sの気流を作り出すそうです。
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不具合はモーターではなくあくまでもコードの断線。
電源コードを引き込む部分の設計は各社各様です。
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ドライヤーごと振り回されるストレスに長年耐える工夫が
求められます。保護チューブの中にコネクタ接続があります。
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依頼されるほとんどのヘアドライヤー・ヘアアイロン修理が、
電源コードの内部断線です。各社共通のアキレス腱です。
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この点、ダイソン社も例外ではないようです。
しかし、内部配線の取り回しが巧妙です。
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本体内部に引き込まれた電源コードは、この硬質樹脂製のブロック部品に完全に
固定されています。コードの周りに射出成型されたものだと思います。思い切り強く
引いても、抜けてくる気配は全くありません。しかし、手前で内部断線しています。
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このブロック部品は再利用しなければなり
ません。ブロックの前後でコードを切断します。
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コードをブロック内部に強固に止めて
いる、何か仕掛けがありそうです。
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電源コードは、強度を高めるため木綿紐を編み込んで
います。切り口から、中に残った紐を取り出します。
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ですが、よほど固く締め付けられているのか、
なかなかほじくり出てきません。根気よく作業します。
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ようやく底が見えました。コードを固定していたのは金属製
ワイヤーです。ワイヤーを巻き付けてから成形したようです。
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ワイヤーを取り出すのも厄介です。ドリルを入れて
ワイヤーの肉厚をある程度落としておきます。
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コードが入る穴の内側周囲に、肉の
落ちたワイヤーが残っています。
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ようやくワイヤーの外側にドライバーの先が入り
ました。ブロックを壊さないよう引き上げます。
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ニッパで掴み直し一挙に引き出します。ここまで堅牢なコード
固定方法は見たことがありません、内部断線してますが。
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ドリルで肉を落としたはずですが、まだ
これだけ強力なワイヤーが残っていました。
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ワイヤーを取り除いた後、
穴の内部を綺麗に整えます。
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穴の底面からコードが2本の芯線に枝分かれし
各々反対側に出るための小さな穴が見えます。
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内部断線している部分を、前後に多少余裕を持たせて切り落とします。本体
付け根に近い部分は、一定範囲にわたりストレスが蓄積しているはずです。
断線個所ぎりぎりで修理すると、早々に次の断線を引き起こしかねません。
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切り落としたコードの芯線を調べてみます。すぐに断線
個所が見つかりました。ゴム製外被が伸びています。
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電源コードを新たに接続し直します。
外被を10cmほど除去します。
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編み込まれている紐を分離します。紐はコードの引張
強度を飛躍的に高めますが・・、内部断線してました。
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内部に引き込まれた先は邪魔になる
だけなので、根元で切り落とします。
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樹脂製ブロックに通してみます。製造工程では、コードの根元にワイヤーを
巻き付けておき、コードごと金型にセットして硬質樹脂を流し込むのでしょう。
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再利用するブロックにコードを固定するため、
金属用の2液性強力接着剤を使用します。
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コードを通した穴の中に接着剤を充填します。ブロックの硬質
樹脂、コードの外被ともに接着剤との親和性は高いはずです。
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電源コードの根元周囲にも接着剤を塗り付け
ます。穴の内部に空隙を残さないようにします。
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コードの根元側を押し込み、芯線側を引きだします。
穴の底にコードが密着するよう固定しておきます。
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モーター配線との接続部は、自動車用に多用される平型端子です。切り落と
してしまった元の端子は再利用が面倒なので、工房の在庫から同サイズの
ものを探し出しました。出来るだけ元の状態と同様に修復したいものです。
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各々の芯線に平型端子を取り付けます。
導線を挟む部分は強く圧着しておきます。
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平型端子の上に保護・絶縁用に
熱収縮チューブを被せます。
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モーター側のコネクタと接続します。
配線はポストの中に納まります。
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熱収縮チューブを移動させ
平型端子全体を覆います。
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ゴム製保護カバーをコード根元に引き寄せ、樹脂製ブロックと
一体にします。材質の異なる部品も精密に成形されています。
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ブロックとカバーが正確に合体していれば、
そのままグリップ本体内に隙間なく収まります。
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グリップの左右カバーを
元通り組み付けます。
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気流の通路途中にあるこのパッドの働きが良く
分かりません。静音効果をもたらす部品でしょうか。
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外側カバーをはめ込みます。かなりきつめですが、
このくらいでないと精密な組み付けが得られません。
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操作スイッチの位置を合わせ、
下端の固定ネジを締め込みます。
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フィルターを取り付けます。全ての
部品が一様に高品質な製品です。
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フィルターの固定ネジも取り付けます。高品質と
言われてきた日本製品に疑問符が付きそうです。
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吸気カバーを取り付けて作業完了です。本体を振り回しても電源コードを多少
引いても、電源が切れることはありません。ダイソンクリーナーとも共通するかん
高いモーター音、宣伝されるほど静かではありませんが、高性能を物語るかの
ように心地よく耳に残ります。ただし、ダイソン直販価格48,600円(税込)!
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